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第一部〜ランゲ伯爵家〜
エピローグ〜オスヴァルト/了〜
しおりを挟む報告書などを作成する為、王都騎士団のディートリヒをはじめとした何名かは辺境伯領に残っていた。
ちなみにカトリーナと子ども達は宴の翌日に帰って行った。
「なるべく早く帰るから待っていてくれ」
「お待ちしてますね」
中々抱擁したまま離れない為、ジークハルトが「僕たちだけ先に帰りましょうか?」と気を利かせると慌てて離れた二人だった。
ランドルフも一緒にいた女の子──ルトガーの娘であるリーゼロッテと何かを約束して離れた。
カトリーナが聞くと「秘密です」と言われ、余計に気になったのは内緒だ。
オスヴァルトはテレーゼと婚約した。
意外にも辺境騎士たちからは歓迎された。
王国の盾と名高い英雄の弟で、実力もある。
何よりテレーゼが蕩けるような視線を向けているのが彼だけだったので、周囲も諦めた。
騎士たちは、辺境伯令嬢の幸せを願っていたのだ。
仲睦まじい二人の姿は辺境伯領民にも噂が届き、有志の民から時折祝いが届いた。
未来の辺境伯の夫に、みな好意的だった。
「アーベル達の処分が決まりました」
辺境伯領民に危害を与えた盗賊団達は、鉱山や開墾に割り当てられた。
裏切りの騎士たちは戦いが頻繁に起こる国境へ送られる事になった。
その中にはアーベル・トラウトもいる。
「死に場所にちょうどいい」
と嘲笑した。
「簡単に死なれては困る。ただでさえ辺境騎士団は人手が足りない。危険な場所で剣の扱いも王都とは変わってくるからな。
あんたの実力なら任せられるだろう。
……頼んだぞ」
『アンリなら任せられる。頼むぞ』
自分を疑いもしない真っ直ぐな眼差しは、今のアーベルには眩し過ぎた。
自分に向けられていたルドガーの信用を裏切った事に今更ながら罪悪感が生まれてくる。
「……まぁ、生きてるうちは、……」
そう呟いてアーベルは国境へ送られていった。
『天上の楽園』を開発したカルラは、研究所の一画で解毒薬作成にあてられた。
そこでノウハウを研究者や薬師に3年間で伝えたあとは、アーベル達と同じ国境へ薬師として配属される予定だ。
「私が研究ばかりしてないで、政略結婚していたら……お姉様とアーベルは結ばれたのかしら…」
牢屋で呟いたカルラの言葉は仮定の問題だ、と聞いていたテレーゼは思う。
二人が結ばれたとて、うまくいくとも限らない。どちらにせよ、アンネリーゼは政略結婚の駒として使われていた可能性は高い。
貴族とはそういったものだからだ。
「ねえ、あなた。お姉様は幸せだったの?
辺境伯令息は、お姉様を愛していた?」
カルラは縋るようにテレーゼに問う。
「兄は……義姉上に出逢い、恋に落ちたそうです。
『一目惚れなんだ』と。
けれど義姉上は忘れられない人がいるから……と、苦しんでいました」
「……そう。……アーベルのした事は本当に無駄だったのね……」
悲しげに俯くカルラ。
「どうにかして、二人が結ばれるようにしたかった。アーベルを幸せにしたかった」
そう言って泣き崩れた彼女も、もしかしたら叶わぬ想いを抱いていたのかもしれない。
だが、そうだからと言って犯罪に手を出して良い訳ではないし加担や助長してもいけない。
愛しているならば、肯定するだけでは駄目なのだ。
アーベル達に遅れる事数日後、カルラは研究機関に送られた。
これから監視付きの生活をしながら解毒薬を調合するのだ。
解毒薬が無事作られるなら「天上の楽園」は使い方を誤らなければ希望の光となるかもしれない。
悪質な使い方ばかりが目立つ物だが、政略結婚で最低限にしたい夫婦だけでなく、子が授からない夫婦にとっても希望の薬となるからだ。
それは高い確率で懐妊が可能という効能があるからだ。
天上の楽園から授かりものがあるからその名が付けられた。
残念ながら、既成事実を作りたい輩に悪用された為禁止薬物となってしまった。
ある意味諸刃の剣となるこの薬は今後は国王などとも相談し、適切に対処する見通しとなった。
全ての処理を終えたのは、決戦から二週間後。
オスヴァルトは辺境騎士団に編入する事になったが、王都騎士団に退団届けを出す事や荷物整理の為一旦王都に戻る事となった。
「すぐに準備して戻って来ますので」
「はい、お待ちしております」
どれくらいかかるかはまだ分からないが、離れると思うと名残惜しい。
──そうか、兄上は義姉上と離れる時こんな気持ちになるのか。
兄達は誰かが引き剥がす迄二人の世界に浸る。
自分の中にそんな気持ちがあるとは知らず、オスヴァルトは戸惑った。
だが、悪くない。
きっとこれから、もっと愛しさがあふれそうだ。
オスヴァルトはテレーゼの頬に口付けた。
「待っていて下さい」
「は……はい……」
丁寧なのに意外と積極的なオスヴァルトに、テレーゼもたじろぐしかない。
そんな二人を見て、周りの騎士達は「兄弟揃って……」とディートリヒに視線を向け。
ディートリヒは気まずそうに頬を掻くのだった。
一年後──。
リーデルシュタイン辺境伯領の聖堂に於いて、辺境伯令嬢と婚約者の結婚式が執り行われた。
広く一般にも公開された式は、集まった領民にも盛大に祝福された。
辺境伯当主は漢泣き崩れ、その傍らにいた小さな女の子が当主を慰めていたそうだ。
聖堂から出て来た二人を、領民たちは盛大な拍手で迎えた。
あまりにも熱烈な祝福を受けた花婿が花嫁に口付けると、あちこちから黄色い声が飛び交った。
顔を真っ赤にした花嫁が持っていたブーケを放ると、陽の光が反射して──
次の花嫁になる女の子の手にすとんと収まった。
~オスヴァルト編/完~
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