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ジルが雑多に育てている新種の花の蕾の一つから、ふわりとした芳香とともに、ひとりの少女が現れた。しかし、白に近い真っ直ぐな銀髪に、薄い青の瞳の少女であった。
身長は高く、痩せていて、目は小さくはないが切れ長で、ややつり目。美しくはあるが、全くジルの思い描いていた姿形ではなかった。
「なんだ、お前は?」
天使はやや、がっかりしながら彼女に問いかけた。
少女は眩しげに目を細め、自分の頬をさすりながら答える。
「色白なのはいいとして、悪役令嬢と言えば銀髪ですわよ」
「そう……なのか?」
「はい。ピンクの髪に翠の瞳だなんて、適当に考えたでしょう」
「ダメなのか?」
「悪役令嬢を生み出すセンスがなさすぎですわ」
天使のジルは面食らったが、まあ「悪役」ならばそんなものだろうと、反論を飲み込む。
「なんとなく青い目にしましたけれど、あなたの紫の瞳もいいですわね」
少女は立ち上がり、ジルの顔を覗き込み、ぎこちなく瞼をパチパチとさせた。すると、瞳の色はジルと同じ明るい紫に変わった。
天使は見つめられて思わず赤面したが、自分の「創造」する力が優れすぎていたのだと、目を閉じて気持ちを落ち着かせた。
「馬鹿を言うな。紫は高貴な色なんだ。勝手に真似するんじゃない」
しかし、生まれたばかりの悪役令嬢はそんなことは気に留めていないようで、一糸纏わぬ姿で雲の上を物珍しげにうろうろしている。
「まずは服を着せなきゃな」
ジルは雲の上から身を乗り出し、下界を覗き込んだ。ちょうど、一軒の貴族御用達の服屋がある。
「ほら、あそこから好きなのを選ぶんだ」
「貴方が選んでくださいな」
なぜそこだけ素直なのか。ジルはその文句を喉のあたりに留め、薄い水色にレースの縁飾りがついたドレスを少女に与えた。
「似合いますか?」
ドレスの裾をつまみ、名前のない令嬢はくるくると回って見せた。
「ああ」
ジルは満足げに頷いた。
失敗してしまったようだが、生まれてしまったものは仕方がない。それに、やはり自分の設定は無理があったのだとジルは考えた。悪役令嬢あれ、と言ってやって来たのだから、彼女こそがこの世界の「悪役令嬢」なのは疑いようのない事実なのだ。
「おまえの名前は……」
天使は気を取り直して少女に名前を付けることにした。セリーヌ、もしくはアンジュ、ブランシュ……。
「わたくしはヴァレリアですわよ?」
令嬢はこてん、と首を傾げた。その表情は、「何を今更」とでも言いたげであった。
「そうなのか?」
「はい。ヴァレリア・クオーレですわ」
「わかった」
本人がそうだというのだから、そうなのだろう。正直なところ、ジルにとってはどうでも良い話ではあった。
身長は高く、痩せていて、目は小さくはないが切れ長で、ややつり目。美しくはあるが、全くジルの思い描いていた姿形ではなかった。
「なんだ、お前は?」
天使はやや、がっかりしながら彼女に問いかけた。
少女は眩しげに目を細め、自分の頬をさすりながら答える。
「色白なのはいいとして、悪役令嬢と言えば銀髪ですわよ」
「そう……なのか?」
「はい。ピンクの髪に翠の瞳だなんて、適当に考えたでしょう」
「ダメなのか?」
「悪役令嬢を生み出すセンスがなさすぎですわ」
天使のジルは面食らったが、まあ「悪役」ならばそんなものだろうと、反論を飲み込む。
「なんとなく青い目にしましたけれど、あなたの紫の瞳もいいですわね」
少女は立ち上がり、ジルの顔を覗き込み、ぎこちなく瞼をパチパチとさせた。すると、瞳の色はジルと同じ明るい紫に変わった。
天使は見つめられて思わず赤面したが、自分の「創造」する力が優れすぎていたのだと、目を閉じて気持ちを落ち着かせた。
「馬鹿を言うな。紫は高貴な色なんだ。勝手に真似するんじゃない」
しかし、生まれたばかりの悪役令嬢はそんなことは気に留めていないようで、一糸纏わぬ姿で雲の上を物珍しげにうろうろしている。
「まずは服を着せなきゃな」
ジルは雲の上から身を乗り出し、下界を覗き込んだ。ちょうど、一軒の貴族御用達の服屋がある。
「ほら、あそこから好きなのを選ぶんだ」
「貴方が選んでくださいな」
なぜそこだけ素直なのか。ジルはその文句を喉のあたりに留め、薄い水色にレースの縁飾りがついたドレスを少女に与えた。
「似合いますか?」
ドレスの裾をつまみ、名前のない令嬢はくるくると回って見せた。
「ああ」
ジルは満足げに頷いた。
失敗してしまったようだが、生まれてしまったものは仕方がない。それに、やはり自分の設定は無理があったのだとジルは考えた。悪役令嬢あれ、と言ってやって来たのだから、彼女こそがこの世界の「悪役令嬢」なのは疑いようのない事実なのだ。
「おまえの名前は……」
天使は気を取り直して少女に名前を付けることにした。セリーヌ、もしくはアンジュ、ブランシュ……。
「わたくしはヴァレリアですわよ?」
令嬢はこてん、と首を傾げた。その表情は、「何を今更」とでも言いたげであった。
「そうなのか?」
「はい。ヴァレリア・クオーレですわ」
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本人がそうだというのだから、そうなのだろう。正直なところ、ジルにとってはどうでも良い話ではあった。
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