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「よう、ジル。調子はどうだ?」
「頑張ってはいるんですが、いまいちなんですよね」
「どれどれ。あーちょっと、違うぞこれ」
先輩が言うには、「どぎつい性格の恋敵が目立っている話」ではなく「悪役のような位置に立たされてしまった不遇なヒロインが逆襲ないしは成り上がる話」だそうだ。
「つまり、この状況で言うと、ここからあの子が幸せにならないといけないのさ」
「俺は間違っていたのか……」
どうりでヴァレリアをひどい目に合わせても、自分にとってもイマイチ面白くないし、「ヴァレリアがかわいそうです」と言った内容の感想ばかり来るはずだと、ジルは納得した。
「ありがとうございます、先輩。やっぱり自分がいいと思えるものでないとダメですよね」
「ん? うん。知らんが」
ヴァレリアが役目を終え、雲の上に戻ってきた。だいたいいつも、物語が幕を下ろしたあとの彼女は、誇らしげなのである。
「わたくしの活躍、見てくださいました?」
「ああ、今日も名演技だったな。しかし、さっき先輩から聞いたんだが、俺たちは前提から間違っていたらしい」
その言葉に、ヴァレリアはあからさまに不満げな顔になった。
「わたくしがあんなに、身を削って頑張っていましたのに」
見届けないで、他の方と喋っていらしたんですね。とヴァレリアはじっとりとした瞳でジルを睨んだ。
「い、いやいや。それはそうだが、有益な話を聞いたんだよ」
ジルはたっぷり間を取り、深刻そうな表情で、まるで世界の秘密を伝えるかのように、ひそひそ声でヴァレリアに語りだす。
「お前は悪役ではなく、ヒロインだったのだ」
「はあ、もしかしなくてもジル様は御存なかったので?」
私は生まれた瞬間から、存じ上げていましたけれど──と事もなげに言われ、ジルは意識が遠くなりかけた。
「何で知っていて、言わないんだよ」
「一つ目から成功していたら、ジル様ったら調子に乗って後々破滅するでしょうに」
ヴァレリアの発言は、正しくジルの性格を捉えたものであったが、天使はそれを無視した。自分が彼女の事をあまり知らないのに、向こうは自分を理解していると言うのも、むず痒いものであるからだ。
「とにかく、方向性を変える。お前が、お前こそがこの世界のヒロインだっ」
ジルはびしり、とヴァレリアを指差した。令嬢は気を悪くした様子もなく、ふわりと微笑む。
「じゃあ、わたくし、幸せになれますのね?」
「うん? え、ああ、そうだな」
今度は「ヴァレリアが幸せになる世界」を考えて、それで評価されればジルは「出世」することができる。
そうしたら、この世界は誰か他の者に任せて。もっと大きな、壮大な世界を管理できるようになるだろう。こんな、小さな国しかない閉ざされた世界ではなく、複数の国があって、海があって、血湧き肉躍るような戦いのある、そんな世界を手に入れる事ができるかもしれない。
「頑張ってはいるんですが、いまいちなんですよね」
「どれどれ。あーちょっと、違うぞこれ」
先輩が言うには、「どぎつい性格の恋敵が目立っている話」ではなく「悪役のような位置に立たされてしまった不遇なヒロインが逆襲ないしは成り上がる話」だそうだ。
「つまり、この状況で言うと、ここからあの子が幸せにならないといけないのさ」
「俺は間違っていたのか……」
どうりでヴァレリアをひどい目に合わせても、自分にとってもイマイチ面白くないし、「ヴァレリアがかわいそうです」と言った内容の感想ばかり来るはずだと、ジルは納得した。
「ありがとうございます、先輩。やっぱり自分がいいと思えるものでないとダメですよね」
「ん? うん。知らんが」
ヴァレリアが役目を終え、雲の上に戻ってきた。だいたいいつも、物語が幕を下ろしたあとの彼女は、誇らしげなのである。
「わたくしの活躍、見てくださいました?」
「ああ、今日も名演技だったな。しかし、さっき先輩から聞いたんだが、俺たちは前提から間違っていたらしい」
その言葉に、ヴァレリアはあからさまに不満げな顔になった。
「わたくしがあんなに、身を削って頑張っていましたのに」
見届けないで、他の方と喋っていらしたんですね。とヴァレリアはじっとりとした瞳でジルを睨んだ。
「い、いやいや。それはそうだが、有益な話を聞いたんだよ」
ジルはたっぷり間を取り、深刻そうな表情で、まるで世界の秘密を伝えるかのように、ひそひそ声でヴァレリアに語りだす。
「お前は悪役ではなく、ヒロインだったのだ」
「はあ、もしかしなくてもジル様は御存なかったので?」
私は生まれた瞬間から、存じ上げていましたけれど──と事もなげに言われ、ジルは意識が遠くなりかけた。
「何で知っていて、言わないんだよ」
「一つ目から成功していたら、ジル様ったら調子に乗って後々破滅するでしょうに」
ヴァレリアの発言は、正しくジルの性格を捉えたものであったが、天使はそれを無視した。自分が彼女の事をあまり知らないのに、向こうは自分を理解していると言うのも、むず痒いものであるからだ。
「とにかく、方向性を変える。お前が、お前こそがこの世界のヒロインだっ」
ジルはびしり、とヴァレリアを指差した。令嬢は気を悪くした様子もなく、ふわりと微笑む。
「じゃあ、わたくし、幸せになれますのね?」
「うん? え、ああ、そうだな」
今度は「ヴァレリアが幸せになる世界」を考えて、それで評価されればジルは「出世」することができる。
そうしたら、この世界は誰か他の者に任せて。もっと大きな、壮大な世界を管理できるようになるだろう。こんな、小さな国しかない閉ざされた世界ではなく、複数の国があって、海があって、血湧き肉躍るような戦いのある、そんな世界を手に入れる事ができるかもしれない。
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