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新婚旅行と一通の手紙。
しおりを挟む【ダーク視点】
今日から、新婚旅行という事で一週間程屋敷を離れるため、俺は使用人に留守を頼んだ。
「ダークぼっちゃま、何があっても奥様に見捨てられないように、大切に大切にしてあげて下さいまし。あんな美しくお優しい方、ぼっちゃまの前に現れただけでも奇跡なんですからね。聖母の奇跡なんて目じゃない位なんですからね?分かってます?」
乳母で厨房を預かっているジュリアが、俺に切実な目を向けてきた。
「分かってるさ」
そう。自分が一番よく分かってる。
他の使用人も父が若いときからの長い付き合いの者ばかりだ。
みんなリーシャの事が娘か孫のように可愛くてしょうがないらしい。
6人いる使用人の中でも一番古株である執事のアーネストが側に寄ってきた。
「ダーク様、こちらを。ルーシーからですが、本日移動中に奥様がおられないところでお読みください、との事でした」
と一通の手紙を差し出した。
「ルーシーが?ありがとう」
ルーシーは、俺たちの旅行中に一度ルーベンブルグ家へ戻り、リーシャの原稿などの執筆関係の荷物整理や、自身の残っている衣類などの移動を行うとの事で、早朝から既に屋敷を離れていた。
何だろうか、と首を傾げつつ胸元の内ポケットにしまう。
「ダーク、おはようございます!遅くなりましたか?」
振り返ると、ててて、という効果音が付きそうなほど可愛らしい小走りでトランクを転がしながらリーシャがやって来た。
本当にクソ可愛い。
押し倒したい。
「いや、問題ない」
俺はリーシャのトランクを掴むと、御者に渡した。
漁師町として有名なゲイルロードに行きたいとリーシャが言ったのは、勿論釣りをしたいからである。
「今の季節の海釣りだと、アオリイカとかマアジとかクロダイとかですよね?是非とも釣り上げてお刺身とか、お刺身とか、とにかく海の幸のお刺身とかを美味しく頂きたいのです!おニューの竿も買っておりますし!」
「お、おう、そうか。構わないが。
………しかし海釣りは初めてだろうに、魚の種類とか詳しいなリーシャ」
「………ぜ、是非一度食べてみたいと事前に書物などで勉強しておりました!」
「そうか。本当に海鮮が好きなのだな」
「はい!私の釣りのポリシーもキャッチ&イートですし、必ず大物を釣り上げて食べて見せますわ!」
市場で幾らでも新鮮なものが買えると言ったのだが、
「何故買うのですか?無駄遣いですわ。
自分で釣り上げればかかるのは餌代だけですし、釣り人としての達成感もございますのに」
不思議そうな顔で問い返された。
「いや、初めてで釣果を求めるのはどうかな。俺も何度も父と出かけたが、一匹も釣れない事だってあったぞ?」
にやりと笑うと、くぅぅ、と悔しそうな声が漏れ聞こえた。大人しげに見えて、意外とリーシャは負けず嫌いなのである。
もう身震いするぐらい愛らしい。
ゲイルロードまでは馬車で2日。
今朝出れば、何もなければ明日の昼頃には着くだろうが、移動中は本当に馬車で仮眠するのみである。
ゲイルロードには知人の使ってない別荘があるとの事で、4日ほど借りられる事になった。
町から少し離れているが、宿屋のようにイチャイチャするのも気を遣うような所は絶対に却下である。
新婚旅行なのだ。
旅先でイチャつかずにどうする。
俺の生涯で発生する予定もなかった新婚旅行だ。後悔したくないのである。
「………まあ、もし俺に釣果で勝てたら、リーシャのお願いを何でも1つ聞いてやる。まあ無理だとは思うがな」
「本当ですね?約束ですよ?ビギナーズラックと言う言葉もあるんですからね。
私だって釣りは初心者ではありませんし、頑張りますから!」
びしーっと立てた親指を見る。小さな子供のような指である。
「おう。頑張れよ」
俺は愛しさをこらえきれず然り気無く頭を撫でた。
うちの奥さんは、なんでこんなに可愛いのだろうか。
これ以上好きにならせて俺を一体どうするつもりなんだろうか。
危ない。使用人の前で理性を飛ばしそうになってしまった。
俺はケダモノか。30過ぎてみっともない。落ち着け。
これでは10代の若造よりたちが悪い。
冷静になった俺は、リーシャと共に旅立った。
明日の午前中には到着するのではないかと思うほど順調に進んだ道中。
馬車の中で、リーシャが俺に寄りかかって眠っている時に、ふとルーシーからと言われていた手紙のことを思い出した。
リーシャを起こさないようそっと取り出す。
『旦那様へ
こちらはリーシャ様に見られると少々まずい事になりますので、読まれた後は可及的速やかに焼却破棄をお願いいたします。
リーシャ様はまた新婚旅行だと言うのに、いつもの癖で色気も何もない下着を詰め込んでおりましたので、全部回収させていただき、今若い女性の間で人気のあるランジェリーを大量に忍ばせておきました。
旦那様のお好みのものがあれば幸いでございます。その際には後日お伺い出来れば、今後のワードローブ含めご満足の戴けるものをセレクトさせていただけるのではないかと思われます。
余談ですが、恐らく別荘にてトランクを開けた辺りで悲鳴か絶叫が聞こえるかと想定されます(前述の理由により)が、スルーしておいて下さい。
どちらにせよマッパでいる訳にも行きませんでしょうから、必然的に身に付ける事になるでしょう。
そこで旦那様にお願いがございます。
あまり饒舌とは言いがたい旦那様ですが、激誉め、激誉めでお願いいたします。
それもエロくていい、というような雑な誉め方では恥ずかしがって二度と着ていただけない可能性がありますので、ひたすら可愛い系で推して下さい。
リーシャ様は官能的な文言を考えつくのは天才的ですが、エロへの耐性は残念ながらありんこ並みです。
まあリーシャ様はチョロ………単純………人を疑うことを知らない素直な方なので、
(自分ではかなり破廉恥な下着な気もするけれど、旦那様が可愛いと言うのなら可愛い系の下着なのだろう)、
と容易く丸め込………錯覚させる事が肝要かと存じます。
旦那様の言動、演技力にこれからの全てがかかっております事をお忘れなきよう、何卒よろしくお願いいたします。
追伸
リーシャ様は辛いものは苦手ですが、ワサビだけは大好きです。お刺身などを食される場合には忘れずご用意願います。
ルーシー』
俺は、手紙をそっと再び胸の内ポケットに戻した。
※ ※ ※
翌日、昼前には別荘へと到着し、汗をかいたのでお風呂の支度を、などと消えていったリーシャが、五分後、
「ひいいいぃぃぃっ!ルーシーーー!」
と叫ぶ声が聞こえたので、居間にいた俺は立ち上がり、ルーシーの手紙を暖炉へ放り込み跡形もなく焼却した。
前々から感じていたがやはりあの女、ただのメイドではない。
味方になると頼もしい事この上ないが、ルーシーだけは決して敵に回してはいけない人物であると冷や汗とともに実感した。
勿論、俺の全力を注いでルーシーの指示通りに行動したのは言うまでもない。
女性と言うのは、下着として役に立っているのかどうか分からない物が人気であると学習した。
ただひたすら、眼福な時間であった。
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