47 / 63
4
しおりを挟む
「よう、ジル。調子はどうだ?」
「頑張ってはいるんですが、いまいちなんですよね」
「どれどれ。あーちょっと、違うぞこれ」
先輩が言うには、「どぎつい性格の恋敵が目立っている話」ではなく「悪役のような位置に立たされてしまった不遇なヒロインが逆襲ないしは成り上がる話」だそうだ。
「つまり、この状況で言うと、ここからあの子が幸せにならないといけないのさ」
「俺は間違っていたのか……」
どうりでヴァレリアをひどい目に合わせても、自分にとってもイマイチ面白くないし、「ヴァレリアがかわいそうです」と言った内容の感想ばかり来るはずだと、ジルは納得した。
「ありがとうございます、先輩。やっぱり自分がいいと思えるものでないとダメですよね」
「ん? うん。知らんが」
ヴァレリアが役目を終え、雲の上に戻ってきた。だいたいいつも、物語が幕を下ろしたあとの彼女は、誇らしげなのである。
「わたくしの活躍、見てくださいました?」
「ああ、今日も名演技だったな。しかし、さっき先輩から聞いたんだが、俺たちは前提から間違っていたらしい」
その言葉に、ヴァレリアはあからさまに不満げな顔になった。
「わたくしがあんなに、身を削って頑張っていましたのに」
見届けないで、他の方と喋っていらしたんですね。とヴァレリアはじっとりとした瞳でジルを睨んだ。
「い、いやいや。それはそうだが、有益な話を聞いたんだよ」
ジルはたっぷり間を取り、深刻そうな表情で、まるで世界の秘密を伝えるかのように、ひそひそ声でヴァレリアに語りだす。
「お前は悪役ではなく、ヒロインだったのだ」
「はあ、もしかしなくてもジル様は御存なかったので?」
私は生まれた瞬間から、存じ上げていましたけれど──と事もなげに言われ、ジルは意識が遠くなりかけた。
「何で知っていて、言わないんだよ」
「一つ目から成功していたら、ジル様ったら調子に乗って後々破滅するでしょうに」
ヴァレリアの発言は、正しくジルの性格を捉えたものであったが、天使はそれを無視した。自分が彼女の事をあまり知らないのに、向こうは自分を理解していると言うのも、むず痒いものであるからだ。
「とにかく、方向性を変える。お前が、お前こそがこの世界のヒロインだっ」
ジルはびしり、とヴァレリアを指差した。令嬢は気を悪くした様子もなく、ふわりと微笑む。
「じゃあ、わたくし、幸せになれますのね?」
「うん? え、ああ、そうだな」
今度は「ヴァレリアが幸せになる世界」を考えて、それで評価されればジルは「出世」することができる。
そうしたら、この世界は誰か他の者に任せて。もっと大きな、壮大な世界を管理できるようになるだろう。こんな、小さな国しかない閉ざされた世界ではなく、複数の国があって、海があって、血湧き肉躍るような戦いのある、そんな世界を手に入れる事ができるかもしれない。
「頑張ってはいるんですが、いまいちなんですよね」
「どれどれ。あーちょっと、違うぞこれ」
先輩が言うには、「どぎつい性格の恋敵が目立っている話」ではなく「悪役のような位置に立たされてしまった不遇なヒロインが逆襲ないしは成り上がる話」だそうだ。
「つまり、この状況で言うと、ここからあの子が幸せにならないといけないのさ」
「俺は間違っていたのか……」
どうりでヴァレリアをひどい目に合わせても、自分にとってもイマイチ面白くないし、「ヴァレリアがかわいそうです」と言った内容の感想ばかり来るはずだと、ジルは納得した。
「ありがとうございます、先輩。やっぱり自分がいいと思えるものでないとダメですよね」
「ん? うん。知らんが」
ヴァレリアが役目を終え、雲の上に戻ってきた。だいたいいつも、物語が幕を下ろしたあとの彼女は、誇らしげなのである。
「わたくしの活躍、見てくださいました?」
「ああ、今日も名演技だったな。しかし、さっき先輩から聞いたんだが、俺たちは前提から間違っていたらしい」
その言葉に、ヴァレリアはあからさまに不満げな顔になった。
「わたくしがあんなに、身を削って頑張っていましたのに」
見届けないで、他の方と喋っていらしたんですね。とヴァレリアはじっとりとした瞳でジルを睨んだ。
「い、いやいや。それはそうだが、有益な話を聞いたんだよ」
ジルはたっぷり間を取り、深刻そうな表情で、まるで世界の秘密を伝えるかのように、ひそひそ声でヴァレリアに語りだす。
「お前は悪役ではなく、ヒロインだったのだ」
「はあ、もしかしなくてもジル様は御存なかったので?」
私は生まれた瞬間から、存じ上げていましたけれど──と事もなげに言われ、ジルは意識が遠くなりかけた。
「何で知っていて、言わないんだよ」
「一つ目から成功していたら、ジル様ったら調子に乗って後々破滅するでしょうに」
ヴァレリアの発言は、正しくジルの性格を捉えたものであったが、天使はそれを無視した。自分が彼女の事をあまり知らないのに、向こうは自分を理解していると言うのも、むず痒いものであるからだ。
「とにかく、方向性を変える。お前が、お前こそがこの世界のヒロインだっ」
ジルはびしり、とヴァレリアを指差した。令嬢は気を悪くした様子もなく、ふわりと微笑む。
「じゃあ、わたくし、幸せになれますのね?」
「うん? え、ああ、そうだな」
今度は「ヴァレリアが幸せになる世界」を考えて、それで評価されればジルは「出世」することができる。
そうしたら、この世界は誰か他の者に任せて。もっと大きな、壮大な世界を管理できるようになるだろう。こんな、小さな国しかない閉ざされた世界ではなく、複数の国があって、海があって、血湧き肉躍るような戦いのある、そんな世界を手に入れる事ができるかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
最近のよくある乙女ゲームの結末
叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。
※小説家になろうにも投稿しています
ある愚かな婚約破棄の結末
オレンジ方解石
恋愛
セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。
王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。
※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる