支配と救済の狭間で

東雲緋彩

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第四話

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無銘と過ごす日々は、淡々と流れていった。
けれど、それは単調な繰り返しではなかった。

最初はただの命令だった。
食事を共にし、湯に浸かり、触れることを許される。

けれど、そのすべてが、少しずつ氷雨の中に「違和感」として残るようになっていた。

――何かがおかしい。

そう思うたび、心の奥で小さな波が立つ。
だが、それが何なのかは分からない。


---

ある日、無銘は氷雨を連れて屋敷の庭へ出た。

「歩け」

「……」

「歩くくらいできるだろ」

無銘はそう言って、氷雨の手首を軽く引いた。

屋敷の庭は広かった。
草木が生い茂り、空はどこまでも広がっている。

氷雨はぼんやりと空を見上げた。

「……久しぶりに、空を見た気がします」

「そうか」

「……」

「どうだ?」

「……分かりません」

無銘は小さく息を吐く。

「お前、いつもそればっかりだな」

「……」

氷雨は無銘の手を振りほどこうとした。

だが、無銘は強くその手を握った。

「逃がさねぇよ」

「……逃げようとはしていません」

「じゃあ、俺の手を振りほどくな」

「……それと、これとは別です」

「どこが?」

「……」

答えられなかった。

その瞬間、無銘が笑う。

「お前、少しは考えるようになったな」

「……そう、でしょうか」

氷雨は自分の胸の奥に手を当てた。

何かが動いている気がする。
それが何なのかは、まだ分からない。

けれど――

「氷雨」

名前を呼ばれ、氷雨は無意識に無銘を見上げた。

「お前、ちゃんと生きてるよ」

その言葉に、心が小さく揺れた。

ほんの僅かに、けれど確かに。

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