恋愛、はじめました

ありきた

文字の大きさ
上 下
11 / 25

11話 お泊り①~チャンス到来~

しおりを挟む
 五限目が終わってスマホを開くと、家族用のLINEグループに連絡が届いていた。仕事の都合で、二人とも明日の朝まで帰れそうにないらしい。
 幸いにも明日は休日だ。家事はわたしに任せて、ゆっくり休んでもらおう。
 ――あれ? よく考えたら、これってチャンスなのでは?

「つぐみさん、今日って部活が終わってから予定ありますか?」

 廊下でつぐみさんと合流して軽いあいさつを交わした後、すぐさま質問を投げる。

「ないよー。美夢ちゃんも空いてるなら、どこか遊びに行く? 時間が時間だから、場所は限られちゃうけど」

 やった!
 第一条件をクリアし、心の中で盛大にガッツポーズを決める。

「よ、よかったら、うちに来ませんか?」

 つぐみさんを家に誘うのは二度目とはいえ、やっぱり緊張してしまう。

「えっ、いいの? 行く行く~!」

「それで、あの……お泊りなんて、どうかなって、その……思っているん、ですけど……」

「わーっ、楽しそう! でもいいの? 急に泊まったりして迷惑じゃない?」

 断られるかもしれないという不安から解放され、ホッと胸を撫で下ろす。
 両親が朝まで不在であることを説明し、晴れて初のお泊り会が決行されることとなった。

***

 六限目と部活を経て、集合場所である校門前に駆け付ける。
 つぐみさんは一度寮に戻って支度する必要があるので、もう少しかかるはず。

「美夢ちゃんっ、お待たせ!」

 予想の何倍も早く、つぐみさんが姿を現した。
 肩で息をしていて、真冬なのに汗だくだ。どれだけ急いでくれたのか、一目で分かる。

「全然待ってないですよ。むしろ、つぐみさんがこんなに早く来てくれて驚いてます」

「美夢ちゃんと少しでも長く、一緒にいたかったからね。後先考えず、全力疾走しちゃった。ふー……よしっ、もう大丈夫! 息も整ったし、そろそろ行こっか」

 え? えっ?
 つ、つぐみさんが、わたしと少しでも長く一緒にいたいって……ど、どうしよう、嬉しすぎて泣きそう。

「はい、行きましょうっ」

 涙をグッと堪え、笑顔で答える。

「あっ。でも、まずは汗を拭いてください。風邪を引いたら大変です」

 わたしはバッグからハンカチを取り出し、つぐみさんの汗を拭った。
 そして肩を並べて歩き出し、コンビニに寄ってジュースとお菓子を調達してから家に向かう。
 学校からそう離れていないとはいえ、家に着く頃にはすっかり辺りが暗くなっていた。
 荷物を置いて手洗いうがいを済ませたら、さっそく晩ごはんの支度に取り掛かる。
 愛情をたくさん込めたごはんを味わってもらった後は、給湯ボタンを押してから部屋に移り、小一時間ほど話し込む。

「そろそろお風呂が沸きますね。せっかくですから、一緒に入りますか?」

 なんて、冗談半分で言ってみる。
 旅館や銭湯ならともかく、家のお風呂に二人で入るのはさすがに窮屈だ。
 わたしとしては大歓迎だけど、きっと断られるだろうなぁ。

「そうだね、一緒に入ろう!」

 ………………へ?
 自分から提案したものの、まさか受け入れてもらえるとは思っておらず、驚きのあまり目を丸くする。

***

 つぐみさんと一緒にお風呂。
 着替えを持って脱衣所に足を踏み入れてようやく、この夢のような出来事を、現実として認識することができた。
しおりを挟む

処理中です...