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レイモンドの無意識ロックオン。

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【レイモンド視点】

「はみがきもしたし、トイレもいったしー、あとはかーさまがごほんをよんでくれるからベッドにはいってまってるの」

 とアナがオレに説明してくれた。


 護衛の人間は明日の朝ごはんの後に迎えに来ると帰っていった。



 シャインベックの家は、とても居心地がいい。

 アズキという変わった名前の足の短い可愛いネコがいたり、鍋というご飯もとても美味しかった。

 ちょっとアナたちの父親であるダークおじさまは、強そうだけど大きくて笑わなくて怖いと思っていたが、

「とーさまはやさしいよ?わるいことしたときしかおこらないし」

 とカイルも言ってた通り、オレにも

「レイモンド王子は肉団子がお好きですか?私も大好きなんですよ」

 と少しだけ笑って声をかけたりしてくれた。

 みんなとワイワイごはんを食べるのなんて初めてで緊張したけど、綺麗なリーシャおばさまはニコニコしているし、ルーシーというメイドも顔は笑ってないけどとても親切に世話をしてくれた。


 普通の貴族の家と言うのはこんなのんびりした暮らしをしてるのかと少し羨ましかった。



「はーい、お話を読みに来たわよー。ベッドに入ってない悪い子は居ないかしらー?」

 ベッドに入って少し経つと、ノックをしてリーシャおばさまがやってきた。

 眠る時はみんな一緒の部屋で寝るというので、子供部屋には大きなベッドが2つある。男の子用と女の子用らしい。

 オレはカイルとブレナンのベッドへ一緒に入って大人しくリーシャおばさまのお話を聞いていた。


 シンデレラとかいう綺麗な女の子が、継母と義理の姉たちに虐められてたのを、魔法使いが可哀想に思って、ドレスとガラスの靴を用意して舞踏会に行けることになって、王子様と出会って最後は結婚するお話だった。
 王子と結ばれるというところがとても気に入った。

「かーさま、どうしてガラスのくつなの?いたくないのかな?」

 クロエが首を傾げて聞いていた。

「それは母様も不思議なのよね。だって履きにくいから片方脱げちゃった訳だし。爪先まで指丸見えとか嫌よねえ。
 魔法使いさんも不親切よねその辺。
 まあタダで使わせてくれたんだから文句言ったらいけないのだけどね。きっと何か深い事情があったのよ」

「ふかいじじょーなのね」

「そうね。物語にはね、『何でなのかなー』って事が割りとあるのよ。でもね、そこを深く考えると疲れるから、ここはガラスの靴が普通の国のお話なんだと思えば万事解決よ。母様たちの国のお話じゃないから」

「アナはドレスとかうごきにくそうでいや」

 隣のベッドでアナが呟いていた。

 アナは王宮でも走り回るのにいいズボンとかキュロットスカートが多い。

 時々男の子みたいだと思うけど、オレはその方が話しやすいからいいと思う。

 横を見ると、カイルとブレナンは既に寝息を立てていた。

「それじゃ、おやすみなさい。レイモンド王子もおやすみなさい」

「おやすみなさいリーシャおばさま」

 リーシャおばさまが出ていった後も、クロエとアナが何か話している。

「クロエはね、ジークラインさまにかわいいかっこうみてもらいたいの。だからドレスすき」

「アナはみてもらいたいひといないし、あそぶのにスカートがながいところんじゃうもん」

「アナもかわいいかっこうにあうとおもうのに」

「そーかなー。うー、もっとおおきくなってからでいいや」

「………アナはすきなひとはいないのか?」

 オレはつい声をかけた。

「レイモンドさまおきてたの。
 そー、アナはがっこういくようになったらかんがえるの」

「そうか………アナのうちはたのしいから、だれがきてもきっとたのしいだろうな」

 話しながらも、なんとなくモヤモヤする。知らないヤツがアナと仲良くするのは嬉しくない。

「レイモンドさまもたのしい?」

「ああ」

「そっかー。じゃあおおきくなって、レイモンドさまがだーれもけっこんするひといなかったら、アナがけっこんしてあげるからウチにくればいいよ」

「………アナがおうきゅうにくるのはダメか?オレはいちおうおうじだからムコにはいけないな」

「う?そうなの?でも、アナはとーさまとかーさまとこのいえにすみたいからいやだなー」

 黙って聞いていたクロエが、

「ふだんおうきゅうにいて、いえにはあそびにくるのでもいいじゃない。おうちが2つになるよ?
 おうきゅうのひろいおにわといけ、いいなーってアナいってるじゃない」

「そうだぞ。いえが2つになるのよくないか?」

「んー、そっか!おうきゅうとこのおうちと2つにふえるのか!それはいいなー。
 わかった。じゃあ、えーと、アナががっこうそつぎょうするときにもレイモンドさまにまだおよめさんいなかったら、そのときはおよめさんになってあげるよ」

「おうじにたいして『なってあげる』とはなんだ。『してください』だろう」

「ふ?でもアナのおうちと、とーさまとかーさますきなのレイモンドさまでしょ?
 アナべつにけっこんしなくてもいいもーーー」

「わかった!『なってあげる』でいい。そのかわり、オレもアナがかえるときにいっしょにきてもいいか?」

「いいよー」

「よし。きまりだな。おやすみ」

「おやすみー」

「おやすみなさーい」

 オレはこれからもずっと来られると思うと嬉しくなって、ウキウキしながら眠りについた。




 次の朝、アナが朝ごはんの時に、

「かーさまかーさま。
 アナねー、レイモンドさまがおおきくなってもおよめさんみつからなかったらおよめにいってあげることにしたの」

 と宣言し、リーシャおばさまが盛大にミルクを吹き出した。
 ダークおじさまもパンを口に加えたまま目をまんまるにしていた。

「ななな、なんでそんな話になったの?」

「んとね、おうきゅうのにわといけすきにあそんでいいっていうから。おうちが2つになるからいいよねってクロエもいったし」

「………レイモンド王子………」

 ダークおじさまがオレをみた。

「おおきくなっておよめさんがいなかったら、というはなしなので、さきはわかりません」

 と答えた。

 でもアナは可愛いし、話しやすいし、一緒にいてとても楽しいから、オレは知らないヤツとけっこんするより全然いい。

 ………と今は言ったらいけないような雰囲気だったので、黙ってパンを食べることにした。

 目玉焼きを乗せて食べたパンもとても美味しかった。ベーコンを焼いたのも美味しかった。


 大きくなったらけっこんはアナとすると言えば、父様も母様も何も言わないだろう。相手がいなければおよめに来てくれるみたいだし。

 オレはご機嫌な気分でスープのお代わりをお願いした。



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