62 / 63
11
しおりを挟む
『シュシュリア、シュシュリア』
ヴォルフラムの声が聞こえてくる。わたくしは眠いので放っておいてほしい。頬をぺちぺちするのはやめてちょうだい。いつまでもそんな悲劇のヒーローみたいな体制でわたくしを抱きかかえていないで、さっさと医務室にでも運んでほしいものだわ。
『起きてください。意識があるのはわかっているんですよ』
わたくしの視界はまっくらだ。目を閉じているから。とにかく眠い。わたくしがヴォルフラムの言う事なんて素直に聞くはずがないのだわ、今起きると面倒な事になりそうだし。
『仕方ありませんね』
よしよし、そのままわたくしを運んで、事後処理が終わったころに起こすのよ。
『失礼します』
唇にやわらかいものが触れて、じんわりとした心地よさがわたくしを包み込む。このまま眠ってもいいのだけれど、何かしら、これ……?
「……!」
──唇を、唇でふさがれているっ!
そう認識した瞬間に、全身に魔力がめぐって、わたくしは覚醒した。目を開いたと同時にヴォルフラムにビンタをかまそうとしたけれど、あえなく手首をつかまれてしまう。
「あ……あなたねえ、公衆の面前で、未婚の令嬢に、なんという破廉恥なことをするのよっ!」
婚約は破棄したからどうでもいいけれど、それにしたってもう少し、人気の無いところで「口づけしてよろしいでしょうか」「ええ」ぐらいのやりとりはあってしかるべきなのだわ。
「魔力を使い果たして気絶する寸前と見えたので、手っ取り早く魔力を供給いたしました」
「ああそう、それもそうね……って、別の方法がいくらでもあるでしょうに!」
「役得です」
しれっと悪びれもしないヴォルフラムには構うだけ無駄なのだとわたくしは知っている。ああ、怒りすぎたのか、この部屋、暑いわ。
「あなたの辞書には謝罪の言葉が欠落しているようね」
「申し訳ありません、これは好機と思ったのは事実です。意思確認を怠っておりました。では改めて……」
「あのねぇ……」
「公衆の面前で乳繰り合うな! お前たち、この状況を説明しろ! ステラが……いや、俺の、体がっ!!」
ラドリアーノが半狂乱になるのも無理はない。何しろ、彼の指先は、砂の様に崩れ始めているのだから。
「ラドリアーノ様。あなたはすでに、死んでいるのですよ」
わたくしはゆっくりと、今までのわたくしの任務について語り始める。
「わたくしはリベルタス公爵令嬢として、不慮の事故で亡くなられたあなた様の蘇生を、国王陛下直々に依頼されました」
不慮の事故で死んでしまった王太子に対し、わたくしは蘇生魔法を使った。しかし、人間の蘇生魔法は神の使う万能の奇跡ではない。常にラドリアーノの側にいて、彼の動向に気を配り、魔力の供給が途絶えないようにしなくてはいけなかった。
かつてのステラとラドリアーノもそうだったのだろう。彼は魔王の手先であるステラの傀儡として操られていたのだ。そして情報を流し、最前線にいるわたくしたちへの物資を滞らせ、破滅させ、守護者のいなくなった国を乗っ取るための駒にされた。
ヴォルフラムは戦いの途中でそのことに気が付いたけれど、既に遅かった。だからわたくしに『時渡り』を使い、未来を託した。
──わたくしが、今度は正しい道を選ぶと信じて。
ヴォルフラムの声が聞こえてくる。わたくしは眠いので放っておいてほしい。頬をぺちぺちするのはやめてちょうだい。いつまでもそんな悲劇のヒーローみたいな体制でわたくしを抱きかかえていないで、さっさと医務室にでも運んでほしいものだわ。
『起きてください。意識があるのはわかっているんですよ』
わたくしの視界はまっくらだ。目を閉じているから。とにかく眠い。わたくしがヴォルフラムの言う事なんて素直に聞くはずがないのだわ、今起きると面倒な事になりそうだし。
『仕方ありませんね』
よしよし、そのままわたくしを運んで、事後処理が終わったころに起こすのよ。
『失礼します』
唇にやわらかいものが触れて、じんわりとした心地よさがわたくしを包み込む。このまま眠ってもいいのだけれど、何かしら、これ……?
「……!」
──唇を、唇でふさがれているっ!
そう認識した瞬間に、全身に魔力がめぐって、わたくしは覚醒した。目を開いたと同時にヴォルフラムにビンタをかまそうとしたけれど、あえなく手首をつかまれてしまう。
「あ……あなたねえ、公衆の面前で、未婚の令嬢に、なんという破廉恥なことをするのよっ!」
婚約は破棄したからどうでもいいけれど、それにしたってもう少し、人気の無いところで「口づけしてよろしいでしょうか」「ええ」ぐらいのやりとりはあってしかるべきなのだわ。
「魔力を使い果たして気絶する寸前と見えたので、手っ取り早く魔力を供給いたしました」
「ああそう、それもそうね……って、別の方法がいくらでもあるでしょうに!」
「役得です」
しれっと悪びれもしないヴォルフラムには構うだけ無駄なのだとわたくしは知っている。ああ、怒りすぎたのか、この部屋、暑いわ。
「あなたの辞書には謝罪の言葉が欠落しているようね」
「申し訳ありません、これは好機と思ったのは事実です。意思確認を怠っておりました。では改めて……」
「あのねぇ……」
「公衆の面前で乳繰り合うな! お前たち、この状況を説明しろ! ステラが……いや、俺の、体がっ!!」
ラドリアーノが半狂乱になるのも無理はない。何しろ、彼の指先は、砂の様に崩れ始めているのだから。
「ラドリアーノ様。あなたはすでに、死んでいるのですよ」
わたくしはゆっくりと、今までのわたくしの任務について語り始める。
「わたくしはリベルタス公爵令嬢として、不慮の事故で亡くなられたあなた様の蘇生を、国王陛下直々に依頼されました」
不慮の事故で死んでしまった王太子に対し、わたくしは蘇生魔法を使った。しかし、人間の蘇生魔法は神の使う万能の奇跡ではない。常にラドリアーノの側にいて、彼の動向に気を配り、魔力の供給が途絶えないようにしなくてはいけなかった。
かつてのステラとラドリアーノもそうだったのだろう。彼は魔王の手先であるステラの傀儡として操られていたのだ。そして情報を流し、最前線にいるわたくしたちへの物資を滞らせ、破滅させ、守護者のいなくなった国を乗っ取るための駒にされた。
ヴォルフラムは戦いの途中でそのことに気が付いたけれど、既に遅かった。だからわたくしに『時渡り』を使い、未来を託した。
──わたくしが、今度は正しい道を選ぶと信じて。
1
あなたにおすすめの小説
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
最近のよくある乙女ゲームの結末
叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。
※小説家になろうにも投稿しています
ある愚かな婚約破棄の結末
オレンジ方解石
恋愛
セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。
王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。
※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる