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モブは モブなりに大変なのです
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「ですから…何度も申し上げているように、私は、何も存じません」
「何でも良いのです。どんな小さな事でも、思い出していただけませんか?」
「確かに、私は、アルテミシア様の派閥に属しておりましたが、マルロー伯のご息女、シンシア様の紹介があってのもので、直接言葉を交わしたもの、一、二度でございますから…」
私の言葉に、肩を落とし立ち去るブロンディア公の家臣の方々。
大事があったあの日から、この一月の間、ほぼ毎日の様に見ている後ろ姿をそっと見送りました。
そう、一月前のあの日、王城で春の訪れを祝う宴が催されました。
私の家は、父が興した商会がうまく行き、そのお金で爵位を手にいれた男爵家。
成り上がりとして他の貴族の方から白い目で見られても不思議はないのに、この国の貴族は、皆、実力主義の方が多く、変に嫌味な事はせず直ぐに受け入れて下さいました。
その為、いきなり編入させられた貴族専門の学院にも直ぐに馴染む事が出来ました。
そして、大事があった宴にも、私達のような下位の者にもお声が掛かり、出席しておりました。
はじめは、春の訪れを祝う唄や音楽で楽しい雰囲気でしたが、途中からおかしな雲行きになり…
そして、その場で、第一王子の婚約者であるアルテミシア様が不義の罪で断罪され、国外追放を言い渡されてしまったのです。
私は、学院での最初のお友達となった伯爵令嬢のシンシア様の紹介で、アルテミシア様の派閥に入っていたのですが、とても信じられず騒ぎだした王子の取り巻きたちに殺意を覚えました。
アルテミシア様は、国の政を支える文官の一人、ブロンディア公爵、ユーリス卿のご息女で、容姿端麗、文武両道の姉御肌…あ、失礼しました。貴族になるまで、このように難しい言い回しはしておりませんでしたので…つい…
少し疲れてきたので、ぶっちゃけてしまいますけど、アルテミシア様は、国で一、二を争う美貌の持ち主とされるお母様によく似て、そりゃぁもう、おキレイな方でして、八頭身のバランスよい体つきで、肌は白く艶めいていて、ふわりとした腰まである金髪を婚約者有りを示す髪型に美しく結い上げ、卵形の小さなお顔、ツンとした形のよい鼻に、艶のある唇、蒼い瞳に丸くて少しつり上がった目は、猫のように愛らしく。
その上、学院での成績は、学術はもちろん、魔術や武術に関しても、凄い優秀でしてね。
私達、下々の者にとっては、憧れの的だったのに、突然、不義の罪って…
もう、そんなこと言い出した王子の取り巻きの一部の者達を、張り倒したくなりましたけど…そこは、我慢をしましたよ。一応、アルテミシア様の派閥の者として事情を知っていましたからね。
それでも…不義の罪は、無いでしょうが!
…コホン。失礼しました。
そして、アルテミシア様は、この国を出ていかれたとの事です。
しかし、それで話は済みませんでした。ブロンディア公爵家は、アルテミシア様の無実を証明するために奔走し、その甲斐あって三日目の朝には、今回の騒動の真相が分かりました。
事の発端は、半年前に、私と同じように、親の商売が当たり爵位を手に入れ、学院に転入してきた一人の少女でした。その少女は、とても強い向上心の持ち主で、平民から、王妃になる計画を立てて、実行していたようです。
はぁ…私の様に、日々平穏に暮らしている者には分かりませんが、周りの人々を不幸にしてまで叶える夢で、本当に幸せになれるのでしょうか?
