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5話 かけがえのない存在
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放課後。一度家に帰った後、物置からバドミントンの道具を取り出し、雫ちゃんと一緒に近所の公園へ足を運んだ。
幸いにも他に人がいないので、遠慮せず動き回れる。
ブレザーを脱いでベンチに置き、軽く準備運動して数メートルほど離れた位置に立つ。
「行くよ~!」
あたしは掛け声を発しつつラケットを振りかぶり、第一打を放った。
久しぶりだけど、感覚は鈍っていない。シャトルはきれいな放物線を描き、狙い通り雫ちゃんが返しやすい場所に飛んでいく。
「んっ」
雫ちゃんの腕も錆び付いていないようだ。
何年か前に二人でやったときのことを思い出しながら、ひたすらにラリーを続ける。
シャトルを目で追い続けていると必然的に上を向きっ放しになるため、だんだんと首が痛くなってきた。
そろそろ休憩を挟んだ方がいいかな。
「――あっ、栞じゃん。楽しそうなことしてるねー」
「へ?」
後ろから声をかけられ、反射的に振り向く。
歩道から公園を覗くように、近所に住むクラスメイトが他校の子と一緒に立っていた。
「雫ちゃん、ちょっと待っててね」
「はい」
あいさつぐらいは交わしておこうと思い、雫ちゃんに一言告げてから友人のところへ歩み寄る。
ついでに、さっき空振りして後方に飛んで行ったシャトルも拾っておく。
「そっちはいま帰り?」
「まーね。この子と待ち合わせてたから、ちょっと時間かかっちゃった」
クラスメイトが答えると、同伴の子がぺこりとお辞儀した。
見慣れない制服だ。バスか電車で来たのだろうか。
せっかく遊びに来たんだから、あんまり引き留めるのも悪いよね。
あたしもあたしで、雫ちゃんを待たせたくない。
様子が気になって振り向くと、いつも以上に不機嫌そうにこちらを睨み付けていた。
あぁ、あれは表情だけじゃなく内心まで不機嫌なときの顔だ。ちゃんと謝らないと。
「うわ、あの子めっちゃ睨んでるよ。栞の知り合い? 前に写真撮ってた子だよね。面倒見るの大変そう」
……は?
その言葉を聞いた瞬間、あたしは無意識のうちに口を開いていた。
「ふざけたこと言わないで! 雫ちゃんはあたしにとって世界一大切な、かけがえのない恋人だよ! 面倒見てもらってるのはむしろあたしの方だし、大変だなんて思ったこと一度もない! 睨んでるのだって、元はと言えばあたしが悪いんだから!」
「え? あ、う……ご、ごめん、そうだったんだ。なにも知らないのに、ちょっと言い過ぎたよ」
唖然とした様子の友人を見て、ハッと冷静になる。
しまった! 勢い余ってあたしたちの関係バラしちゃった! 付き合ってるって秘密なのに! しかも思いっきり怒鳴ったりして!
うわぁあああどうしよう!
