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リーシャ、丸投げされる。

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「あらリーシャ!待ってたのよぅ」
 
「ご無沙汰しておりまして申し訳ございませんライリー殿下ならびにナスターシャ妃殿下。
 ご健勝のようで何よりでございます」
 
 
 
 王宮に着いて案内されたライリー殿下の執務室には、ライリー殿下とナスターシャ妃殿下の他に、背を向けてソファーに腰掛けている男性2人が見えた。
 
 うむ、あれがガレク国の国王と王子なのだろうか。
 
 チラリと見てから頭をルーシーと下げっぱなしだからよう分からんけども。
 
 あー、おっかない感じの人でなければ良いのだけど。
 何しろビビりだから私。
 
「もうっ、私とリーシャの間柄でそんな堅苦しい挨拶はいいわ。顔を上げてちょうだいな」
 
 
 いやどんな間柄ですか。
 
 いつから妃殿下とマブダチになりましたあてくし?
 
 月に1回位、断れないお茶会に参加するとマブダチスタンプが増える感じですか。
 あれ、もうワンシート溜まったのかしら。
 
 ようやくある程度長時間は目を見て話せるようになったばかりですのよ。
 
 王族の沼は透明度ゼロな上に限りなく深いわ。
 
 帰ったらルーシーとスタンプの有効期限切れを狙う相談をしないと。何でもマブダチだからで厄介事を投げてきそうな気がする。
 
 私が心のメモ帳に赤丸をつけていると、
 
「──リーシャ・シャインベック夫人と言うのは貴女だろうか?
 本日は無理に付き合わせてすまないね。
 話が出来ないから顔を上げて貰えないかな?」
 
 とやたらと深みのある低めのいい声で呼び掛けられた。
 
 聞いた覚えのない声なので、これがガレク国王陛下かな。まあ向こうがいいってんなら顔を上げさせてもらおうかしらね。中腰疲れるし。
 
「とんでもないことです。私ごときが他国の王族の御方のお役に立てるならば、喜んでご案内させていただきとうございま……す……」
 
 そっと顔を上げると、
 
 
 これまた(私にとってだが)どえらい美麗なイケオジ、じゃなかった、イケメン国王と……シンプルな目鼻立ちのフツメン王子が視界に入った。
 
「……おや?確か騎士団のダーク・シャインベック指揮官の奥方と聞いていたのだが、お嬢さんだったのかな?
 指揮官は私と同世代と聞いているが」
 
「いえ、私がダーク・シャインベックの妻でございます。若く見て頂けて光栄の至りですが、お嬢さんと呼ばれる年でもございません。30になりましたし」
 
 大和民族は若く見えるらしいのは有り難いが、お嬢さんはねえだろ。幾らなんでもお世辞が過ぎるわ。
 
 いや、でも前世で友だちのお母さんがヨーロッパ旅行していた時に、「学生か」と何度も聞かれたそうだし(その時45歳だった)、本当に若く見えるのかな。
 まぁ外国の人は大和民族の見え方がおかしいんだなきっと。
 
 
 国王はダークより少し上に見えるが、ウチのダークが見た目詐欺なだけで、国王も40過ぎには見えない。
 金髪の髪を短く刈り込んで、深みのあるブルーの瞳が美しい。
 
 体も骨太でガッシリとした、いかにも武芸に秀でてる感じの背の高い人である。
 
 隣の王子は故王妃に似たのかあっさり顔ではあるが、同じように体は鍛えてるようで胸板から腕にかけての筋肉が素晴らしい。
 
 腐女子な私には国王の顔も2人の体も目の保養である。
 
 いやー、初めて王宮からの面倒な頼まれ仕事がちょっと役得だと思っちゃったわ。
 
 でも、あくまでもダークに匹敵する美形なだけであって、ウチのダーリンが私にとっては断トツだけども。
 
 
「あ、そうなのか……余りに若くて美しく見えたので勘違いしてしまった。申し訳ない」
 
 
 イケメンほど物の見え方がおかしいと言うのはダークで学んだが、国王も大和民族ヨイショ派なのか。
 
 あれだな、日本で亡くなってどっかの国に転生出来るなら、この国にくればいいんだわみんな。
 でも沢山いたらそんなに美形扱いはされないかも知れないけど。レアだから良いのだろう。
 
 チーズやクリームソース、バターたっぷりみたいに濃厚な料理の多い国で、あっさり醤油とかポン酢とかで食べる料理がたまに出たら、やたらと新鮮で美味しく感じるのと同じ感覚な気がする。
 
 …まあ不細工な女に案内されると思われるよりはいいのか。接待役だしね。
 
 
「アロンゾ・ガレクだ。今日はよろしく頼む」
 
「僕はカルロス・ガレクです。よろしくお願いします」
 
 筋肉祭りな2人に笑顔で挨拶されたので、私も笑顔で
 
「こちらこそよろしくお願いいたします」
 
 と頭を下げた。
 
 鼻持ちならない選民意識の強い王族とかでなくて良かった。こんな下位貴族にも丁寧に対応してくれるなんて、いい人たちだ。
 
 もちろんナスターシャ妃殿下やライリー殿下も優しい御方ではあるが、このガーランド国の国王はちいと怖いから苦手なのである。
 
 ガレク国の国王も圧が強いと嫌だなー、と思っていたので助かった。
 
 
「それじゃリーシャ、悪いけれどお願いね。私もライリーも仕事が溜まってるから」
 
 ナスターシャ妃殿下に手を握られ、
 
(……え、ナスターシャ妃殿下たち行かないの?
 ちょっと待って私だけ?
 ルーシー付いてきても対応するの私だけ?
 いやいや話が違うでしょ一介の子爵夫人にそんな大役無理っしょマブダチなんじゃないのナスターシャ妃殿下ねえねえ)
 
 と混乱している間に王宮の豪勢な馬車に乗せられ、1台目は私とルーシー、ガレク国王と王子、2台目は護衛の方々という謎な組み合わせで動物園へ出発した。
 
 
 ニコニコと話しかけてくるガレク国王と王子に少ない知識を総動員して会話をしながら、
 
(他国の王族の接待にウチの王族いないとかヤバくないかしらねルーシー?)
 
 とこそこそ小声でルーシーに尋ねたが、
 
(いいか悪いかで言えば確実に悪いですが、大丈夫でございます。リーシャ様がリカバリーすれば万事解決ですわ)

 
  
 いや、万事解決ですわじゃねーし。
 
 何でそんなに重たい重責をヒッキーに背負わすかな。
 近所の公園で友だちとかけっこしてた子をオリンピックに連れていくようなもんだぞ。
 
 
 絶対マブダチになんかなってやんないかんなナスターシャ妃殿下。クソ~覚えとけぇぇぇ。ばーかばーか。
 
 
 私は心の中でやんごとなき御方をディスりながら、動物園への道を馬車で運ばれて行くのだった。
 

 
 
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