あ、私の事は、どうでもいいですね。
今は、私とは別の、平民上がりの男爵令嬢の話です。
ちょうどその令嬢が学院に編入してきた頃、第一王子が成人する来秋に、王太子としての就任式も行われる事が掲示されました。
そんなことがあったので、その令嬢は、自分が第一王子の婚約者になるべく、王子の取り巻きたちに取り入り、アルテミシア様を罠に嵌めたのです。
その証拠を集めユーリス卿は(ついでに、その男爵家の黒い噂の真相も一緒に)国王陛下に直訴したようで、真実を知った国王の怒りを買い、その令嬢の家は爵位を返上することに、そして、次の婚約者として名が上がっていたその令嬢が、取り巻きたちとの不義の話も公になり、家族揃って、人の住んでいない辺境地へ流刑されたそうです。
そして、無実の罪で断罪され、国を追われたアルテミシア様への同情の声を聞き国王陛下も冤罪を認め、直ぐにアルテミシア様の捜索が行われましたが、既に、行方知れずとなっており、手がかりが掴めないまま日が過ぎている状況です。
私どもの娯楽の一つに物語がございます。
近頃の流行りは、無実の罪で家を追われた高位の令息や令嬢が、訪れた先で悪事を裁く、世直し旅が多く出版されています。今回の事を聞きつけた業者関係者は、我先にと、アルテミシア様の世直し旅の物語をつくり始めているそうです。
父にその情報をもらった時点で、私も、予約をしてきたので、出来上がりが楽しみです。
きっと、アルテミシア様が、世にはびこる悪党どもをギッタンギッタンに懲らしめてくれるのでしょうから、スッキリする事間違いなしです。
グフフフフ…
「キャロライン?どうしたの?」
あ、つい、アルテミシア様の大立ち回りを想像して、顔がゆるんでしまっていたようです。
目の前に座るアルテミシア様が、怪訝なお顔でこちらを見ています。
「あ、いえ、少し思い出したことが御座いまして…それより、公爵様に本当の事を打ち明けずに行ってしまわれるのですか?」
「ふふ、お父様なら、分かって下さっていると思いますわ、何しろ、家を出るときに、一緒に連れてきたのが彼だけなのだから」
そう言ってアルテミシア様が見上げる先には、黒く日に焼けた端正な顔立ちの一人の青年がいます。
何でも、ブロンディア公爵家の庭師の長男で、アルテミシア様方、公爵家のご兄妹の幼馴染みなんだそうです。
そして、アルテミシア様の初恋の相手でもあり、この方がおりましたので、アルテミシア様は、第一王子の婚約者には、なりたくなかったそうなのです。
ご幼少の時に、何人かの候補の中に自分の名を見てからは、何とかして候補から外してもらおうと画策したそうなのですが、全てが裏目に出てしまい。いつの間にか、他の候補者の名はなくなり、アルテミシア様だけになってしまったときには、一晩中泣き明かしたと聞いております。
少し誤解されそうなので、一言付け加えますと、第一王子は、決して醜男ではありません、むしろ白馬が似合う、王子らしい王子様でございますし、学院も首席で卒業するほどの優秀な方でございます。ただ、アルテミシア様にとって迷惑な話だったというだけで…
そんなアルテミシア様でしたから、今回の男爵令嬢の行いは渡りに船で、直ぐに飛び乗ったのです。半年前に、男爵令嬢がこそこそと動きだした時に直ぐに調べあげ、男爵令嬢の先回りをし、男爵令嬢が望む様な道を作り上げてしまいました…ただし、途中まで…
『自分が断罪され、表舞台から消えたあとの事までは、責任持てませんから』
と、微笑むアルテミシア様は、本当にお綺麗でした。
そして、今、国外追放され、旅立ったと思わせたアルテミシア様は、派閥の中で最下位である私の屋敷に滞在しております。
それはどうしてかと申しますと、私の家は商売がら、定期的に他国へ買い出しへと向かいます。その馬車に同乗させアルテミシア様方を目的の地へお連れする手筈になっているのです。
もちろん、私だけではそんなことを決められる訳がございません。両親や兄弟はもちろん、家臣も、店にいる下働きの者たちも含め、公爵様にも、国王陛下にも知られぬよう厳重注意の中、アルテミシア様捜索の手の隙をつく時を狙っていたのです。
この事については、私以外の派閥の方々も存じていますが、皆様は、家族に知らせることなく、アルテミシア様の事を守り通しております。
そして、一月が過ぎた今日、ブロンディア公爵家の方々はまだ、捜索されていますが、国王の家臣の方々は諦めた空気が漂い始め、明日にでも、捜索中止となりそうだという連絡があったのです。その事を聞いた父が、一週間後にアルテミシア様方をお送りすることに決めたので、その支度を手伝うために、アルテミシア様が滞在しているお部屋に足を運んだのです。
「分かりました。この事については、お二人が旅立った後も口をつぐむ事とします」
「ごめんなさいね。貴方を巻き込んでしまって、でも、貴方達なら、私の力になってくれると信じられたので、とても助かりました」
「そんな、私達は、好きでしたことですから、頭を下げるのはやめてください。それよりも、旅の支度でまだ、揃っていない物はございますか?」
「いいえ、半年の間にちゃんと準備をし、ここに来てからも、キャロライン達が、手を貸してくれたので、今直ぐにでも旅立てますわ」
「それは、良かったです。それから、あの、少し申し上げにくいのですが…」
「何かしら、何か気づいた事があるなら言ってちょうだい」
「そのう、アルテミシア様の所持金について…父から言付かっておりまして…」
「まぁ、ゴードウィン男爵様が?何なのですか?」
商人の娘とはいえ、お金の事を話すのはあまり慣れておりませんので、私が気づいたのですが、ここは、父が気づいた事にして話させてもらいます。
「確かにそうですわ。流石は、王国一の商会を興し運営している方ですわね。では、お言葉に甘えてお願いできますか?」
私が言ったことを聞き、アルテミシア様は、ご自身の無限収納から、金貨の詰まった皮袋を取り出すと、私に差し出してきました。
「あ、アルテミシア様、そんなに沢山は無理があります。一枚で構いませんので、出していただけますか?」
「一枚だけで良いのかしら?」
「充分でございますから、少し、お待ちください」
そう言って、私は部屋を後にし、父の所に向かいました。
アルテミシア様が用意された所持金は、金貨ばかりの物でした。大きな街なら良いのですが、これから向かうのは、農村で金貨など見たこともない者達が住んで居るところなのです。
ですから、村でも使える小さいお金に両替しておいた方が良いと思ったのです。
その事を父に申しますと「良く気がついたと」誉めて下さいました。
「何、あの村には、もうすぐ支店が出来るからな、後は、その支店で両替してもらうことにしよう」
あ、そういう手筈になっていたのですね。
私の考えなど、所詮こんなものです。
アルテミシア様の計画を聞き、父は直ぐに動き出しました。アルテミシア様が指名した庭師の兄夫婦が暮らすという村の事を調べあげ、その村に行く道を、隣国へ向かう主街道にするため、整備拡張工事の計画案を提出し、それが通ると、その街道沿いにある町村に、支店を出す事を決定し、王都内で、職に溢れている者のところや、孤児院に行き、その町村への移住希望者を募り、その移住者支援の団体まで設立しました。
そして、その移住希望者の第一団が一週間後、商会の馬車に同乗する事になっているのです。
自分の父親なのですが、なんというか…
アルテミシア様方を無事に送るために、凄いことを計画するものだと、呆気に取られていましたが、後々の事まで考えての行動だったのですね。
アルテミシア様といい、父といい、どうして、先々の事まで見渡せるのでしょうか…とても羨ましいことですが、私には、到底出来そうもございません。
そんなこんなで、一週間はあっという間に過ぎ。
予想通り、国王はアルテミシア様の捜索を打ちきり、王都内、外、騎士達の姿がめっきり減ったとの事です。
「私の、ワガママに巻き込んでしまって、申し訳ありませんでした。このご恩は一生忘れません。何か、私で力が貸せることがあれば、何なりと仰ってください」
アルテミシア様は、そう言って深々と頭を下げ馬車に乗り込みました。
私は、ただ、ただ、それを見ているだけでした。父が何か言っていますが、それを理解する事が出来ずにいます。
どうしてか申しますと、憧れのアルテミシア様との別れが辛いとか、悲しいというわけではないのです。だって、会いに行ける場所なのですから…今は、そんなことではなく、アルテミシア様の容姿の変化に驚きすぎて、頭が真っ白になっているのです。
何と、アルテミシア様は、ご幼少の頃より、魔術で容姿を偽っていたのです。
理由は、簡単です。恋人である庭師の長男さんと人目を気にせず遊びたかったからだそうで…
魔術を解いて素になったアルテミシア様は、父親のユーリス卿と同じ赤毛に翠の瞳、ツンとした鼻の周りには、ソバカスが…パーツの形は変わっていませんが、色が違うだけで、こんなにも印象が変わるものかと、驚いているところでございます。
そうして、アルテミシア様方は、新天地へと旅立たれました。
めでたし、めでたしです。
「さて、明日からは、お前が忙しくなるのだから、今日は、ゆっくり休むといい」
は?父がおかしな事を言っています。
アルテミシア様を見送ったのですから、明日からは、お気楽生活に戻るだけなのでは?
不思議に思いましたが、アルテミシア様の事以上の事が思い浮かびませんので、父の言うことはスルーする事にして、自室で、のんびりまったりと過ごしました。
そして、次の朝、屋敷の前に大変立派な二頭立ての馬車が…
「良いですか、あなたは、やれば出来るのです。しっかりと身に付けるのですよ」
母が、鼻息荒く、私の背を叩き励ましてくれます。
「フッ、何処に出しても恥ずかしくない娘だ。気負うことはない。ただ、しきたりは覚えなくてはな」
父が、そう言って、頭を撫でます。
そして、私は馬車に乗せられ、王城へ…
ドナドナドーナー
と、聞き覚えのないフレーズが聞こえたような気がしましたが…
そんなことに、気を取られる暇もなく、始まりました第一王子の婚約者となり、それに伴う教育が…
私って、モブキャラです…よね?
「何でも良いのです。どんな小さな事でも、思い出していただけませんか?」
「確かに、私は、アルテミシア様の派閥に属しておりましたが、マルロー伯のご息女、シンシア様の紹介があってのもので、直接言葉を交わしたもの、一、二度でございますから…」
私の言葉に、肩を落とし立ち去るブロンディア公の家臣の方々。
大事があったあの日から、この一月の間、ほぼ毎日の様に見ている後ろ姿をそっと見送りました。
そう、一月前のあの日、王城で春の訪れを祝う宴が催されました。
私の家は、父が興した商会がうまく行き、そのお金で爵位を手にいれた男爵家。
成り上がりとして他の貴族の方から白い目で見られても不思議はないのに、この国の貴族は、皆、実力主義の方が多く、変に嫌味な事はせず直ぐに受け入れて下さいました。
その為、いきなり編入させられた貴族専門の学院にも直ぐに馴染む事が出来ました。
そして、大事があった宴にも、私達のような下位の者にもお声が掛かり、出席しておりました。
はじめは、春の訪れを祝う唄や音楽で楽しい雰囲気でしたが、途中からおかしな雲行きになり…
そして、その場で、第一王子の婚約者であるアルテミシア様が不義の罪で断罪され、国外追放を言い渡されてしまったのです。
私は、学院での最初のお友達となった伯爵令嬢のシンシア様の紹介で、アルテミシア様の派閥に入っていたのですが、とても信じられず騒ぎだした王子の取り巻きたちに殺意を覚えました。
アルテミシア様は、国の政を支える文官の一人、ブロンディア公爵、ユーリス卿のご息女で、容姿端麗、文武両道の姉御肌…あ、失礼しました。貴族になるまで、このように難しい言い回しはしておりませんでしたので…つい…
少し疲れてきたので、ぶっちゃけてしまいますけど、アルテミシア様は、国で一、二を争う美貌の持ち主とされるお母様によく似て、そりゃぁもう、おキレイな方でして、八頭身のバランスよい体つきで、肌は白く艶めいていて、ふわりとした腰まである金髪を婚約者有りを示す髪型に美しく結い上げ、卵形の小さなお顔、ツンとした形のよい鼻に、艶のある唇、蒼い瞳に丸くて少しつり上がった目は、猫のように愛らしく。
その上、学院での成績は、学術はもちろん、魔術や武術に関しても、凄い優秀でしてね。
私達、下々の者にとっては、憧れの的だったのに、突然、不義の罪って…
もう、そんなこと言い出した王子の取り巻きの一部の者達を、張り倒したくなりましたけど…そこは、我慢をしましたよ。一応、アルテミシア様の派閥の者として事情を知っていましたからね。
それでも…不義の罪は、無いでしょうが!
…コホン。失礼しました。
そして、アルテミシア様は、この国を出ていかれたとの事です。
しかし、それで話は済みませんでした。ブロンディア公爵家は、アルテミシア様の無実を証明するために奔走し、その甲斐あって三日目の朝には、今回の騒動の真相が分かりました。
事の発端は、半年前に、私と同じように、親の商売が当たり爵位を手に入れ、学院に転入してきた一人の少女でした。その少女は、とても強い向上心の持ち主で、平民から、王妃になる計画を立てて、実行していたようです。
はぁ…私の様に、日々平穏に暮らしている者には分かりませんが、周りの人々を不幸にしてまで叶える夢で、本当に幸せになれるのでしょうか?
あ、私の事は、どうでもいいですね。
今は、私とは別の、平民上がりの男爵令嬢の話です。
ちょうどその令嬢が学院に編入してきた頃、第一王子が成人する来秋に、王太子としての就任式も行われる事が掲示されました。
そんなことがあったので、その令嬢は、自分が第一王子の婚約者になるべく、王子の取り巻きたちに取り入り、アルテミシア様を罠に嵌めたのです。
その証拠を集めユーリス卿は(ついでに、その男爵家の黒い噂の真相も一緒に)国王陛下に直訴したようで、真実を知った国王の怒りを買い、その令嬢の家は爵位を返上することに、そして、次の婚約者として名が上がっていたその令嬢が、取り巻きたちとの不義の話も公になり、家族揃って、人の住んでいない辺境地へ流刑されたそうです。
そして、無実の罪で断罪され、国を追われたアルテミシア様への同情の声を聞き国王陛下も冤罪を認め、直ぐにアルテミシア様の捜索が行われましたが、既に、行方知れずとなっており、手がかりが掴めないまま日が過ぎている状況です。
私どもの娯楽の一つに物語がございます。
近頃の流行りは、無実の罪で家を追われた高位の令息や令嬢が、訪れた先で悪事を裁く、世直し旅が多く出版されています。今回の事を聞きつけた業者関係者は、我先にと、アルテミシア様の世直し旅の物語をつくり始めているそうです。
父にその情報をもらった時点で、私も、予約をしてきたので、出来上がりが楽しみです。
きっと、アルテミシア様が、世にはびこる悪党どもをギッタンギッタンに懲らしめてくれるのでしょうから、スッキリする事間違いなしです。
グフフフフ…
「キャロライン?どうしたの?」
あ、つい、アルテミシア様の大立ち回りを想像して、顔がゆるんでしまっていたようです。
目の前に座るアルテミシア様が、怪訝なお顔でこちらを見ています。
「あ、いえ、少し思い出したことが御座いまして…それより、公爵様に本当の事を打ち明けずに行ってしまわれるのですか?」
「ふふ、お父様なら、分かって下さっていると思いますわ、何しろ、家を出るときに、一緒に連れてきたのが彼だけなのだから」
そう言ってアルテミシア様が見上げる先には、黒く日に焼けた端正な顔立ちの一人の青年がいます。
何でも、ブロンディア公爵家の庭師の長男で、アルテミシア様方、公爵家のご兄妹の幼馴染みなんだそうです。
そして、アルテミシア様の初恋の相手でもあり、この方がおりましたので、アルテミシア様は、第一王子の婚約者には、なりたくなかったそうなのです。
ご幼少の時に、何人かの候補の中に自分の名を見てからは、何とかして候補から外してもらおうと画策したそうなのですが、全てが裏目に出てしまい。いつの間にか、他の候補者の名はなくなり、アルテミシア様だけになってしまったときには、一晩中泣き明かしたと聞いております。
少し誤解されそうなので、一言付け加えますと、第一王子は、決して醜男ではありません、むしろ白馬が似合う、王子らしい王子様でございますし、学院も首席で卒業するほどの優秀な方でございます。ただ、アルテミシア様にとって迷惑な話だったというだけで…
そんなアルテミシア様でしたから、今回の男爵令嬢の行いは渡りに船で、直ぐに飛び乗ったのです。半年前に、男爵令嬢がこそこそと動きだした時に直ぐに調べあげ、男爵令嬢の先回りをし、男爵令嬢が望む様な道を作り上げてしまいました…ただし、途中まで…
『自分が断罪され、表舞台から消えたあとの事までは、責任持てませんから』
と、微笑むアルテミシア様は、本当にお綺麗でした。
そして、今、国外追放され、旅立ったと思わせたアルテミシア様は、派閥の中で最下位である私の屋敷に滞在しております。
それはどうしてかと申しますと、私の家は商売がら、定期的に他国へ買い出しへと向かいます。その馬車に同乗させアルテミシア様方を目的の地へお連れする手筈になっているのです。
もちろん、私だけではそんなことを決められる訳がございません。両親や兄弟はもちろん、家臣も、店にいる下働きの者たちも含め、公爵様にも、国王陛下にも知られぬよう厳重注意の中、アルテミシア様捜索の手の隙をつく時を狙っていたのです。
この事については、私以外の派閥の方々も存じていますが、皆様は、家族に知らせることなく、アルテミシア様の事を守り通しております。
そして、一月が過ぎた今日、ブロンディア公爵家の方々はまだ、捜索されていますが、国王の家臣の方々は諦めた空気が漂い始め、明日にでも、捜索中止となりそうだという連絡があったのです。その事を聞いた父が、一週間後にアルテミシア様方をお送りすることに決めたので、その支度を手伝うために、アルテミシア様が滞在しているお部屋に足を運んだのです。
「分かりました。この事については、お二人が旅立った後も口をつぐむ事とします」
「ごめんなさいね。貴方を巻き込んでしまって、でも、貴方達なら、私の力になってくれると信じられたので、とても助かりました」
「そんな、私達は、好きでしたことですから、頭を下げるのはやめてください。それよりも、旅の支度でまだ、揃っていない物はございますか?」
「いいえ、半年の間にちゃんと準備をし、ここに来てからも、キャロライン達が、手を貸してくれたので、今直ぐにでも旅立てますわ」
「それは、良かったです。それから、あの、少し申し上げにくいのですが…」
「何かしら、何か気づいた事があるなら言ってちょうだい」
「そのう、アルテミシア様の所持金について…父から言付かっておりまして…」
「まぁ、ゴードウィン男爵様が?何なのですか?」
商人の娘とはいえ、お金の事を話すのはあまり慣れておりませんので、私が気づいたのですが、ここは、父が気づいた事にして話させてもらいます。
「確かにそうですわ。流石は、王国一の商会を興し運営している方ですわね。では、お言葉に甘えてお願いできますか?」
私が言ったことを聞き、アルテミシア様は、ご自身の無限収納から、金貨の詰まった皮袋を取り出すと、私に差し出してきました。
「あ、アルテミシア様、そんなに沢山は無理があります。一枚で構いませんので、出していただけますか?」
「一枚だけで良いのかしら?」
「充分でございますから、少し、お待ちください」
そう言って、私は部屋を後にし、父の所に向かいました。
アルテミシア様が用意された所持金は、金貨ばかりの物でした。大きな街なら良いのですが、これから向かうのは、農村で金貨など見たこともない者達が住んで居るところなのです。
ですから、村でも使える小さいお金に両替しておいた方が良いと思ったのです。
その事を父に申しますと「良く気がついたと」誉めて下さいました。