焦って雫ちゃんの方を見ると、顔を真っ赤にして、ラケットを落とし、なにかを堪えるように両手で口元を覆っていた。
よかった、怒ってない。
「あ、あたしもごめん! 雫ちゃんを悪く言われた気がして、ついカッとなっちゃった」
こんなに激怒したのは、生まれて初めてだ。
怒って勝手に言葉が出てくるなんてこと、本当に起こるんだなぁ。
「いや、悪いのは完全にこっちだよ。あと、付き合ってるの秘密なんでしょ? 誰にも言わないから安心して。それに、実はうちらも付き合ってるんだよね。よかったらさ、今度みんなで話したりWデートしたりしようよ」
衝撃の事実をサラッと打ち明けられ、思わず目を見開く。
本当のことだと証明するかのように、彼女さんがニコッと微笑んだ。
「うん、ぜひ! あたしはそろそろ雫ちゃんのとこに戻るよ。二人とも、デート楽しんでね!」
あたしは二人に別れを告げ、踵を返す。
クラスメイトは「うちらの関係も秘密だから、他言無用でよろしくー」と言い残して立ち去った。
「雫ちゃん、ごめん! 内緒にしてたのに、思わず言っちゃった!」
雫ちゃんの元に駆け寄り、深々と頭を下げて謝罪する。
「べ、べつに気にしてないです。そんなことより、私のためにあそこまで必死になってくれて……それに、世界一大切って……あぅ……ごめんなさい、嬉しいのに……嬉しすぎて、涙が……私も、栞先輩のこと、大好きですっ。世界で一番、大切ですっ」
雫ちゃんは溢れる涙を拭い、満面の笑みで告げた。
これはズルいよ。
約束を守って、社会人になるまで我慢するつもりだったのに……。
こんなに素敵な笑顔を向けられて、気持ちを抑えられるわけないじゃん。
「約束、破るね」
あたしは目線を合わせるように身を屈め、雫ちゃんの唇に自らのそれを重ねた。
突然のキスに、雫ちゃんが驚愕の表情を浮かべる。でも、それは一瞬だけ。
気持ちを受け入れる証とばかりに、スッと瞳を閉じた。
あたしも同様にまぶたを下ろし、キスの快楽に意識を沈めていく。
***
バドミントンを続ける気分ではなくなり、お互いに顔の火照りが冷めやらぬまま帰路を歩む。
いやぁ、我ながら大胆なことをしてしまった。
キスって、あんなに気持ちいいんだ。まだ頭の中がぽわぽわする。
「雫ちゃん、ごめんね。社会に出てからっていう約束だったのに。元からそのつもりだけど、ちゃんと責任を取って、一生大切にするからね!」
「っ!? は、はい……す、末永く、よろしくお願いします」
雫ちゃんは視線を伏せ、スッと指を絡めてきた。
あたしは意図せずプロポーズしたことに気付くけど、伝える時期が早まっただけだ。慌てる必要はない。
自分のより少し小さな手をギュッと握り返し、歩幅を合わせて同じ道を進む。
願わくは、何歳になってもこうして隣を歩きたい。
「足腰、鍛えないといけませんね」
思考を読み取ったかのようなタイミングで、雫ちゃんがポツリと漏らした。
言葉にしなくても気持ちが分かるのは、どうやらお互い様だったらしい。
幸いにも他に人がいないので、遠慮せず動き回れる。
ブレザーを脱いでベンチに置き、軽く準備運動して数メートルほど離れた位置に立つ。
「行くよ~!」
あたしは掛け声を発しつつラケットを振りかぶり、第一打を放った。
久しぶりだけど、感覚は鈍っていない。シャトルはきれいな放物線を描き、狙い通り雫ちゃんが返しやすい場所に飛んでいく。
「んっ」
雫ちゃんの腕も錆び付いていないようだ。
何年か前に二人でやったときのことを思い出しながら、ひたすらにラリーを続ける。
シャトルを目で追い続けていると必然的に上を向きっ放しになるため、だんだんと首が痛くなってきた。
そろそろ休憩を挟んだ方がいいかな。
「――あっ、栞じゃん。楽しそうなことしてるねー」
「へ?」
後ろから声をかけられ、反射的に振り向く。
歩道から公園を覗くように、近所に住むクラスメイトが他校の子と一緒に立っていた。
「雫ちゃん、ちょっと待っててね」
「はい」
あいさつぐらいは交わしておこうと思い、雫ちゃんに一言告げてから友人のところへ歩み寄る。
ついでに、さっき空振りして後方に飛んで行ったシャトルも拾っておく。
「そっちはいま帰り?」
「まーね。この子と待ち合わせてたから、ちょっと時間かかっちゃった」
クラスメイトが答えると、同伴の子がぺこりとお辞儀した。
見慣れない制服だ。バスか電車で来たのだろうか。
せっかく遊びに来たんだから、あんまり引き留めるのも悪いよね。
あたしもあたしで、雫ちゃんを待たせたくない。
様子が気になって振り向くと、いつも以上に不機嫌そうにこちらを睨み付けていた。
あぁ、あれは表情だけじゃなく内心まで不機嫌なときの顔だ。ちゃんと謝らないと。
「うわ、あの子めっちゃ睨んでるよ。栞の知り合い? 前に写真撮ってた子だよね。面倒見るの大変そう」
……は?
