こっち見てよ旦那様

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. 潤也目線

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今日は手術当日。
彼が事前に入院している3日間、彼のいない家に帰るのも味気なくてお見舞いを終えてからも家で仕事をしていた。
というのも、手術後に休みをできるだけ取れるようにするためでもある。

寝不足だ。
しかし、そんな中でも頭も目もぱっちりと起きている。
昼前に彼の病室を尋ねると既に手術着に着替えた彼が点滴に繋がれていた。

「透」

「潤也さん、もうすぐ行きますよ」

「そうか…。傍にいられないけど頑張れ、終わったらずっといるから」

彼の手を握り、こちらが透を励ますつもりがあやされる形になってしまう。
何か相当なことがない限り安全とは分かっているが心配で堪らない。

「ママと無事で産まれてきてくれよ…」

念を押すように我が子にも語りかける。
今となっては自分にとっては透もゆうも掛け替えのない存在だ。

「三ツ橋さん、そろそろ行きましょうか」

病室をノックして看護師が数名入ってくる。
最後に彼を抱きしめて、病室から出ていく彼をできるだけ見送った。

「旦那さんはこちらへどうぞ」

そう言われて通されたのは手術室に近い控え室。
手術自体は直ぐに終わるらしいのだが、麻酔やその他準備、後処理等で時間がかかるらしい。
体はこんなに疲労して眠いはずなのに緊張して眠くもないし、落ち着いて座っていられない。

「…やはり落ち着きないですね」

突然話しかけられ驚くとコンビニのビニール袋を片手に廣瀬が入口に立っていた。

「来たのか」

「はい、検診に楓斗を送って帰ってきたところです。自分もここにいるって聞かなかったんですけど何かあったら困るのでまた後で行くと約束して家に返しました。」

「そ、そうか…」

今日は廣瀬の楓斗ークも頭に入ってこない。
膝に肘を置いてソワソワしていると目の前にビニール袋を置かれる。

「ほら、昼飯食べてないでしょう。食べてください」

「あぁ、ありがとう」

「大丈夫ですから、透さんが一番不安なのにあなたがソワソワしてどうするんですか、シャキッとしてください」

バシッと背中を叩かれる。
痛い、こいつ本気で叩いたな…。本当にどっちが上司なのか。

廣瀬の買ってきたおにぎりとお茶を食べながら待つこと1時間程、バタバタとした足音と共に赤ん坊の鳴き声がうっすら聞こえる。

ハッとして立ち上がるとドアが開き、手術着の看護師が大きな産声の反面、小さな赤ん坊をタオルに包んで入ってくる。

「産まれましたよ、男の子です。良かったですねぇ」

驚きと感動が一気に押し寄せ、よろよろと生まれたばかりのゆうに近付こうとするとさっさと看護師さんはゆうを連れて行ってしまった。
やり場のなく伸ばされた手に虚無感を抱いていると廣瀬に肩を叩かれる。この叩きは優しかった。

それにしても…。
生まれたんだ…と改めて大きな感情が押し寄せ涙が溢れる。
大の大人が情けないだろうか。…いや、最愛の人との大切な子供が無事に生まれたんだ、これくらいいいじゃないか。
そう開き直ると久しぶりにべそべそと泣いてしまった。
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