「何、あの村には、もうすぐ支店が出来るからな、後は、その支店で両替してもらうことにしよう」
あ、そういう手筈になっていたのですね。
私の考えなど、所詮こんなものです。
アルテミシア様の計画を聞き、父は直ぐに動き出しました。アルテミシア様が指名した庭師の兄夫婦が暮らすという村の事を調べあげ、その村に行く道を、隣国へ向かう主街道にするため、整備拡張工事の計画案を提出し、それが通ると、その街道沿いにある町村に、支店を出す事を決定し、王都内で、職に溢れている者のところや、孤児院に行き、その町村への移住希望者を募り、その移住者支援の団体まで設立しました。
そして、その移住希望者の第一団が一週間後、商会の馬車に同乗する事になっているのです。
自分の父親なのですが、なんというか…
アルテミシア様方を無事に送るために、凄いことを計画するものだと、呆気に取られていましたが、後々の事まで考えての行動だったのですね。
アルテミシア様といい、父といい、どうして、先々の事まで見渡せるのでしょうか…とても羨ましいことですが、私には、到底出来そうもございません。
そんなこんなで、一週間はあっという間に過ぎ。
予想通り、国王はアルテミシア様の捜索を打ちきり、王都内、外、騎士達の姿がめっきり減ったとの事です。
「私の、ワガママに巻き込んでしまって、申し訳ありませんでした。このご恩は一生忘れません。何か、私で力が貸せることがあれば、何なりと仰ってください」
アルテミシア様は、そう言って深々と頭を下げ馬車に乗り込みました。
私は、ただ、ただ、それを見ているだけでした。父が何か言っていますが、それを理解する事が出来ずにいます。
どうしてか申しますと、憧れのアルテミシア様との別れが辛いとか、悲しいというわけではないのです。だって、会いに行ける場所なのですから…今は、そんなことではなく、アルテミシア様の容姿の変化に驚きすぎて、頭が真っ白になっているのです。
何と、アルテミシア様は、ご幼少の頃より、魔術で容姿を偽っていたのです。
理由は、簡単です。恋人である庭師の長男さんと人目を気にせず遊びたかったからだそうで…
魔術を解いて素になったアルテミシア様は、父親のユーリス卿と同じ赤毛に翠の瞳、ツンとした鼻の周りには、ソバカスが…パーツの形は変わっていませんが、色が違うだけで、こんなにも印象が変わるものかと、驚いているところでございます。
そうして、アルテミシア様方は、新天地へと旅立たれました。
めでたし、めでたしです。
「さて、明日からは、お前が忙しくなるのだから、今日は、ゆっくり休むといい」
は?父がおかしな事を言っています。
アルテミシア様を見送ったのですから、明日からは、お気楽生活に戻るだけなのでは?
不思議に思いましたが、アルテミシア様の事以上の事が思い浮かびませんので、父の言うことはスルーする事にして、自室で、のんびりまったりと過ごしました。
そして、次の朝、屋敷の前に大変立派な二頭立ての馬車が…
「良いですか、あなたは、やれば出来るのです。しっかりと身に付けるのですよ」
母が、鼻息荒く、私の背を叩き励ましてくれます。
「フッ、何処に出しても恥ずかしくない娘だ。気負うことはない。ただ、しきたりは覚えなくてはな」
父が、そう言って、頭を撫でます。
そして、私は馬車に乗せられ、王城へ…
ドナドナドーナー
と、聞き覚えのないフレーズが聞こえたような気がしましたが…
そんなことに、気を取られる暇もなく、始まりました第一王子の婚約者となり、それに伴う教育が…
私って、モブキャラです…よね?
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