こっち見てよ旦那様

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3 潤也目線

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「…俺だ。入っていいか」

準備が終わると早急に彼の控え室のドアをノックする。 

「どうぞ」

彼の声がする。いい、と言われたのに開けるのを躊躇ってしまう。緊張してたまらない。
意を決して開けるとそこにはいつもと雰囲気の違う彼がいた。

片側の髪を耳にかけ、赤い唇が彼の白い肌や綺麗な黒髪を際立たせている。
すでに目を合わせられない…が、吸い込まれるように見てしまう。
タキシードは彼のしなやかな体にぴったりで、とても綺麗だ。

「あ、あの…どうですか?」

一歩近づいてきた彼に見つめられ咄嗟に目を逸らし、口元を覆う。
不味い、赤くなってしまう。いや、もうすでに赤いのではないか。

「か、可愛いし…とても…綺麗だ。」

人は、混乱しているとき、何も考えずに言葉を口にしてはいけない。
なぜなら今、俺がそれをやってしまったからだ。
今自分はなんと言っただろう。可愛い?綺麗?、心の底から本心なのだが、彼から気持ち悪いなんて思われたらどうしてくれる。
やってしまった、とこれの様子を伺う。これで引かれた顔をされたらもう生きていけない。

「っ…あ、ありがとう…ございます。…潤也さんも、とてもお似合いで…格好いいです」

彼の言葉に目を見張る。
彼の顔が赤い、さっきまでこちらを見ていた目は軽くそらされ、何かを堪えるようにギュッと結ばれた口が可愛らしい。

どうしよう、嬉しすぎる。
お世辞だろうか…いや、分からないが。お世辞でも嬉しい。今なら空も飛べる気がする。

「ありがとう…。あー…えっと…そろそろ客人がくる。…い、行こうか」

自分でも呆れるほど調子に乗っている気がする。
行こうか、なんて言って手を差し出してしまった。引っ込めようにもここで引っ込めるわけが無い。どうしようかと焦っていると彼がそっと手を重ねる。

「はい、行きましょうか」

やはり空を飛べるのではないか。いや、もう浮いているかもしれない。

控え室を出て受付で廣瀬と合流し、客人を迎える準備を進める。

「仲が良いのは大変存じておりますが、少々両手が必要になりますので少しの間離して頂いても?」

サイン用紙とペンを差し出した逢瀬にそう言われ、慌てて手を離す。
今言われなければずっとこのままになっていただろう。危なかった。
その後、書類にサインをしたり名簿の確認をしているうちに時間は過ぎていき、客人がチラホラと会場へ集まってきた。

時間になると軽く挨拶をし、祝辞の言葉をいくつか頂いて立食パーティに移る。

「…客人の相手は大体は俺がする…一緒にいろ」

少し後ろにいる彼に声をかけ、料理を少量皿に取っていると案の定、人が寄ってくる。

「お久しぶりです。この度はご結婚おめでとうございます。」

「鈴木様、お久しぶりです。ありがとうございます、今夜はゆっくりお過ごしください」

全く、彼の前ではありえないほど舌が回る。

「ご結婚おめでとうございます。…いやぁ、それにしても良いお嫁さんを貰いましたな」

「ああ、本当です。とても良い妻ですよ」

笑顔を浮かべて彼の様子を伺う。
少し離れたところで数人と話しているようだ。なかなか囲まれているし、詰め寄られいるような気がする。…そろそろそちらに行くかと方向転換をしようとすると彼と話している男の手が彼の腰に触れる。
あの男、恐らくアルファだ。

触るな。
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