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『シュシュリア、シュシュリア』
ヴォルフラムの声が聞こえてくる。わたくしは眠いので放っておいてほしい。頬をぺちぺちするのはやめてちょうだい。いつまでもそんな悲劇のヒーローみたいな体制でわたくしを抱きかかえていないで、さっさと医務室にでも運んでほしいものだわ。
『起きてください。意識があるのはわかっているんですよ』
わたくしの視界はまっくらだ。目を閉じているから。とにかく眠い。わたくしがヴォルフラムの言う事なんて素直に聞くはずがないのだわ、今起きると面倒な事になりそうだし。
『仕方ありませんね』
よしよし、そのままわたくしを運んで、事後処理が終わったころに起こすのよ。
『失礼します』
唇にやわらかいものが触れて、じんわりとした心地よさがわたくしを包み込む。このまま眠ってもいいのだけれど、何かしら、これ……?
「……!」
──唇を、唇でふさがれているっ!
そう認識した瞬間に、全身に魔力がめぐって、わたくしは覚醒した。目を開いたと同時にヴォルフラムにビンタをかまそうとしたけれど、あえなく手首をつかまれてしまう。
「あ……あなたねえ、公衆の面前で、未婚の令嬢に、なんという破廉恥なことをするのよっ!」
婚約は破棄したからどうでもいいけれど、それにしたってもう少し、人気の無いところで「口づけしてよろしいでしょうか」「ええ」ぐらいのやりとりはあってしかるべきなのだわ。
「魔力を使い果たして気絶する寸前と見えたので、手っ取り早く魔力を供給いたしました」
「ああそう、それもそうね……って、別の方法がいくらでもあるでしょうに!」
「役得です」
しれっと悪びれもしないヴォルフラムには構うだけ無駄なのだとわたくしは知っている。ああ、怒りすぎたのか、この部屋、暑いわ。
「あなたの辞書には謝罪の言葉が欠落しているようね」
「申し訳ありません、これは好機と思ったのは事実です。意思確認を怠っておりました。では改めて……」
「あのねぇ……」
「公衆の面前で乳繰り合うな! お前たち、この状況を説明しろ! ステラが……いや、俺の、体がっ!!」
ラドリアーノが半狂乱になるのも無理はない。何しろ、彼の指先は、砂の様に崩れ始めているのだから。
「ラドリアーノ様。あなたはすでに、死んでいるのですよ」
わたくしはゆっくりと、今までのわたくしの任務について語り始める。
「わたくしはリベルタス公爵令嬢として、不慮の事故で亡くなられたあなた様の蘇生を、国王陛下直々に依頼されました」
不慮の事故で死んでしまった王太子に対し、わたくしは蘇生魔法を使った。しかし、人間の蘇生魔法は神の使う万能の奇跡ではない。常にラドリアーノの側にいて、彼の動向に気を配り、魔力の供給が途絶えないようにしなくてはいけなかった。
かつてのステラとラドリアーノもそうだったのだろう。彼は魔王の手先であるステラの傀儡として操られていたのだ。そして情報を流し、最前線にいるわたくしたちへの物資を滞らせ、破滅させ、守護者のいなくなった国を乗っ取るための駒にされた。
ヴォルフラムは戦いの途中でそのことに気が付いたけれど、既に遅かった。だからわたくしに『時渡り』を使い、未来を託した。
──わたくしが、今度は正しい道を選ぶと信じて。
ヴォルフラムの声が聞こえてくる。わたくしは眠いので放っておいてほしい。頬をぺちぺちするのはやめてちょうだい。いつまでもそんな悲劇のヒーローみたいな体制でわたくしを抱きかかえていないで、さっさと医務室にでも運んでほしいものだわ。
『起きてください。意識があるのはわかっているんですよ』
わたくしの視界はまっくらだ。目を閉じているから。とにかく眠い。わたくしがヴォルフラムの言う事なんて素直に聞くはずがないのだわ、今起きると面倒な事になりそうだし。
『仕方ありませんね』
よしよし、そのままわたくしを運んで、事後処理が終わったころに起こすのよ。
『失礼します』
唇にやわらかいものが触れて、じんわりとした心地よさがわたくしを包み込む。このまま眠ってもいいのだけれど、何かしら、これ……?
「……!」
──唇を、唇でふさがれているっ!
そう認識した瞬間に、全身に魔力がめぐって、わたくしは覚醒した。目を開いたと同時にヴォルフラムにビンタをかまそうとしたけれど、あえなく手首をつかまれてしまう。
「あ……あなたねえ、公衆の面前で、未婚の令嬢に、なんという破廉恥なことをするのよっ!」
婚約は破棄したからどうでもいいけれど、それにしたってもう少し、人気の無いところで「口づけしてよろしいでしょうか」「ええ」ぐらいのやりとりはあってしかるべきなのだわ。
「魔力を使い果たして気絶する寸前と見えたので、手っ取り早く魔力を供給いたしました」
「ああそう、それもそうね……って、別の方法がいくらでもあるでしょうに!」
「役得です」
しれっと悪びれもしないヴォルフラムには構うだけ無駄なのだとわたくしは知っている。ああ、怒りすぎたのか、この部屋、暑いわ。
「あなたの辞書には謝罪の言葉が欠落しているようね」
「申し訳ありません、これは好機と思ったのは事実です。意思確認を怠っておりました。では改めて……」
「あのねぇ……」
「公衆の面前で乳繰り合うな! お前たち、この状況を説明しろ! ステラが……いや、俺の、体がっ!!」
ラドリアーノが半狂乱になるのも無理はない。何しろ、彼の指先は、砂の様に崩れ始めているのだから。
「ラドリアーノ様。あなたはすでに、死んでいるのですよ」
わたくしはゆっくりと、今までのわたくしの任務について語り始める。
「わたくしはリベルタス公爵令嬢として、不慮の事故で亡くなられたあなた様の蘇生を、国王陛下直々に依頼されました」
不慮の事故で死んでしまった王太子に対し、わたくしは蘇生魔法を使った。しかし、人間の蘇生魔法は神の使う万能の奇跡ではない。常にラドリアーノの側にいて、彼の動向に気を配り、魔力の供給が途絶えないようにしなくてはいけなかった。
かつてのステラとラドリアーノもそうだったのだろう。彼は魔王の手先であるステラの傀儡として操られていたのだ。そして情報を流し、最前線にいるわたくしたちへの物資を滞らせ、破滅させ、守護者のいなくなった国を乗っ取るための駒にされた。
ヴォルフラムは戦いの途中でそのことに気が付いたけれど、既に遅かった。だからわたくしに『時渡り』を使い、未来を託した。
──わたくしが、今度は正しい道を選ぶと信じて。
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