犬猿の仲だけど一緒にいるのが当たり前な二人の話

ありきた

文字の大きさ
15 / 67

15話 お姉ちゃん

しおりを挟む
 バサッ。

 夜中に部屋のどこかで物音が鳴り、私は布団を跳ね飛ばす勢いで起き上がった。


「~~~~~~っっ!」


 声にならない叫びを垂れ流しながら、窓を開けて身を乗り出し、向かいの部屋の窓をドンドンと叩く。


「おっ、お姉ちゃん助けて! な、ななな、なにか変な音した! 彩愛お姉ちゃん!」


「虫!? 不審者!? よく分かんないけど、あんたは隠れてなさい!」


「あうぅ……」


 窓枠に手をかけ、私の部屋に飛び込む彩愛お姉ちゃん。

 私は指示に従い、ベッドの隅に縮こまる。

 も、もし強盗とかだったら、私も布団を放り投げるとかして、援護を……ううん、それより、私が囮になって、彩愛お姉ちゃんだけでも逃がさないと。

「――って、なにもいないじゃない」


 ベッドの隅で膝を抱えていると、明かりをつけた彩愛お姉ちゃ――じゃなくて、彩愛先輩が安堵と呆れの混じった声を漏らした。

 彩愛先輩がすぐそばにいること、危惧したような事態ではなかったこと、照明によって部屋が明るくなったこと。以上の安心要素から、私の思考が少しずつ冷静さを取り戻していく。


「そ、そうなんですか?」


「まぁ不審者は当然として、虫もいないし、特になにも――あ、制服のブレザーがハンガーから落ちてるわ」


 物音の原因を知り、自分の慌てっぷりを思い出してそこはかとない羞恥に襲われる。


「お、お騒がせしてすみませんでした。明日も学校なのに、夜中に起こしてすみません」


 重ね重ね迷惑をかけてしまった。深く頭を下げて謝罪する。


「それにしても、『お姉ちゃん』って……ぷぷっ、よっぽど怖かったのね」


「こ、怖かったんだから仕方ないじゃないですか!」


 反論しようとしたものの、もはや言い訳にすらなっていない。

 敬語も忘れてた気がするし、恐怖のあまり昔の癖が出てしまっていたようだ。


「まぁ、何事もなくてよかったわ。おやすみ」


「ほ、本当にありがとうございました。おやすみなさい」


 あくびをしながら窓を伝って自室へと戻る彩愛先輩に、改めてお辞儀しつつお礼を言う。

 不覚にも、年上とは思えない小さな背中を、この世のなによりも頼もしく感じてしまった。

***

 翌朝。今日の朝食担当は私なので、こちらの家で一緒に朝ごはんを食べた後、競うように身を押し合いながら玄関で靴を履く。


「あはっ、何回思い出しても笑えるわよね。昨夜の歌恋ったら、服が落ちたぐらいで泣きそうになっちゃって。お姉ちゃんとしては、今朝おねしょしなかったかどうかが気になるところだわ」


 彩愛先輩は口元に手を当て、あからさまな嘲笑を漏らした。


「高校生にもなっておねしょなんてしませんよ!」


 私はいまにも殴りかかりそうな勢いで、ピシャリと言い放つ。

 このやり取りは、家を出る時点で数十回と繰り返されている。

 登校中はもちろん放課後にも同じネタでからかわれ続けるのかと思うと、苛立ちのあまり回し蹴りをお見舞いしてしまいそうだ。

 昨夜は不覚にも彩愛先輩相手にドキドキしてしまったけど、あれはきっと気のせいに違いない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【百合】Liebe 二部開始

南條 綾
キャラ文芸
人と一線引いた少女のお話 あの時あなたを助けた時から気になった。 あなたにあって私の景色が色が付いた

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

処理中です...