【完結】追憶と未来の恋模様〜記憶が戻ったら番外編〜

凛蓮月

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第一部〜ランゲ伯爵家〜

視線が絡む〜オスヴァルト④〜

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「だーーーーっ、ここもだめ、あっちもこっちもだめ、どこもかしこもだめだらけ!
 なのにじわじわ被害が止まんねぇ!!」

 辺境伯はばん!と机を叩く。
 騎士団がやって来て一ヶ月半が過ぎても何の成果も挙げられない。
 それなのに領民にじわじわと小さな被害が出始めている。

「余程慎重派なんでしょうか」

「いつも俺らが行くとこ行くとこ潰れてやがる」

 めぼしい所は勿論、怪しい場所は小さな違和感でも逃さずしらみつぶしに捜査している。
 だが人っ子ひとり見当たらない。

 これはもう、何らかの手引がされているのでは、と疑うレベルである。

 そこへ会議室にテレーゼが入室して来た。

「失礼致します」

 その声に、オスヴァルトは弾かれたように顔を上げる。

 相変わらず意志の強そうな瞳。
 後ろで結わえている髪がサラサラと流れる。
 オスヴァルトの眼には、相変わらず彼女が眩しく映っていた。

「おお、テレーゼ!今までどこに行ってたんだ?」

 辺境伯がテレーゼに近寄り、頬ずりをしながら抱き締める。
 その様子をディートリヒやオスヴァルトはじめ、王都から来た騎士の面々は呆気にとられて見ていた。

「父上、おやめください。騎士団の方々が困惑しておられます」

「父上……?」

 そこにいた王都騎士団の面々は目を瞬かせた。

 辺境伯はごつい男だ。
 ごりごりに付いた筋肉、豪快な仕草、伸び散らかした無精髭。
 一目見れば誰しもが感じる男臭さ。
 これで王国陛下の従兄弟というから血の繋がりとは分からないものだ。
 それよりこの男を素として、すらりとした美人女性が産まれたのか、と事情を知らない彼らは面食らった。

「すみません。挨拶が疎かになりました。
 私は辺境伯子女のテレーゼと申します。以後、よろしくお願い致します」

 騎士の例に則り、テレーゼは一礼した。
 それは令嬢としてより、騎士としてのもので。
 そこにいる者は違和感を覚えた。
 だがそれを顔にも出さず、礼を返すのは騎士副団長のディートリヒだ。

「王国騎士副団長のディートリヒ・ランゲだ。後ろにいるのは団員だ。こちらこそ挨拶が遅れてすまない。よろしく頼む」

 ディートリヒに倣い、オスヴァルトら後ろに控える団員も一礼した。
 その様子を見たテレーゼは表情を和らげる。

「かの英雄にお会いできるとは光栄です。力を合わせて盗賊団殲滅させましょう」

 そう言いながらディートリヒと握手をする。
 その光景に、オスヴァルトは何故か不愉快になった。

「父上。ちょっとお耳に入れたい事があります。……騎士団の方にも聞いていただきたい」

 表情を戻し、父である辺境伯に向き直るテレーゼの空気が変わった事に、辺境伯は勿論、騎士団も気を引き締める。

「なんだ?」

「私達はずっと盗賊団のアジトを探っていました。ですが一向に行方がつかめない。
 私達が行く場所に痕跡はあるもの、決定打が無い。それは何故かと考えました」

 王国騎士団が来てから一ヶ月以上、辺境領のみの捜査も入れるとゆうに三か月はなろうかという期間盗賊団の行方がつかめない。
 明らかな異常事態であると皆が認識している。

「して、テレーゼ、結論は」

 テレーゼは一度目を瞑り、再びゆっくりと開く。

「残念ながら、奴らはこの邸宅内に鷹の目とウサギの耳を持っているようです」

 その言葉にみなが瞠目した。
 ネズミ一匹通さない砦と言われる辺境伯邸宅内に、内通者──つまり裏切り者がいる。
 その事実に薄々気付いていた者は険しい顔をした。

「テレーゼ、言い切るからには検討もついているのだろうな?」

 父の鋭い睨みに、テレーゼは頷く。

「つきましては父上、捜索隊を3つに分けたく思いますが、よろしいでしょうか?」

「ふむ、お前に考えがあるならばやってみろ」

「はっ。ありがたき幸せ」

 テレーゼは騎士としての臣下の礼をとり、前を向く。
 すると呆けて見ているオスヴァルトと視線がぶつかった。

「……いつかの、騎士の方」

 ぽつりと漏れた言葉に、オスヴァルトはぴくっと反応した。

「……オスヴァルトと申します」

「オスヴァルトさま……」

 視線を絡ませたまま二人が動けずにいると、辺境伯はわざとらしく咳払いした。
 その声にテレーゼは我に返り、オスヴァルトは肩を跳ねさせる。
 それから次第に顔を赤くしていくのだった。

「あ、す、すみません、また後ほどっ!」

「あ……」

 やはりきびっ、きびっ、きびっと礼をし、テレーゼは足早に去って行く。

 その様を何とも言い難い気持ちでオスヴァルトは見送ってしまった。

「オスヴァルト君と言ったかね。ちょっと話をしようではないか」

 辺境伯に、にこりと笑われそう言われては否やは言えない。
 オスヴァルトはごくりと唾を飲み込んだのだった。

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