9 / 219
3 潤也目線
..
しおりを挟む「…俺だ。入っていいか」
準備が終わると早急に彼の控え室のドアをノックする。
「どうぞ」
彼の声がする。いい、と言われたのに開けるのを躊躇ってしまう。緊張してたまらない。
意を決して開けるとそこにはいつもと雰囲気の違う彼がいた。
片側の髪を耳にかけ、赤い唇が彼の白い肌や綺麗な黒髪を際立たせている。
すでに目を合わせられない…が、吸い込まれるように見てしまう。
タキシードは彼のしなやかな体にぴったりで、とても綺麗だ。
「あ、あの…どうですか?」
一歩近づいてきた彼に見つめられ咄嗟に目を逸らし、口元を覆う。
不味い、赤くなってしまう。いや、もうすでに赤いのではないか。
「か、可愛いし…とても…綺麗だ。」
人は、混乱しているとき、何も考えずに言葉を口にしてはいけない。
なぜなら今、俺がそれをやってしまったからだ。
今自分はなんと言っただろう。可愛い?綺麗?、心の底から本心なのだが、彼から気持ち悪いなんて思われたらどうしてくれる。
やってしまった、とこれの様子を伺う。これで引かれた顔をされたらもう生きていけない。
「っ…あ、ありがとう…ございます。…潤也さんも、とてもお似合いで…格好いいです」
彼の言葉に目を見張る。
彼の顔が赤い、さっきまでこちらを見ていた目は軽くそらされ、何かを堪えるようにギュッと結ばれた口が可愛らしい。
どうしよう、嬉しすぎる。
お世辞だろうか…いや、分からないが。お世辞でも嬉しい。今なら空も飛べる気がする。
「ありがとう…。あー…えっと…そろそろ客人がくる。…い、行こうか」
自分でも呆れるほど調子に乗っている気がする。
行こうか、なんて言って手を差し出してしまった。引っ込めようにもここで引っ込めるわけが無い。どうしようかと焦っていると彼がそっと手を重ねる。
「はい、行きましょうか」
やはり空を飛べるのではないか。いや、もう浮いているかもしれない。
控え室を出て受付で廣瀬と合流し、客人を迎える準備を進める。
「仲が良いのは大変存じておりますが、少々両手が必要になりますので少しの間離して頂いても?」
サイン用紙とペンを差し出した逢瀬にそう言われ、慌てて手を離す。
今言われなければずっとこのままになっていただろう。危なかった。
その後、書類にサインをしたり名簿の確認をしているうちに時間は過ぎていき、客人がチラホラと会場へ集まってきた。
時間になると軽く挨拶をし、祝辞の言葉をいくつか頂いて立食パーティに移る。
「…客人の相手は大体は俺がする…一緒にいろ」
少し後ろにいる彼に声をかけ、料理を少量皿に取っていると案の定、人が寄ってくる。
「お久しぶりです。この度はご結婚おめでとうございます。」
「鈴木様、お久しぶりです。ありがとうございます、今夜はゆっくりお過ごしください」
全く、彼の前ではありえないほど舌が回る。
「ご結婚おめでとうございます。…いやぁ、それにしても良いお嫁さんを貰いましたな」
「ああ、本当です。とても良い妻ですよ」
笑顔を浮かべて彼の様子を伺う。
少し離れたところで数人と話しているようだ。なかなか囲まれているし、詰め寄られいるような気がする。…そろそろそちらに行くかと方向転換をしようとすると彼と話している男の手が彼の腰に触れる。
あの男、恐らくアルファだ。
触るな。
32
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる