恋愛、はじめました

ありきた

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最終話 最愛の恋人と共に

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 卒業式を終え、わたしたちが一年生でいる期間も残すところあとわずかとなった。
 思い返してみれば楽しい出来事ばかりで、充実した一年だったと心から断言できる。
 特につぐみさんとの出会いは、間違いなく人生をいい方向に一変させてくれた。
 今日は最愛の恋人であるつぐみさんから、放課後に少し教室に残ってほしいと言われている。
 なにやら重要な話があるらしいんだけど、わたしの胸中はあまり穏やかじゃない。
 居残るようお願いされた時、つぐみさんはこの上なく神妙な面持ちだった。
 万が一、別れ話だったら……。
 いやいや、まさかそんな。
 絶対に有り得ないと思っていても、不安は徐々に大きくなっていく。
 幸せの絶頂から不幸のどん底に落ちた時、わたしは正気でいられるのだろうか。
 なんてことを考えていると、気付けば教室にはわたし一人しかおらず、少し遅れて廊下の方からつぐみさんが姿を現した。

「美夢ちゃん、お待たせ。ごめんね、残ってもらっちゃって」

「い、いえ、全然大丈夫ですよ。ところで、話というのは……」

 あまりにも気になりすぎて、単刀直入に疑問をぶつける。
 すると、つぐみさんは一瞬表情をこわばらせ、苦笑いを浮かべて気まずそうに視線を泳がせた。
 珍しい反応に、嫌な予感は脳内で存在感を増していく。
 つぐみさんは胸に手を当てて深呼吸を繰り返し、わたしとしっかり目を合わせてから、ゆっくりと口を開いた。

「卒業してからの話なんだけど、その……美夢ちゃんっ、わたしと一緒に暮らしてください!」

 よかった、別れ話ではなかっ――あれ?
 別れ話どころか、その真逆のこと言われなかった?

「ぁ、ぇう、ひゃいっ、ぜひ!」

 予想外の申し出に動揺しつつも、どうにか声を振り絞って返答する。
 え? え?
 一緒に暮らす?
 わたしとつぐみさんが?
 それって、つまり――

「ど、同棲ってことですか!?」

 すでに返事をした後なのに、改めて驚いてしまう。

「卒業後だから、まだまだ先の話だけどね」

 つぐみさんが照れ臭そうに微笑む。
 その表情に先ほどのような堅苦しさはなく、重度の緊張から解放されたことが見て取れる。
 神妙な面持ちだったことも、いつもと様子が違っていたことも、すべてに合点がいった。

「つぐみさんっ」

 心からの安堵と歓喜を覚え、体が勝手に反応する。
 前触れなくガバッと抱き着いたわたしを、つぐみさんはしっかりと受け止めてくれた。

「驚かせちゃってごめんね」

「いえいえ。わたしの方こそ、別れ話だったらどうしようって少しでも不安に思ってすみませんでした」

「わたしは美夢ちゃんと別れるなんて、一生有り得ないと思ってるよ?」

「わたしも同じですけど……って、え? い、一生? それって……っ!」

 吐息がかかるほどの距離で見つめ合う中、つぐみさんがコクリとうなずく。
 誇張でも冗談でもないと、その眼差しが力強く語っている。

「美夢ちゃんのこと、必ず幸せにするからね」

 望外の一言によって感極まり、わたしは喜びのあまり大粒の涙をこぼした。
そして部活に遅れてしまうことを承知の上で、つぐみさんを思いっきり抱きしめる。
 つぐみさんは困ったり咎めたりすることなく、優しく受け入れてくれた。

***

 盛大な嬉し泣きで目を腫らして部活を休んだ翌日、わたしたちはいつも通り廊下に集まって雑談を楽しんでいる。

「進路のことももちろんだけど、新居についても早めにいろいろ考えないとね」

「同感です。特に防音性に関しては、とことんこだわりたいです」

「防音性ってそんなに大事なの?」

「もちろんですよ。愛し合う二人が一つ屋根の下で暮らすんですから、音がだだ漏れだと大変なことになっちゃうじゃないですかっ」

 屈託のない表情で小首を傾げるつぐみさんに、わたしは熱意を込めて早口でまくし立てた。

「それってどういう……あっ! そ、そうだよね、確かに防音性は大事だよね」

 つぐみさんがなにかにハッと気付き、うんうんと何度もうなずく。
 顔を真っ赤にして照れているあたり、真意を察してくれたことは間違いない。
かわいらしい反応も拝めたし、『愛し合う二人』という言葉をあえて使った甲斐があった――と言ったら、怒られてしまうだろうか。

「実はペアルックにも興味があるんですけど、つぐみさんはどうですか?」

「すっごくいいと思うっ」

「ふふっ、卒業後の楽しみがまた一つ増えました」

「美夢ちゃん、ちょっと待って。ペアルックは卒業を待たなくてもいいんじゃないかな?」

「言われてみれば、確かにそうですね」

「そろそろ春休みだし、今度一緒に買いに行こうよっ」

「つ、つぐみさんからデートのお誘い……はいっ、行きます! なにがなんでも行きます!」

 恋人つなぎをした手をギュッと握りしめ、わたしは満面の笑みを浮かべて答えた。
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