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猫カフェ

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彼女に肩を叩かれて我が家の猫カフェに入ると、僕に気づいた両親がこちらにやって来た。
「あら。あなたが彼女を連れてくるなんて珍しいわね。」
母が冷やかすように微笑みながら言った。僕は顔が熱くなり目を逸らした。
「息子さんとお付き合いさせていただいております。よろしくお願いします。」
彼女はいつもの笑顔で両親に挨拶した。
「うちの息子は頼りないだろうけど、よろしくね。」
母と彼女は顔を合わせて笑い合っていた。2人の笑顔は似ていると思った。
「好きな席に座っていいわよ。」
店内には僕らと同年代くらいのカップルが2組、それから親子連れの家族が1組いた。僕らは空いている角の席に座った。毎日見ている風景だが、客として来てみると店内は違って見えた。
「この店のルールは言わなくても大丈夫よね。飲み物は何にする?」
母は僕らにメニュー表を手渡した。
「ブラックコーヒーにしようかな。」
「私はカフェオレでお願いします。」
「かしこまりました。」
 母はまた冷やかすように微笑みながら振り返り、厨房に向かった。
 しばらく店内を見回していると、一匹の茶トラ猫が彼女の膝に乗った。彼女は幸せそうに猫を撫で、僕はその様子に見惚れていた。
「やっぱり素敵なお店ね。」
「そういえば昔は遊びに来てたんだよね。」
「10歳まではね。」
彼女は儚い表情で猫を撫で続けた。
「お待たせしました。」
 厨房から出てきた母は、僕らの飲み物をテーブルに置いた。母は彼女の膝に乗った茶トラ猫を見て言った。
「その子はオスの猫でね、女の子にしか甘えないのよ。」
「そうなんですか?」
 彼女は僕の膝に猫を乗せてみたが、嫌がるようにすぐ彼女の膝に戻った。
「ほらね。」
母はクスリと笑った。
「嫉妬してる?」
からかうように彼女は僕の目を見た。
「してないよ。」
僕がよそを向くと、母と彼女は再び顔を合わせて笑った。やはり2人とも似ている笑顔だった。彼女は母に向かって言った。
「実は昔、こちらのお店に来てたんです。」
少し間を空けて母は言った。
「大きくなったわね。」
「え?」
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