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 美生さんの細い指先が、俺の手の甲へと静かに這わされる。


 ――こ、これはオネダリだ。

 未経験の俺でも分かる。美生さんは、俺の金で酒が飲みたいのだ。

 漫画なんかで見たことがあるが、キャバクラやホストは客が飲み物を頼めば頼む程給料が貰える歩合制。

 か、可愛い女の子ならまだしも、なんで男に高い金を払って酒を飲ませてやらないといけないんだ!

 此処はちゃんと断らないと!金の無駄過ぎる!


「あ、あの……」

「駄目、でしょうか」

 俺が断る前に、美生さんはその美しい顔を俺の顔へと近付けて極めて狡いセリフを吐いてきた。

 色素の薄い瞳に射止められながら、俺は思わず断り文句ごと息を飲む。


「……その、予算、一万円くらいしか無いので……半額で五千円くらいになるやつで、お願いします」


 完 全 敗 北。


 美生さんは満足気な様子でボーイにビールとカシスウーロンを注文した。

「ありがとうございます、シンデレラ。お飲み物をいただいた分、貴方をたっぷりと癒せるように頑張りますので」

 そう言って美生さんは俺の指を絡めとり、手の甲へと柔らかな口付けを落としてきた。

「ちょ、ちょっ……!」

 俺は思わず勢いよく立ち上がった。

 顔が爆発しちまうんじゃないかと思うほどの熱。緊張。羞恥。


 何だかとてつもなく逃げ出したい。

 こんなの、刺激が強すぎる。



「俺、トイレ行ってきます!すみません!」

 俺は座っていた席をするりと抜け、トイレの方向も分からないくせに早足に席から離れた。


 ……ま、まだ心臓がバクバクいってる。

 一旦トイレで落ち着こう。んで、戻ったら酒を一杯呑んでさっさと海都と帰ろう。そうしよう。

「よし……トイレは……」

 俯いていた俺がトイレの看板を見つけようと顔を上げた刹那ーー



 ドンッ!

「わっ……」

 身体に大きな衝撃が走ると同時に、身体が後ろへ軽く跳ね返る。

 そして、ガシャンッとガラスの割れるような音が響き渡った。



「おい、お前……」
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