サブローと小さなおじさんと大きな昆虫

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――あの日、俺の部屋から世界の終わりが始まった。

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 ニートのサブローは、一日中ベッドに寝転び、スマホでまとめサイトを眺めていた。
 外の世界はうるさい。上司も同僚もいないこの部屋こそ、彼にとって唯一の安息の場所だった。

 その午後。ゲームのアップデートを待ちながらカップラーメンをすすっていたとき――。
 唐突に、部屋の空気が揺れた。

 目の前の空間が歪み、そこから二十センチほどの小さな軍人が現れた。
 金ボタンのついた深緑の軍服に、ピカピカの長靴。背には小さな剣。

 おじさんは整列するように直立し、重々しい声で言った。

「地球の民よ。我らの世界では、いま戦が続いている。援助を願いたい」

 サブローは思わず箸を落とした。
「……援助って、募金とかじゃなくて?」

「ちがう。生きたカブトムシ、クワガタをほしい」

 あまりに唐突な要求に、サブローは乾いた笑いをこぼした。
 だが次の瞬間、小人は剣を抜き、サブローの手首をちくりと刺した。

「痛っ!」

 確かな痛み。血まで出ていた。

「本物だと分かったか。我らはそれを兵に変える。報酬は約束する」

 そう言って、おじさんは宙に指を走らせ、光の穴を開いた。
 空間が水面のように波打ち、次の瞬間、彼の姿は消えた。

 サブローはしばらく呆然とし、それからPCを開いた。
「……生きたカブトムシ 通販」
 検索すると、出てきた。しかも「夏休み親子セット」で即納可能。

「……マジかよ」

 結局、カブトムシとクワガタを二箱ずつ注文した。
 数日後、届いたケースを机に並べたとき、またあの光が部屋に差し込んだ。

「よくぞ集めてくれた!」

 おじさんは敬礼し、仲間たちとともにケースを運び去っていった。
 そして、次に現れたとき――。

「報酬だ」

 小さな台車の上に、ぎっしりと詰まった金貨の袋が載っていた。
 どれも異世界の文様が刻まれ、指先に乗るほど小さいが、確かにずっしりと重い。

 それからというもの、サブローの部屋は夜な夜な小人の訪問で賑わった。
 ケースが積まれ、金貨が積まれ、気づけば部屋の隅には金貨の袋が山のように積まれていった。

 ある夜、サブローは勇気を出して尋ねた。
「なあ、あんたたち、何と戦ってるんだ?」

 おじさんは一瞬黙り、低い声で答えた。
「“蟲帝国(むしていこく)”だ。やつらは巨大な女王蜂を中心に、あらゆる種族を支配しようとしている」

「……で、昆虫を兵器に?」

「そうだ。我らは人工的に拡大させ、装甲を強化する」

 サブローの背筋に冷たいものが走った。
 もしかして――俺が送ってる虫が、そのまま戦争に使われてる?

 だが、金貨の輝きが、その不安をすぐにかき消した。
 気づけば、彼は昆虫を求め、オークションサイトを漁るようになっていた。

 夏の終わり、テレビのニュースが流れた。

『各地で、未知の甲虫型の巨大生物が出現しています――』

 画面には、戦車を踏み潰す巨大カブトムシの姿。
 空には羽音を響かせるクワガタの群れ。銃弾を弾き、炎を吐きながら都市を進軍していた。

 サブローは青ざめた。
 自分の部屋の金貨を見た。
 

 彼はつぶやいた。

「……オレ、もしかして――戦争のスポンサー?」

 答える者はなく、ただ窓の外から蝉の声だけが響いていた。
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