私がガチなのは内緒である

ありきた

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2章 私と萌恵ちゃんは恋仲である

22話 せめて知識だけでも

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 外は土砂降り。強風に煽られた大粒の雨が、窓を勢いよく叩く。
 せっかくの休日だけど、さすがに散歩もできない。
 私は萌恵ちゃんと並んで壁にもたれ、テーブルに置いたノートパソコンで動画を見ている。
 内容は思ったほど面白くなくて、会話もいつもと比べて多くはない。
 それなのに。
 自分でも不思議だけど、すごく充実しているように感じる。多分、他の人が相手だとこんな感想は抱かないはずだ。

「萌恵ちゃんは退屈じゃない?」

「全然。真菜と一緒だからね~」

 気になって隣を向いて問いかけると、萌恵ちゃんは笑顔で即答してくれた。
 もう、本当に大好き!
 キスしたいけど、さっきしたばかりだから少し自重する。
 キスと言えば、いつになったらえっちできるんだろう。
 焦る必要はない、って意見は変わらない。
 無理したところで鼻血を出して終わるということも、すでに分かっている。
 この前はいい雰囲気になったところを中断されたけど、もし宅配のお姉さんが来なかったとしても、結局は最後までできなかった気がする。
 でも、やっぱり……えっち、したいなぁ。

「真菜、ちょっと調べ物していい?」

「え? うん、もちろん」

 ハッキリ言って萌恵ちゃんのことしか意識になかったから、動画を途中で止められても問題はない。
 でも、スマホじゃなくてパソコンを使うのは珍しい。

「なにを調べるの?」

「え、えっと、真菜にも関係あることだから、一緒に見てほしいな~」

 いまいち要領を得ない答えだ。
 ハッキリとした性格の萌恵ちゃんが言いよどむこと……もしかして?

「なるほど」

 検索画面に入力されたキーワードを見て、すんなり納得できた。
 私の読みは正しかったらしい。
 萌恵ちゃんが口にするのを憚るのは、得てして性的な内容である。
 
『女の子同士 えっち やりかた』

 有用性や信頼度はともかく、実に百万件以上の検索結果が出ていた。
 いけないことをしているような気持ちになり、どのサイトを開こうかという段階で頭を悩ませる。

「萌恵ちゃん、えっちなこと知りたいの?」

「そ、そう言われると恥ずかしいけど……うん、知りたい。真菜がいろいろ考えてくれてるのはすごく伝わってくるから、あたしもせめて知識ぐらいは持っておきたいなって」

 その一言で救われた気がする。
 オナ――自慰のやり方を説明したのも、いやらしい気持ちで萌恵ちゃんの胸を触って鼻血を出したことも、すべて報われた気分だ。
 いや、まぁ、実際のところ初体験にこぎつけていないわけだから、満足したらダメなんだけど。

「う~ん、どうしよう。年齢制限がありそうなサイトは抵抗あるし……う~ん」

 萌恵ちゃんが検索結果の一覧ページを上下にスクロールしながら悩ましげに呻く。
 ここで上級者らしくアドバイスしてあげようかと思ったところで、私は衝撃の事実に気が付いた。
 ――そう言えば私、べつに詳しいわけじゃないんだよね。
 小学生の頃にはすでに萌恵ちゃんの体を見てムラムラしてたし、中学生に入ってからは毎日のように萌恵ちゃんを想って自分の体を触っていた。
 とはいえ、自分の指を萌恵ちゃんの唇に見立ててキスしてみたり、萌恵ちゃんに触られていると思って胸を揉んだり乳首を弄ったりする程度。
 高校生になったいまでも、下の方は割れ目を指でなぞるぐらいしかしていない。
 変態的な欲求は日頃の生活で勝手に生まれたものだし、自分の性癖がジャンルとして世にあるかどうかも分かっていない。
 詳しく調べたことがないのだから、当然と言えば当然だけど。
 いままで性に関しては私の方が上級者だと勝手に豪語していただけで、実はただの勘違いだったのでは?
 という疑問が確信に変わり、私は改めて一から勉強するつもりで画面に注目する。

「あっ、萌恵ちゃん。こことかどうかな?」

 多数の体験談を集めたというサイトが目に入り、指を差す。
 行為の指南などを記載したサイトだと、場合によっては卑猥な画像が貼られている可能性もある。勉強と考えれば適切だけど、さすがに刺激が強い。
 体験談ならその心配もないし、なにより先達の意見として参考にできる部分が多そうだ。

「いいね! じゃあ、まずはこのサイトから!」

 と、私が示したサイトをクリック。
 ページが読み込まれ、画面が変わる。
 期待していた以上に良心的なサイトだったらしい。
 怪しげな広告やいかがわしい文言はなく、純粋に女性同士での性行為に戸惑ったり悩んだりしている人へのアドバイス目的で立ち上げられているようだ。

「ふむふむ、なるほど~」

 萌恵ちゃんが真剣に目を通し、コクコクとうなずく。
 最近は百合趣味の人――というより、百合趣味であることを打ち明ける人が増えているとのこと。
 確かにそうかも。私たちが通う学校は特に顕著だ。

「ひゃうっ!」

 いよいよ体験談のコーナーに移ると、食い入るように画面を覗く私に反し、萌恵ちゃんは内容の過激さに思わず両手で顔を塞いだ。
 無理もない。いかにも大人の関係といった内容で、多少なりとも予想していた私ですら顔が熱い。
 読み進めていくと、私たちよりかなり年上の人はもちろん、同い年や年下の体験談も載っていた。
 年が近ければより参考になるかと思ったけど……私と萌恵ちゃんには早すぎる内容でした、はい。
 だけど、そうか……指は考えてたけど、手を……怖い気もするけど、いつか萌恵ちゃんにやってもらいたい、かも……。

「う、あぅ、はぅぁ……」

 萌恵ちゃんが顔を真っ赤にして目を見開いている。
 顔中から蒸気を噴き出してもおかしくないぐらい赤面していて、相当に刺激が強かったようでうっすらと涙を浮かべていた。
 かく言う私も、動揺を禁じ得ない。
 なまじ自分と萌恵ちゃんを体験談に当てはめて想像してしまったせいで、普段の妄想より鮮明に脳内で再生され、尋常じゃない興奮をもたらした。

「も、萌恵ちゃん、今日はこのぐらいにしておかない?」

「そっ、そうだね。す、すごく勉強になったよ!」

 最後まで閲覧するのは、私たちにはまだ早い。
 予想外に刺激的だったけど、私の感想も萌恵ちゃんと同じだ。
 自分だけでは分からなかったことを、しっかりと勉強できた。
 もちろん、体験談をそのまま実践しても意味がないことは分かっている。
 あくまで参考程度に留め、自分たちに合ったやり方を模索するのが大事。
 それと、ある意味最重要であり見落としがちなことにも気付けた。
 ふと自分の爪に目をやる。

「うーん……」

 生活する分には問題ないけど、いずれ来るのことを考えると少し長いかもしれない。
 自分の命よりも大切な萌恵ちゃんの体。その最もデリケートな場所を傷付けるなんて言語道断だ。
 これまでより短めに爪を切るようにしようと決め、爪切りを取りに行く。
 私が立ち上がると同時に萌恵ちゃんも腰を上げたけど、目的を告げると少し驚いて再び座った。

「真菜、次あたしに貸して~」

 爪切りを手に元の場所に戻ると、萌恵ちゃんが笑顔でそう言った。
 萌恵ちゃんも同じことを考えていたようだ。
 やっぱり私たちって一心同体なんだと思い、こちらも思わず笑顔になって「うんっ」と明るく返事をする。
 この日から私たちは、以前よりも短めに爪を切りそろえるようになった。
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