ハイパー営業マン恩田、異世界へ。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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エセセレブは町へ買い物に

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「……いや、やっぱ俺は遠慮させてもらうわ」
「またまたもう~何言ってるんですか。パトリックさんが泊まっても泊まらなくても、私が払う金額は変わらないんですから」
「でもよう、これはちっとばっか豪華すぎるっつうか、背中がむず痒いっつうかだな」

 案内されたコテージは、日本にいた頃の俺ならば確実に泊まることはないだろうという、お金持ちの別荘のような印象だった。
 目の前に広がる木立に囲まれた、透明度の高い美しい湖。
 ベージュに近いコテージの外壁には、所々に四角い色つきのガラスが埋め込まれ、カラフルなアクセントになっている。
 俺がギャルならば、

「超映えスポットじゃんウケる」

 などと軽く流せるのだが、こちとら人間以外の家族を抱えた、お洒落にはご縁のない三十路の男である。めちゃくちゃ照れくさく恥ずかしい。
 そのコテージのリビングには、湖を眺めながらチル出来るような広めのウッドデッキがあり、キャンバス生地で作られたようなデッキチェアがいくつも並んでいる。
 室内はというと、これまた白やベージュに茶色など、優しい色合いを基調とした家具やソファーが置かれていた。
 いくらするか想像もつかない謎の大きな花瓶や、ガラス細工の置物がさり気なく置かれ、壁にはどこの景色か知らないが風景画が上品に配置されている。
 俺はこのファビュラスでラグジュアリーなハイエンドなコテージを楽しむという気持ちよりも、ダニーたちがうっかり壊してしまったらどうしようと戦々恐々である。
 セレブ感とかどうでもいいから、全部棚の中とか端っこに片付けておきたい気持ちしかない。
 寝室も高級ホテルのようなお高そうなふかふかしてそうな寝具と、ダブルサイズの広々ベッドが存在感をアピールしてくる。
 中をチラッと見た俺とパトリックは、お互い顔を見合わせ、すぐに扉を閉めてしまった。

 勢いで借りると宣言したまではいいが、こんなゴージャスな空間には似合わない俺とうちの子たちだけ置いて行かれるのは勘弁して欲しい。
 セレブまがいの金の使い方をしたけども、俺の本質はただの庶民だ。
 歴史ある名家でもなければ、やんごとなき血なんて何代遡っても一滴もない。
 何を言いたいかというと、贅沢な環境に置かれると落ち着かないのだ。
 仕事柄無意識にポーカーフェイスになれるので、まったく動じていないとパトリックは感じているだろうが、内心ではビビりまくりだ。

(もっと狭くていいよー、もっとビジホクラスの普通な感じで充分だよー、分不相応だよー)

 と魂がグレードダウンを求めている。
 パトリックが場違いだと感じて逃げたがっているように、俺だって逃げられるものなら逃げたいのである。
 だがここしか泊まれるところはないし、俺は海鮮祭りを諦めていない。
 彼を逃がしてなるものか。死なばもろともよ。

「それに今からホテル探すなんて大変じゃないですか? 私が腕をふるってどーんと美味しいご飯をたくさん作りますから。別のところに泊まるなんて言わずに、ね、ね、ね?」

 俺のすがりつかんばかりの必死の引き止めに、パトリックも覚悟を決めたようだ。

「もう決めちまったもんはしょうがないもんな。でも友だちに大金を全部出させるなんて真似は出来ねえよ。俺も払う。ただまとまった金は持って来てないから戻ってからになるけど──」
「いいんですよそんなの! 普通のホテルが借りられないってのは私たちの都合なんですから。それでも気になると言うのなら、これから市場にいった時の食材をお願いします。それでチャラっていうことで」
「チャラにするには安すぎんだろ。そんならケンタローの上着も買って、あとは……ダニーたちの移動用のボックスを気合い入れて作る。これぐらいはさせてくれ」

 パトリックは言い出したら聞かないので、じゃあそれでとお願いした。
 対等な付き合いをしたいのは俺も一緒なので、遠慮なくおごってもらおう。
 ま、思ったより高くつきそうだったら何かしらフォローすればいい。



「よし、そしたらお前たちは湖で遊んでてくれ。決してコテージから遠くは行かないこと。危ないこともしないようにな。ダニーはお兄ちゃんだから、二人のことを見ておいてくれよ? 買い物したらすぐ戻るから」

 ○。

「それともし知らない人が現れても近づかないようにな。悪い人かもしれないし」

 ○。

 旅に出る時も、一応○✕ボタンぐらいは持ってくか、と思ってトランクにしまっておいたのは英断だった。

 今では彼らの返事で大体オッケーかそうでないかを見極められるようになってはいたが、機嫌がいい時の鳴き声と返事である鳴き声の区別は難しい。

『ポゥ』(← 上がり気味) イエス
『ポゥ』(→ 下がり気味) ノー

 という微妙な変化の時もある。
 確実に分かるのは、おやつ食べるか聞いた時の返事だけだ。
 まあうちの子たちの場合、ノーと言うことがほぼないからとも言える。
 ウルミだけは、睡魔に襲われている時には、食べると言いつつ用意して戻ると爆睡しているので少しあてにならないことはあるけども。

 オフシーズンのせいか、少し離れたところに点々と見える三軒のコテージには客がいないらしく、俺たちの貸し切り状態だ。
 湖にも人の気配はない。
 いくら美しい光景でも、この寒さでは湖畔デートなんて風邪を引きそうだし、鼻水たらしてたらロマンチックな言葉どころじゃないよな。

「パトリックさん、とりあえず上着を買って、それから市場にしましょう」
「だな。こう寒くちゃろくに頭も回んねえよ」

 俺たちは少し足早に町の中心地へ歩き始めた。

「でも、せっかくあんなコテージ取れたことですし、記念で休みを増やして四、五日滞在するってのもいいですよね。パトリックさんの仕事の都合がつけばですけど」

 俺は歩きながら考えていた。
 一カ月やそこらどうにでもなるほどの商品の在庫は倉庫に入っているし、エドヤはナターリアがいれば大抵回る。
 彼女もダニーたちの世話がなければ、店のことだけすればいい。数日滞在が延びたところでそこまで困ることはないはずだ。お土産も奮発するし、営業もやり方を工夫出来る。

「俺は一人大工だから仕事の時期も選べるし、別に構わねえけどよ。ま、ちいと俺には落ち着かない寝床だが、めったにない機会だし、ここは一つ、一週間美味しいもの食べまくったり、ケンタローの仕事の手伝いとかしてもいいよな! ここでしか売ってない酒も試そうぜ!」
「あはは、まあお酒は弱いのでとことんは付き合えないと思いますけどね」
「よっし、決まりだ! ダニーたちと俺たちで贅沢ルルガの旅ってことで!」

 バシッと背中を叩かれ、寒いんだから痛いんだってばと思いながらも一緒に笑った。
 でもパトリックはまだ知らない。
 俺の仕事以外で一番時間を費やした最大の趣味が、美味しいものを食べることだ。
 好きなものを好きなように食べられるために料理の腕前も上げたこと。
 そして、今回の海鮮三昧ウキウキ生食祭りにも彼を巻き込む気満々なことを。

 皆の者、宴じゃ~。宴の支度をせ~いっ!

 寒さに震えながらも、俺の脳内では鍋や煮付けもいいな、などと市場への期待に胸を躍らせていた。



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