1 / 40
完全な自業自得
しおりを挟む
「……ふう。あーようやく終わったあ……」
私はマウスを操作してデータを保存すると、編集に最終回分の原稿を添付ファイルで送信する。増ページだったので本当に締め切りが守れて良かった。これで、今回の連載も無事終了である。
しかし、アシスタントもおらず一人でやっている以上、ページが増えようが手は増えないし、時間も同じである。結果、睡眠時間を削るほかはなく、ここ一週間ほどは一日二、三時間も眠れればラッキーというぐらいには切羽詰まった状態だった。WEBでの月連載とは言え、三十五ページは本当にきつかった。背景もかなり描き込みするタイプなので、いくらグラフィックソフトでトーン処理などが大分楽になったとはいっても、時間は取られてしまうのである。
弟には「姉ちゃんは漫画家としてそこそこ稼いでるんだからさあ、アシスタントとか雇えばいいのに。ずっと若くはないんだよ?」といつも心配されるのだが、自分の絵に誰かの要素を入れる、というのが前から好きではないし、かといってベタ塗り要員だけなら今はマウス操作一つなので、デジタル主流になった現在では不要である。まあ、紙の週刊連載などがもし来たら、そうも言っていられないんだろうけど。
あくびをしつつ椅子から立ち上がると、ふらりと目眩がした。完全に寝不足である。本日は完徹だし。
今日は一日寝てやるぞーと心を決めるが、お腹がきゅるる、と鳴って栄養を催促して来た。そういえば昨夜も今朝も水分とクッキー2枚しか摂った記憶がない。冷蔵庫もどうせ作ってる暇がないからと飲み物ぐらいしかない。
「……お弁当でも買って来るか」
私は財布と携帯をリュックに入れると、鍵を持って玄関に向かう。
私の住んでいるマンションは最寄り駅から五分の好立地だが、古いマンションのせいか相場より若干安い。駅前には大きな本屋もあるし、スーパーも品ぞろえが豊富で安く、とても暮らしやすい。まあ結婚でもしたら引っ越すかも知れないが、恋人もいないし、結婚以前に今は仕事が一番大事なので、下手したら老後まで一人でこの町に住んでいるかも知れない。ご縁もないしねえ、こんな仕事だと外にもろくに出ないし。
商店街のいつもお世話になっている家族経営のお弁当屋さんで、ナスの味噌炒め弁当とサラダを買い、思い出したので本屋に寄って弟の新刊ラノベと、買ってなかった私のマンガを数冊購入した。当然出版社からも貰えるのだが、一応書店でも流通させねばならない、という使命感のようなものがどうしても消えない。結果、数少ない友人にあげても我が家の本棚には同じ本が数冊ずつ並んでいる、という自作本屋状態になっている。
スーパーで久しぶりに食材も購入し、思いっきり寝た後はパスタでも作ろうかな、と重たいリュックとお弁当を持ちつつ家路に向かう。
歩いていると、近くにある緑の豊かな公園で、子供がキャーキャー騒ぐ声がする。木が生い茂って中の様子は良く分からなかったが、元気そうでいいねえ、と思いながら通り過ぎようとすると、いきなり大柄な黒い猫が植え込みから飛び出して来た。こっちを見て一瞬立ち止まったが、額のダイヤのような白模様が可愛いな、と思ったものの、驚いたせいか心臓がぎゅっと締め付けられたような気がして咄嗟にうずくまった。
(……苦しい、息が出来ない)
猫が飛び出して来たぐらいで大げさな、と自分に言い聞かせようとしたが、心臓の動悸が収まらない。呼吸がままならない。
「──おい、大丈夫か?」
と男性の声が聞こえたが、大丈夫ですと言おうとしたのに、頭からすーっと血の気が引いていくような状態で言葉も出ず、私はそのまま目の前が真っ暗になり意識を失った。
私はマウスを操作してデータを保存すると、編集に最終回分の原稿を添付ファイルで送信する。増ページだったので本当に締め切りが守れて良かった。これで、今回の連載も無事終了である。
しかし、アシスタントもおらず一人でやっている以上、ページが増えようが手は増えないし、時間も同じである。結果、睡眠時間を削るほかはなく、ここ一週間ほどは一日二、三時間も眠れればラッキーというぐらいには切羽詰まった状態だった。WEBでの月連載とは言え、三十五ページは本当にきつかった。背景もかなり描き込みするタイプなので、いくらグラフィックソフトでトーン処理などが大分楽になったとはいっても、時間は取られてしまうのである。
弟には「姉ちゃんは漫画家としてそこそこ稼いでるんだからさあ、アシスタントとか雇えばいいのに。ずっと若くはないんだよ?」といつも心配されるのだが、自分の絵に誰かの要素を入れる、というのが前から好きではないし、かといってベタ塗り要員だけなら今はマウス操作一つなので、デジタル主流になった現在では不要である。まあ、紙の週刊連載などがもし来たら、そうも言っていられないんだろうけど。
あくびをしつつ椅子から立ち上がると、ふらりと目眩がした。完全に寝不足である。本日は完徹だし。
今日は一日寝てやるぞーと心を決めるが、お腹がきゅるる、と鳴って栄養を催促して来た。そういえば昨夜も今朝も水分とクッキー2枚しか摂った記憶がない。冷蔵庫もどうせ作ってる暇がないからと飲み物ぐらいしかない。
「……お弁当でも買って来るか」
私は財布と携帯をリュックに入れると、鍵を持って玄関に向かう。
私の住んでいるマンションは最寄り駅から五分の好立地だが、古いマンションのせいか相場より若干安い。駅前には大きな本屋もあるし、スーパーも品ぞろえが豊富で安く、とても暮らしやすい。まあ結婚でもしたら引っ越すかも知れないが、恋人もいないし、結婚以前に今は仕事が一番大事なので、下手したら老後まで一人でこの町に住んでいるかも知れない。ご縁もないしねえ、こんな仕事だと外にもろくに出ないし。
商店街のいつもお世話になっている家族経営のお弁当屋さんで、ナスの味噌炒め弁当とサラダを買い、思い出したので本屋に寄って弟の新刊ラノベと、買ってなかった私のマンガを数冊購入した。当然出版社からも貰えるのだが、一応書店でも流通させねばならない、という使命感のようなものがどうしても消えない。結果、数少ない友人にあげても我が家の本棚には同じ本が数冊ずつ並んでいる、という自作本屋状態になっている。
スーパーで久しぶりに食材も購入し、思いっきり寝た後はパスタでも作ろうかな、と重たいリュックとお弁当を持ちつつ家路に向かう。
歩いていると、近くにある緑の豊かな公園で、子供がキャーキャー騒ぐ声がする。木が生い茂って中の様子は良く分からなかったが、元気そうでいいねえ、と思いながら通り過ぎようとすると、いきなり大柄な黒い猫が植え込みから飛び出して来た。こっちを見て一瞬立ち止まったが、額のダイヤのような白模様が可愛いな、と思ったものの、驚いたせいか心臓がぎゅっと締め付けられたような気がして咄嗟にうずくまった。
(……苦しい、息が出来ない)
猫が飛び出して来たぐらいで大げさな、と自分に言い聞かせようとしたが、心臓の動悸が収まらない。呼吸がままならない。
「──おい、大丈夫か?」
と男性の声が聞こえたが、大丈夫ですと言おうとしたのに、頭からすーっと血の気が引いていくような状態で言葉も出ず、私はそのまま目の前が真っ暗になり意識を失った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる