異世界恋愛短編集

辺野夏子

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「シュシュリア、確かにあなたが男子だったら僕が拾われることはなかったでしょうけれど。それは少しばかり、無理がありすぎません?」

「言ったわね。ヴォルフラム、眼鏡を外してこちらを向きなさい。わたくしの才能に直に触れる権利をあげるわ」
「はい」

 意外なことに、ヴォルフラムは素直にわたくしの命令に従った。椅子に腰掛け、眼鏡を机の上に置き、じっとわたくしを見ている。何をされるか分かっていないはずはないのに。それは好奇心なのか、あるいは──信頼?

 なんて、そんなはずはない。

「目をつむりなさいよ」
「何が起きるのか見ておきたいじゃないですか」
「いいから」

 ヴォルフラムはしぶしぶ、と言った様子で目を閉じた。

 魔力を集中させる。手ごたえはあり、成功したとわたくしは判断している。しかし肝心のヴォルフラムはじっと目をつむったままだ。

「ちょっと、どうなのよ」

 何が楽しくて、ヴォルフラムのまつげの本数や長さについて思いを馳せなくてはいけないのか。焦れた様に声をあげると、ヴォルフラムはやっと口を開いた。

「……待ってください。眩しいので。僕にも心の準備というものがありますから」

 続けて、ヴォルフラムはゆっくりとまぶたを開けた。ヴォルフラムは珍しく、呆けた顔でわたくしを見ていた。わたくしも術の経過を確認するためにじっとヴォルフラムを見つめている。

「……ねぇ、あなた、見えてるの?」

 確信はあったはずなのに、ヴォルフラムがあまりにも無言なので、だんだんと不安になってきた。

「シュシュリア。……あなたの、顔が……よく見えます」
「こんなに接近しているのだから、当たり前でしょう」

「すごい……」

 ヴォルフラムは両頬に手を当て、頬を紅潮させている。さすがの偏屈屁理屈ヴォルフラムも喜びを隠しきれないようね。

「まあ、ざっとこんなものよ」

 額に滲んだ汗を優雅な仕草で拭い、わたくしは鷹揚に頷いた。正直に言ってとてつもなく疲れたけれど、高度な術を使うにはそれに見合った量の魔力が必要だ。

「シュシュリア、ありがとうございます。この恩は一生忘れません。あなたって、僕が思っているよりずっと天才なんですね」

「当たり前でしょ、わたくしは──」

 天才だし努力家なのよ──と口にしようとした瞬間、目の前が真っ暗になった。
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