支配と救済の狭間で

東雲緋彩

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第五話

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――生きている?

無銘の言葉が頭の中で反響する。
その意味を考えようとすると、胸の奥がざわついた。

けれど、分からない。
何も感じていないはずなのに、なぜかその言葉だけが引っかかる。

「……」

氷雨は無銘の手を見つめた。
自分の手を握っている、その大きな手を。

「俺が言うんだから間違いねぇ」

無銘は断言するように言った。

「お前は生きてる。死んでなんかいねぇよ」

「……私は、死んでいたのですか?」

「そうだな」

無銘は少し考えてから続ける。

「お前は生きてるけど、心が死んでたんだろうな」

心が死んでいる――

その言葉を聞いて、氷雨はわずかに眉を寄せた。

「……そうかもしれません」

無銘の手の温もりを感じながら、氷雨はそう呟いた。

温かい。

それがどういう意味を持つのかは分からない。
でも、その温もりを拒む理由も、もう分からなくなっていた。


---

屋敷に戻ると、無銘は食事の支度を始めた。

「お前も手伝え」

「……分かりました」

今までは出されたものを食べるだけだった。
だが、こうして自分で作るのは久しぶりだった。

材料を切る。
鍋で煮る。
湯気が立ち上り、だんだんと料理の匂いが広がっていく。

「ほら、味見しろ」

無銘がスプーンを差し出す。

氷雨は一瞬ためらったが、そのまま口に含んだ。

「……どうだ?」

「……温かいです」

「……それだけか」

「……」

言葉が出てこなかった。

味がどうだったのか、自分がどう思ったのか――分からない。

けれど、心の奥が、ほんの少しだけざわついている。

それが何なのかは、まだ分からないままだった。

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