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「さて、ヴァレリア。これからお前には存分に活躍してもらう」
「嫌ですわ」
「なっ」
心底つまらなさそうな顔をしたヴァレリアに、ジルは面食らう。
「お前、自分が何のために……」
「『お前』ではありません。ヴァレリアです。私は「令嬢」ですのよ。働くなんて、嫌ですわ」
「おま……ヴァレリアには、大活躍してもらわないと困るんだよ」
「私が活躍するとどうなるんですの?」
「この世界が評価され、人が集まると、俺が出世できる」
「それで?」
「そりゃあ、嬉しいんだ。あと、もっと大きな世界を任せてもらえる」
ヴァレリアは考え込む仕草を見せた。
「それではわたくしは、貴方が出世するために、不幸になるために生まれて来たのですか?」
その言葉に、ジルはたじろぐ。ヴァレリアの紫の瞳が、強い自我を持ってきらめいている。
「そういう訳、では、ない、が」
若い天使である彼は、自分の作り出したものに反論されるなど、まるで想像した事もなかった。昨日までのジルならば「やり直し」ただろう。
しかし、さすがに自分も非情ではない。確かに「お前は不幸になるために生まれてきた」と言われてやる気になるヤツはいないだろう。
ヴァレリアが嫌だというのなら仕方がない。自分は天使なのであって悪魔ではない。助手としてならば、彼女も断りはすまい。
ジルが妥協案を口にしようとした瞬間、ヴァレリアが喋り出した。
「頑張ったら、ご褒美をくださいます?」
「別に、何も用意は……。いや、そうだな。もしうまくいったら、お前の望みを何でも叶えてやろう」
「なんでも?」
ヴァレリアはジルの前につつつ、と近寄り、再び顔を覗き込んだ。
「『俺にできること』ならな」
「そうですか。わかりました」
「何が欲しいんだ?」
ヴァレリアはジルの問いかけに答えず、両手を広げて地上に飛び降りた。その背中を、天使はじっと眺める。
彼女は少し痩せすぎで、ドレスの上から肩甲骨の形がわかるほどだった。
「変な女だ。まあ、やる気になってくれたなら良かった」
こうして、ジルとヴァレリアは世界に人を集めるため、色々な物語を作り出した。
『ヴァレリア・クオーレ。お前との婚約を破棄する』
『どうしてですのっ。あんな、身分の卑しい、礼儀もなっていないような女と!』
「おーおー、やっているね」
ジルは雲の上から、此度の物語を眺めていた。
『お前の悪辣な振る舞い、到底見過ごす事はできぬ。婚約破棄の上、お前には北の修道院へ行ってもらう』
『王太子妃にふさわしいのはこの私、ヴァレリアですわ! どうして、どうして、私の方がずっと、子供の頃からあなたの事を……!』
婚約者に縋り付こうとするヴァレリアを、王太子は無表情のまま突き飛ばす。「悪役令嬢」は赤いカーペットの上に崩れ落ち、騎士たちに運ばれて行った。
「相変わらず、ものすごい演技力だなあ」
ヴァレリアの様子は、見ているこっちの心が痛くなるほどである。しかし、評判はあまり芳しくない。
あいつはあんなに頑張っているのに、なぜだろう。やはり、あまり美人に作りすぎたから同情票が集まってしまってヒロインに人気が出ないのが敗因か……とジルは首をひねる。
ジルが頭を悩ませていると、天から一人の来訪者が降り立った。先輩天使である。
「嫌ですわ」
「なっ」
心底つまらなさそうな顔をしたヴァレリアに、ジルは面食らう。
「お前、自分が何のために……」
「『お前』ではありません。ヴァレリアです。私は「令嬢」ですのよ。働くなんて、嫌ですわ」
「おま……ヴァレリアには、大活躍してもらわないと困るんだよ」
「私が活躍するとどうなるんですの?」
「この世界が評価され、人が集まると、俺が出世できる」
「それで?」
「そりゃあ、嬉しいんだ。あと、もっと大きな世界を任せてもらえる」
ヴァレリアは考え込む仕草を見せた。
「それではわたくしは、貴方が出世するために、不幸になるために生まれて来たのですか?」
その言葉に、ジルはたじろぐ。ヴァレリアの紫の瞳が、強い自我を持ってきらめいている。
「そういう訳、では、ない、が」
若い天使である彼は、自分の作り出したものに反論されるなど、まるで想像した事もなかった。昨日までのジルならば「やり直し」ただろう。
しかし、さすがに自分も非情ではない。確かに「お前は不幸になるために生まれてきた」と言われてやる気になるヤツはいないだろう。
ヴァレリアが嫌だというのなら仕方がない。自分は天使なのであって悪魔ではない。助手としてならば、彼女も断りはすまい。
ジルが妥協案を口にしようとした瞬間、ヴァレリアが喋り出した。
「頑張ったら、ご褒美をくださいます?」
「別に、何も用意は……。いや、そうだな。もしうまくいったら、お前の望みを何でも叶えてやろう」
「なんでも?」
ヴァレリアはジルの前につつつ、と近寄り、再び顔を覗き込んだ。
「『俺にできること』ならな」
「そうですか。わかりました」
「何が欲しいんだ?」
ヴァレリアはジルの問いかけに答えず、両手を広げて地上に飛び降りた。その背中を、天使はじっと眺める。
彼女は少し痩せすぎで、ドレスの上から肩甲骨の形がわかるほどだった。
「変な女だ。まあ、やる気になってくれたなら良かった」
こうして、ジルとヴァレリアは世界に人を集めるため、色々な物語を作り出した。
『ヴァレリア・クオーレ。お前との婚約を破棄する』
『どうしてですのっ。あんな、身分の卑しい、礼儀もなっていないような女と!』
「おーおー、やっているね」
ジルは雲の上から、此度の物語を眺めていた。
『お前の悪辣な振る舞い、到底見過ごす事はできぬ。婚約破棄の上、お前には北の修道院へ行ってもらう』
『王太子妃にふさわしいのはこの私、ヴァレリアですわ! どうして、どうして、私の方がずっと、子供の頃からあなたの事を……!』
婚約者に縋り付こうとするヴァレリアを、王太子は無表情のまま突き飛ばす。「悪役令嬢」は赤いカーペットの上に崩れ落ち、騎士たちに運ばれて行った。
「相変わらず、ものすごい演技力だなあ」
ヴァレリアの様子は、見ているこっちの心が痛くなるほどである。しかし、評判はあまり芳しくない。
あいつはあんなに頑張っているのに、なぜだろう。やはり、あまり美人に作りすぎたから同情票が集まってしまってヒロインに人気が出ないのが敗因か……とジルは首をひねる。
ジルが頭を悩ませていると、天から一人の来訪者が降り立った。先輩天使である。
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