支配と救済の狭間で

東雲緋彩

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第六話

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無銘と過ごす時間は、いつの間にか「当たり前」になっていた。
食事を作ることも、湯に浸かることも、夜を共にすることも。

――それなのに。

「お前、最近は何か考え込んでるな」

ふいに無銘が言った。

「……そんなことはありません」

「嘘つけ」

鋭い視線が、氷雨を貫く。

「お前は“何も考えない”ことで自分を保ってたんだろうが、最近はそうじゃねぇ」

「……」

「心を殺したままじゃいられなくなってる」

氷雨は無銘の言葉を否定できなかった。

確かに、何も感じないはずだった。
何も考えず、ただ言われたことだけをこなしていた。

でも――

「最近、お前の目が生きてる」

「……それは、良くないことなのですか?」

「良くないとは言ってねぇよ」

無銘は少し考えるように目を細めた。

「でも、どうしても思っちまうんだよな」

「……何を?」

「お前は、この檻の中で、ほんとに生きていたいのかって」

その言葉に、氷雨の心臓が一瞬だけ跳ねた。

「……私は」

氷雨は自分の胸に手を当てる。

心臓の鼓動が聞こえる。
生きている証。

けれど、その鼓動はいつからか微かに速くなっていた。

「……分かりません」

ようやく出てきた答えは、それだった。

無銘は黙って氷雨を見つめる。

その視線を受けながら、氷雨はふと気づいた。

――今の私は、無銘の言葉に「揺れている」。


---

その夜、無銘は氷雨を抱いた。

いつものように、静かに、乱暴でもなく、ただ確かめるように。

けれど、その手がどこか優しいことに、氷雨は気づいてしまった。

「……お前が生きるのを望むなら、俺はそれを奪えねぇな」

無銘の囁きが耳元に落ちる。

「……」

氷雨はそっと無銘の首に手を伸ばした。

指先が肌に触れる。
そこから伝わる温もりが、確かに「生きている」ものだった。

――私は、何を求めているのだろう。

答えの出ない問いが、氷雨の心に根を張り始めていた。

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