しらすの書物庫

しらす大佐

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ドラマとかでよく見る、信念を通して全てを失う奴は馬鹿だ……俺はそう思っていた。

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ドラマとかでよく見る、信念を通して全てを失う奴は馬鹿だ……俺はそう思っていた。
と、言うよりは今でも思っている。ただ、見方は少し変わった。前は救いようのない馬鹿と思っていたが今はただ馬鹿だと思っている。
俺の兄はボクシングをやっていた。俺はボクシングに興味がなかったためよく分からなかったがかなり強かったと思う。「俺の必殺の右ストレートが決まりゃ熊だろうが一撃よ」と兄は笑っていた。
ある時、兄が隣町のボクシングクラブの選手と練習試合をすることになった。というのも兄は昔そのクラブに所属しておりよく練習に付き合っていた。その流れで試合をしてくれと言われたらしい。相手は兄の友人で互いにライバルと認める人だった。試合は1週間後だから負けねぇようにしねぇとなぁと兄は笑っていた。
試合まで残り3日となった。急に兄が腕の不調を訴え病院へ行った。帰ってきた兄が腕が傷んでいることを伝えてきた俺は練習試合に行くのをやめてくれと言ったが
「大丈夫大丈夫。右手傷んでても今の全力であいつとやり合うから」と言った。
試合当日左手のみで戦っていた兄を見て相手がタイムをかけ「お前右手はどうした?」と声をかけた。兄は申し訳なさそうに腕のことを話した。相手や審判は試合を中止にしようとしたが「こいつとの試合を止めないでくれ。今の全力でこいつに勝ちたいんだ」といった兄の説得で試合を続行することになった。左腕だけで奮戦する兄との試合を終わらせるべく相手の選手が攻めに転じてきた。相手の猛攻に兄はリングサイドまで追い詰められ俺は兄がリングに倒れる姿を想像した。繰り出される右ストレートが顎に的確に吸い込まれ……

相手がマットに倒れた

俺は試合後の兄に駆け寄りどうして右手を使ったか聞いた。兄は笑いながら
「リング上でで手は抜けねぇ。ここで終わったとしても“全力で“こいつと戦いたかったし勝ちたかったんだ」といった。この試合で右手を完全に故障した兄はもう試合はできないといった。信念を通してボクシングの選手生命の全てを失った兄はそれでも後悔はないと俺に言った。
ドラマとかでよく見る、信念を通して全てを失う奴は馬鹿だ……俺はそう思っていた。
今もそう思ってるしこれからも多分そうだろう。ただそういう奴の見方は少し変わった。
前は救いようのない馬鹿と思っていたが今はただ馬鹿だと思っている。全力でぶつかり、全てを投げ出し、そうやって結果を掴み取った人間は馬鹿ほどかっこいいと……そう思った
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