その言葉を聞いた瞬間、あたしは無意識のうちに口を開いていた。
「ふざけたこと言わないで! 雫ちゃんはあたしにとって世界一大切な、かけがえのない恋人だよ! 面倒見てもらってるのはむしろあたしの方だし、大変だなんて思ったこと一度もない! 睨んでるのだって、元はと言えばあたしが悪いんだから!」
「え? あ、う……ご、ごめん、そうだったんだ。なにも知らないのに、ちょっと言い過ぎたよ」
唖然とした様子の友人を見て、ハッと冷静になる。
しまった! 勢い余ってあたしたちの関係バラしちゃった! 付き合ってるって秘密なのに! しかも思いっきり怒鳴ったりして!
うわぁあああどうしよう!
焦って雫ちゃんの方を見ると、顔を真っ赤にして、ラケットを落とし、なにかを堪えるように両手で口元を覆っていた。
よかった、怒ってない。
「あ、あたしもごめん! 雫ちゃんを悪く言われた気がして、ついカッとなっちゃった」
こんなに激怒したのは、生まれて初めてだ。
怒って勝手に言葉が出てくるなんてこと、本当に起こるんだなぁ。
「いや、悪いのは完全にこっちだよ。あと、付き合ってるの秘密なんでしょ? 誰にも言わないから安心して。それに、実はうちらも付き合ってるんだよね。よかったらさ、今度みんなで話したりWデートしたりしようよ」
衝撃の事実をサラッと打ち明けられ、思わず目を見開く。
本当のことだと証明するかのように、彼女さんがニコッと微笑んだ。
「うん、ぜひ! あたしはそろそろ雫ちゃんのとこに戻るよ。二人とも、デート楽しんでね!」
あたしは二人に別れを告げ、踵を返す。
クラスメイトは「うちらの関係も秘密だから、他言無用でよろしくー」と言い残して立ち去った。
「雫ちゃん、ごめん! 内緒にしてたのに、思わず言っちゃった!」
雫ちゃんの元に駆け寄り、深々と頭を下げて謝罪する。
「べ、べつに気にしてないです。そんなことより、私のためにあそこまで必死になってくれて……それに、世界一大切って……あぅ……ごめんなさい、嬉しいのに……嬉しすぎて、涙が……私も、栞先輩のこと、大好きですっ。世界で一番、大切ですっ」
雫ちゃんは溢れる涙を拭い、満面の笑みで告げた。
これはズルいよ。
約束を守って、社会人になるまで我慢するつもりだったのに……。
こんなに素敵な笑顔を向けられて、気持ちを抑えられるわけないじゃん。
「約束、破るね」
あたしは目線を合わせるように身を屈め、雫ちゃんの唇に自らのそれを重ねた。
突然のキスに、雫ちゃんが驚愕の表情を浮かべる。でも、それは一瞬だけ。
気持ちを受け入れる証とばかりに、スッと瞳を閉じた。
あたしも同様にまぶたを下ろし、キスの快楽に意識を沈めていく。
***
バドミントンを続ける気分ではなくなり、お互いに顔の火照りが冷めやらぬまま帰路を歩む。
いやぁ、我ながら大胆なことをしてしまった。
キスって、あんなに気持ちいいんだ。まだ頭の中がぽわぽわする。
「雫ちゃん、ごめんね。社会に出てからっていう約束だったのに。元からそのつもりだけど、ちゃんと責任を取って、一生大切にするからね!」
「っ!? は、はい……す、末永く、よろしくお願いします」
雫ちゃんは視線を伏せ、スッと指を絡めてきた。
あたしは意図せずプロポーズしたことに気付くけど、伝える時期が早まっただけだ。慌てる必要はない。
自分のより少し小さな手をギュッと握り返し、歩幅を合わせて同じ道を進む。
願わくは、何歳になってもこうして隣を歩きたい。
「足腰、鍛えないといけませんね」
思考を読み取ったかのようなタイミングで、雫ちゃんがポツリと漏らした。
言葉にしなくても気持ちが分かるのは、どうやらお互い様だったらしい。
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