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おしどり夫婦の廣瀬さん
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しおりを挟む「透達動物園行ってる。いいなぁ」
透の日常垢に上げられた投稿を見てホンワカする。
海來もそういうとこに連れていきたいけれどなかなか一日休みが重ならない。
育児中だからモデルの仕事は控えてはいるものの、どうしてもと頼まれたものや事務所の練習生の指導をたまにしている。
やむを得ず翼さんの実家や託児所へ預けたりするが、翼も最近は忙しいらしい。
「海來、パパ迎えに行こか」
「ぱぱ!」
「そうそう。はい、ごよーいは?」
「あい!」
託児所で覚えたのか、ご用意?と聞くとはい!と元気よく返事をしてくれる。
本当に可愛い超えて愛しい。
遊んでいた玩具を片付け、よちよちと帽子とお気に入りのポシェットを持ってくる。
「はいよく出来ました~!出発~」
いつもならタクシーを使うが、最近はバスを使っている。
バス停まで歩いて昼間の空いているバスに乗る。これなら海來が泣いたりしても迷惑にはならないし気兼ねなく乗れる。
そして何より、窓側の席を取れる。
「ぴ、しゅる!」
「落とさないでねー」
バスが来るとICカードをピッとさせろとお願いする海來にカードを渡し一緒にピッとする。
案の定、バスは空いていてチラホラとご老人や買い物帰りの主婦が乗っているだけだった。
「ぶぶー」
「海來、バスの中はしーだよ」
「しーっ。」
「そうそう」
真似っ子太郎だ。
興味津々に膝の上から窓にへばりつき、熱心に外の景色を眺めている。
遠回りのやつに乗って良かった。
「次は〇〇〇~」
「海來、ここ押して」
これの会社の近くのバス停で降り、少し歩く。昼過ぎだからか、会社員達がたくさん歩いている。
はぐれないようにしっこり手を繋いで道の隅をゆっくり歩く。
「すみません。…もしかして楓斗さんですか?」
突然後ろから若い男女の4、5人グループに声をかけられ驚く。
マスクと帽子を被っていたのにまさか気が付かれるとは思ってなかった。
「やっぱそうだよ~!」
「やば、初めて見た」
「いつも雑誌見てます!」
まあ、ファンサービス、と海來の帽子を深く被せて、自分のマスクを外す。
「マスクもしてたのによくわかったね。…見てくれるのすっごい嬉しい。ありがと」
「すごい…あ、サインとツーショいいですか!?」
「もっちろん。あ、子供は写さないでね」
差し出された紙とペンにサインを書いていく。中でもカバンに書いて欲しいと行ってきた男の子は凄かった。
「ありがとうございます…!あ、俺らもう行かなきゃ。」
「そっか、仕事頑張ってね。…君は行かないの?」
「俺は急いでないので。…すみません、俺ずっと大ファンで…会えると思ってなかったので」
ファンの子に会えるのは嬉しいけれど、申し訳ないが海來もいるので早くこの場を立ち去りたい。
「えっと…そろそろ」
「あ、あの!よくここには来るんですか?」
「そ、そうだね…あんまかな。今日はたまたま」
約束の時間になっちゃう…。
会社はすぐそこなのに…
「あ、あの!良ければ俺のライン…追加しなくてもいいんで…読み込みだけでも」
「いや…そういうのは」
うわぁ、こんなこと言いたくないけど面倒!今はプライベートだっつの!
海來も足取りを止められて機嫌を損ねそうだし、どうしよう…と困っていると後ろからふわりと抱き寄せられる。
「ファンの子?」
「翼…?!」
「パパ!」
翼が営業スマイル作ってる…。いや、軽い威嚇か。
その迫力に男の子は怖気付いて1歩引いて「ありがとうございました」と立ち去ってしまった。
「ごめんな迎えよこせば良かった」
「いいよいいよ。外歩きたかったし、海來も外好きだから。…まあ、バレるとは思ってなかったけど」
「そうか…なんかあったら心配…。絶対危険と思ったら逃げるんだよ」
「わーってる!ほら、行こう」
「海來、行こう」と手を引くと嫌がってしゃがみこんでしまった。
もう歩きたくない!だそうな。そりゃああんだけ足止めされたら気分悪いよな…と苦笑すると翼が海來を抱き上げる。
「ほーら、公園行こうな。…ほら、荷物持つよ」
「いいよ、翼もカバンあるじゃん」
「いーの、風斗に重いものは持たせないって言ったじゃん?」
「何年前の話だよ…冗談だったし」
「約束は約束だからね」
「…ばーか」
デレデレのくせに、そういうとこ男前でムカつく。
まあ、悪くないけど。
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