お隣どうしの桜と海

八月灯香

文字の大きさ
17 / 76

腕力

しおりを挟む
夕方母さんがキッチンで唸り声をあげているのでどうしたのか聞いたら、マスタードの瓶の蓋が硬すぎて開かない、ってなってた。

犯人はわかってる。

父さんだ、父さんはジャムでもなんでもスクリュー瓶の蓋をこれでもかって程硬く閉める癖がある。

なんなら自分でも開けられない程に。
何度注意しても加減がわからないみたいで毎度母さんはキレそうになっている。

昨日晩酌会でソーセージとか焼いたの出してた時、最後父さんが足りないってマスタード出してたもん。

使いさしのはずの瓶は溶接でもされたんじゃないかってくらい開かない。

よーし…俺のこのマッチョな腕でなんとかしてやろう。

「ふんっ!!!!!!」

無理。
嘘ついた、めちゃくちゃ硬い。
だが俺には必殺技がある。

「今度お父さんが瓶もの触ったら海も止めて。
いつもこうなるんだから…!!!」

俺はケツポケットに突っ込んだスマホを取り出し、桜に今いるかメッセージを送った。
居るならすぐ来て欲しい、と送るとすぐにやって来た。

リーサル・ウェポン召喚だ。

「どうしたの」

「くぅ~~~~!!え?あ!シグ君!?やだ海シグ君わざわざ呼んだの!?」

俺は母さんから瓶を受け取り静かに桜に瓶を渡した。
桜はそれを受け取りグッと握ると

バゴッ!

と音を立ててマスタードの封印は解かれた。

母さんと俺があんだけ格闘してもダメだった瓶の蓋が一瞬で開いた。

「「おお~…」」

俺と母さんが関心の声をハモらせた。
こういう時に持つべきものは怪力桜だな。

これでうちの夕飯のジャーマンポテトが完全な物になる。
なんかいいとこのベーコン貰ったって言ってたやつで作るって言ってたから、完璧な状態で食べたい。

こんな事で呼び出して帰れはあんまりなのでお茶してくか聞いたらするって。
母さんは晩御飯の準備してるから俺がお茶淹れます。
最近ちょっとずつ教えてもらって、ティーバッグのじゃないのも淹れれる様になって来た。
今は夏に向けてアイスティーの淹れ方も教えて貰ってる。

蜂蜜入りのアイスティーにしようと思ったら、朝食で使ったらしく全く開かなくなってたけど桜が居たから格闘せずに済んだ。

アイスティーは合格点もらえた。

御飯時には菜奈ちゃんとグンナーおじさんも来て、父さんは瓶の蓋について母さんにまた怒られていた。





就活の季節…

夏野海、高校3年の夏。
そうです、進学希望か就職活動を考えなければならない時期です。

そんなもんがまさか自分にも来てしまうことになるとは…

あれやりたい、これになりたい、手に職をつけたいとか、将来に希望があれば専門学校とか、大学もいいんだろうけど、俺には特に何かなりたい将来の夢とかは無かった。
3年あったらやりたい事見つかるかなとか思ってたけど、現時点では何も見つかってない。

勉強も赤点さえなければそれで…と努力しなかった結果なのか、夢も別にないしやりたい事もないという体たらくが完成されていた…

なので俺はちょっとだけ自分のやる気のなさに頭をかかえている。

大学進学の為に今から必死に勉強もできる気が全くしないししたくない…。

せめて卒業したら働ける様にだけ求人募集みるのはしておこうかなと思った。  


「進学しないならウミはウチで就職でしょ」

と俺の就職活動の話を夕ご飯中に聞いたグンナーおじさんがえ?なんで?違うの?っていう顔で聞いてくる。
菜奈ちゃんまで違うの?って顔してる…
桜は今日は遅くまでモデル仕事で居ない。

「せっかく仕事もいっぱい覚えてくれたしウミが他所行ったらおじさんもシグルドもちょっと困るなぁ」

きてほしいなぁ~きちゃいなよ~福利厚生もちゃんとしてるよ~ボーナスもあるよ~
と誘惑してくる。
こんな簡単で良いわけない。
面接とかいるんじゃないの?って聞いたら「面接始めます、ハイ合格」とか言ってんだけど…

父さんと母さんの顔見ても良いんじゃないって返ってくるし。
「あんた、就活してまた一年の時の夏休みバイトみたいなとこに引っ掛かったらどうすんの」とか過去の傷をほじくり返されたら何にも言い返せなかった。

「やだー!海君がまたあんな事なったらウチでまたシグルドが荒れる!」

とか菜奈ちゃんが青い顔してるし…
あの時のシグルドはデーモンだったねとかグンナーおじさんが言ってる。

これはもう流されて就職内定という事でよろしいか……な………

「え…本当に???…じゃあ…よろしくお願いします…?」

と言ったらグンナーおじさんが立ち上がってハグしにくるし、菜奈ちゃんは「良かったぁ」と両手を組んで喜んでいた。
めっちゃ可愛いな。
 

その夜、帰ってきた桜がなんか眩しい笑顔で部屋に侵入してきて俺の自分の会社への就職内定を喜んでくれた。

お前も良いのかそれで。




学校で俺より背の高い女子に廊下で呼び止められた。

下級生なのか見た事ないし名前はわかんない。

「すみません、着いてきてもらっていいですか?」

と屋上に出る踊り場に連れて行かれた。
そこには俺より少し背の小さい子が両手を握り締めて立っていた。
どっかでちょっと会った事あるな。

「マリちゃん頑張って!」

と背の高い女子は階段を降りていった。

「あ…の…急にごめんなさい」

忙しなく両手の指が動いている。

「夏野先輩…あの…今好きな人とか、付き合ってる人居なかったら…その…私、あの…夏野先輩の事好きで…付き合って欲しい…です…」

とマリちゃんと呼ばれた女の子が声を絞り出した。
マリちゃんは二年生だそうだ。
すっかり忘れていたけど、雨の日にビニ傘をあげたらしい、そういえばそんな事あったな。

その日からずっと好きになってしまって、どうしても想いを伝えたくて。

一生懸命言葉を伝えようとしてくる。

目線が真っ直ぐ合う。

清潔感のある目元が凄く魅力的で目鼻立ちが綺麗だ。

「私、夏野先輩の彼女になりたい。」

マリちゃんははっきりとした声で俺に言った。




海が俺の部屋の海の定位置でずっとため息ついたり顔を両手で覆ったりしてる。

「どうしたの?」と聞くと頭をガリガリと掻きむしっていた。

「う~~~~~!桜、さぁ。
もし桜がお?これはちょっと理想に近いな?って子から告白されたらどうする?」

と海が聞いてくる。
あぁ、また告白されたのかと思ったけど今回は海の反応が違う。
少し胸がざわつく。

「今日、一個下の女の子に告白されたんだけどさ。」

誰そいつ。
俺の海に声かける女?何そいつ。

「顔も可愛い感じだったし、でもあんま知らない子だし…どうしよう…矢作にもそろそろ経験としていいって言って試しに付き合ってみればとか言われたんだけど…」

待ってよ、そんな知りもしない女なんてやめときなよ。
海には俺が居るからいいじゃん。

「……海がしたいようにするしかないよ」

誰か他の人に気持ちなんて向けないでよ。
ずっと、俺の横にいてよ。
そんなに女抱きたい?
気持ちが落ち込んでいく。

海は「そうだよなぁ、サンキュー」と言いながら窓から出ていった。

ああ、こんな日が来てしまうのか。
こんな、激しい胸の痛みなんて感じた事ない。
こんなに女に嫉妬してるなんて海は知らない。
海、俺の事見てよ。

俺の方が、誰よりも海の事好きなのに。



後日、部屋に来た海にその後告白はどうしたのか気になって聞いたら、

「断った。付き合うなら俺ちゃんと相手の事好きになってからのがいいなぁ」

と言ってきて心底安心した。

そうだよ、海。
海に彼女なんて似合わないよ。
まだ少しだけ待って、俺が海を振り向かせるから。

お願い。
誰かを手に入れたりなんかしないで。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖
BL
溺愛ドS×天然系男子 俺様副社長から愛される。古い家柄の養子に入った主人公の愛情あふれる日常を綴っています。心臓に疾患を抱えながら、ロックバンドのボーカルとしてステージに立つ夏樹。彼を溺愛するのは、年上で俺様な副社長・黒崎圭一。夏樹は養子として名家に迎えられ、音楽と経営、二つの人生の狭間で揺れていた。それでも黒崎は、束縛と独占欲を隠すことなく、夏樹のすべてを受け止めようとする。ステージを降りる日が近づくかもしれない中、家族の問題、過去の傷、そして未来への不安が静かに忍び寄る。繋いだ手を、決して離さないと誓った二人の、溺愛と再生の物語。※本作からでもお読みいただけます。 黒崎家には黒崎の兄弟達が住んでいる。黒崎の4番目の兄の一貴に親子鑑定を受けて、正式に親子にならないかと、父の隆から申し出があり、一貴の心が揺れる。そして、親子鑑定に恐れを持ち、精神的に落ち込み、愛情を一身に求める子供の人格が現われる。自身も母親から愛されなかった記憶を持つ黒崎は心を痛める。黒崎家に起こることと、黒崎に寄り添う夏樹。 作品時系列:「恋人はメリーゴーランド少年だった。」→「恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編」→「アイアンエンジェル~あの日の旋律」→「夏椿の天使~あの日に出会った旋律」→「白い雫の天使~親愛なる人への旋律」→「上弦の月の天使~結ばれた約束の夜」→本作「青い月の天使~あの日の約束の旋律」

処理中です...