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第一部〜ランゲ伯爵家〜

本来の目的は〜護衛とエリン・後日談③〜

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 眩しい太陽がてっぺんを指す頃。
 最初の目的を忘れ楽しんだ二人は屋台に出ていた唐揚げを食べていた。
 串に4つ程刺さっている為片手間に食べられるのが嬉しい。
 リーデルシュタイン辺境領から来たと言う屋台のおかみさんは朗らかで、待つ間も退屈は無かった。

「はふっ、ほいひい」

「揚げたてだよ!」と渡されたそれは食べたそばからカリッと音がし、中から肉汁が滲み出る。
 お行儀が悪いと思いながらも、思わず出てしまった声にエリンはハッとした。

「やっぱ美味いわ。リーデルシュタインの唐揚げは絶品だな」

 そう言いながらベルトルトも美味しそうに食べてる。
「エールが欲しくなるな」と笑う様を見て、エリンのはしたないと思う気持ちは軽くなった。

 エリンとて末端ではあるが貴族令嬢。
 元は男爵家の次女で、あまり裕福では無かった為何処かに嫁にやられる前に行儀見習いを兼ねて、ランゲ伯爵家令嬢だったディートリヒの姉であるヴァーレリーの世話係として雇われた。
 一通りの学は王立学園で習得し、卒業後はすぐに伯爵家入り。ヴァーレリーが嫁いだあとは屋敷内の雑事をオールマイティーにこなす係として働いていた。
 その後ディートリヒがカトリーナを連れて来た為、執事のハリーに指示されソニアと共にカトリーナの湯浴みを手伝った事がきっかけとなり、奥方付きの侍女となったのだ。

 記憶が戻る前のカトリーナから、侍女二人は頼りにされていた。
 記憶が戻った当初は八つ当たりの対象とされていたが、酷い事を言われたりされた時に、カトリーナが一瞬泣きそうな顔になるのをエリンは見逃さなかった。
 主であるディートリヒから「目を見れば本音が分かるから」と後に言われて、なるほど、と納得した。

 あるとき、癇癪を起こすカトリーナが淹れた紅茶をエリンに投げた事があった。
 まだ熱かったそれはエリンの腕にかかりしばらくはヒリヒリしていたのだ。
 投げられた瞬間は流石に怒ろうとしたが、カトリーナの顔は強張って今にも泣きそうだった。

 だがそれは一瞬で、すぐに側にいたソニアに片付けるように言い、更に別のメイドに水の張った桶を持って来るように指示した。

 やがて片付け終えて退室する時、「メイドが持って来た桶はもういらないからあなたが下げておいて」と言い、エリンに押し付けた。

 そのときに、か細い声で「ごめ……なさ……」と言われたらもう何も言えない。
 奥様は本当は優しい方なのでは?と思ったら、その後何かされた時に困惑しながらも真意を探り、本質を見破った。

 エリンは「傷付いた子猫のようだ」と思ったのだ。

 以後、何をされても優しさや労りが最後にやって来る奥様に惹かれていった。

 ──傷付いた奥様を守りたい──

 エリンがそう思うのに、あまり時間はかからなかったのだ。

「このあと、どうする?」

 唐揚げを食べ終えたベルトルトがエリンに問いかけた。
 市を見て回り楽しんだ二人だが、当初の目的はまだ達成されていない。
 それを思い出したエリンは

「暗器になりそうな物を探すわ」

 ようやく街に出た理由を果たすべく、動く事にした。

「ああ、そっか。あまりに楽しいから忘れてた」

 ベルトルトは片手で口を覆いながら照れからか顔を背けた。
 その事にエリンはほのかな想いがきらめく。
 エリンも楽しんでいたのだ。

「じゃあ、色々見て回るか」

「ええ、じゃなきゃ何しに来たのか分からないわ」

 二人は立ち上がり、串を屑籠に入れてから再び何も言わずとも自然に手を繋いで歩き出した。


 広場の市の中に、様々な髪飾りが置いてあるのが目についた。
 エリンはそこで立ち止まると、ベルトルトも引かれて立ち止まる。

「いらっしゃいお客さん、ゆっくり見てって」

 黒髪の店主はにこやかに挨拶する。
 品揃えはバレッタやカチューシャ、簪などで、華をあしらったもの、蝶をモチーフにしたもの、可愛らしい動物のものなど、女性が好みそうなものばかりだった。

 そのうちの一つ、小花が揺れる簪をエリンは手に取った。

「お客さん、いいセンスしてるね。それはいざって時に、こう、ね」

 そう言いながら簪をくるりと回し、逆手に持つと、何かを刺すような仕草をした。

「きれいなのに物騒なのね」

「いざ、って時の為さ」

 なんでもないように言う店主に、にこりと微笑んだ。

「いただくわ」

「毎度あり」

 エリンがお金を払おうと、バッグの中に手を入れようとした瞬間、ベルトルトが手を止めた。

「店主、いくらだ?」

「え、ちょっと待って、自分で払うわ」

「いいから」

 目の前の男女のやり取りを見ていた店主は、にやりと笑った。

「お嬢さん、彼氏に払ってもらいなよ」

「かっ、彼氏ってわけじゃっ」

「おやまぁ」

 エリンが顔を赤らめて否定してる間に、ベルトルトは代金を支払った。
 エリンの言葉は彼の心に淀みを作りかけた。
 だが彼氏ではないのは事実。

 今回の街歩き、表向きはこじつけたが、ベルトルトは今の関係を変えたいと思っている。
 中途半端な関係から一つ踏み出したいのだ。

 その結果が例え
 職場から自身が離れる事になろうとも。

 しまい込み続けたモノが今日を思い出として昇華されるならばと。 


 ベルトルトはある場所へエリンを誘った。

 決着をつける為に。

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