こっち見てよ旦那様

文字の大きさ
4 / 219
2

.

しおりを挟む


朝7時半
今日はゆっくりと目を覚ます。
いつもは6時に起きて簡単な朝食を彼に作る。
が、今日は2人とも休みなのでゆっくりめ。潤也さんを起こさないように目覚ましを止めて洗面所で顔を洗う。

今日はサンドイッチを作ろうかと思う。
いや、せっかく色々揃っているのでホットサンドにしようか。
彼が起きてきたら焼いて、焼きたてを出せばいい。
下準備だけしておこう。
具は卵、チーズとハム、茹でキャベツとウィンナー。
ひとつずつ作って半分ずつ食べよう。
具は余ったら明日の僕の昼ごはんにすればいい。

「…おはよう」

「おはようございます、ご飯用意しますね」

寝癖のついた潤也さんがリビングへ現れる。
相変わらず目を逸らされるが挨拶をしてくれた、少し嬉しい。
温めておいたホットサンドメーカーにパンをセットして珈琲を用意していると台所へそっと入ってきた潤也さんに指で控えめに背中をつつかれる。

「…手伝う…なんか運ぶものとかあれば」

意外な言葉に驚くも食器を並べてもらうことにした。
ペアになっている食器のセットは、嫁いだ時からこの家にあったものだがお気に入りだ。誰が選んでくれたのだろう。
潤也さんに聞いてみようかなとテーブルにナイフとフォークを並べる彼に目をやる。
…とても一生懸命だ。

淹れた珈琲をテーブルに持っていき、焼きあがったサンドを切ってみる。
熱々のサンドから香るいい匂いととろりとチーズが溢れ出す。
美味しそう、と自画自賛しているとじっとこちらを見つめている潤也さんがいる。
まあ、目線の先は僕ではなくホットサンドだったのだが。
溢れるチーズをキラキラとした目で見ているのに胸がキュッとなる。

「冷めないうちに食べましょうか」

表情はいつもの通り固いままだが目が好奇心を物語っている。
2人で向かい合う形で席について食べ始める。焼きたての外はサクサク中はふんわりのパンに熱々の具材がマッチして美味しい。
今度は他の具材を試してもいいかな、なんて思いながら彼に「…この食器は誰が選んでくれたんですか」と尋ねてみる。
顔を上げた彼がもじもじとフォークを置き、珈琲を手に取りながら目を逸らした。

「…俺だが…その、気に入らなかったらお前の好きなように変えてもいい」

「そんなことないです、とっても気に入っているので嬉しくて」

彼が選んでくれたのか、と事実にまたもや驚いてしまった。それでは仕事場の家具も?と尋ねてみる。

「お前の…過去の仕事の作品とかを見て…ああいった物が好きなのかと思った」

まるでダメだったか…?とでも言いたげな、こちらの様子を伺う子犬のようだ。
公の場とはまるで違う彼の態度に少し優越感が生まれる。自分だけが彼のこの表情を見れるのだろうか、そうであって欲しいと。

「…嬉しいです。ミシンも揃えてもらって、とっても感謝してるんですよ」

少し照れくさいけれど、なかなか話す機会もなかったのでお礼をする。
他にも話したいことは沢山ある、けれど今はこれで充分。これこらもっと、ゆっくり話していこうなんて気が遠くなる。けれどそれも悪くないかな、なんて思ってしまうのだ。

キラキラとした朝日が射す明るいリビングで、二人きりの朝食を幸せに過ごすことが出来た。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

処理中です...