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第一部〜ランゲ伯爵家〜
求婚は突然に〜オスヴァルト⑱〜
しおりを挟む「オスヴァルト様、このたびはありがとうございました」
テレーゼが頭を下げると、さらりと髪が流れる。
その姿にオスヴァルトはやはり見惚れてしまうのだ。
「テレーゼ様、頭を上げて下さい。
俺はあまり、結局役に立たず……」
「いえ、あなたがいたから、私は頑張れました」
「……え…」
赤い瞳に見つめられると、オスヴァルトは息をのんだ。
「きっと、私だけでは無事ではありませんでした。あなたのおかげです。ありがとうございます」
「そんな!俺だって、貴女がいたから頑張れました。何度も挫けそうになっても、貴女が、いたから……」
「オスヴァルト様……」
見つめ合う二人。
オスヴァルトの鼓動は高鳴った。
今回辺境伯領に来たのは、自ら志願しての事だった。
来るまでは発露先の無いどうしようもない想いが渦巻いていたが、それは思い違いだと気付いた。
義姉に対する憧れと、テレーゼに対する欲望は全く違うものだった。
失いたくない。
自分の側にいて欲しい。
彼女の隣に立ちたい。
彼女を支えられる男になりたい。
抱き締めて、一晩中離したくないと願うのも、義姉には無いものだった。
「テレーゼ様」
「……はい」
オスヴァルトは跪く。
そして、テレーゼの手を取り、口付けた。
「貴女に出逢い、接していく中で、自分の中に貴女を愛しいと想う感情が芽生えました。
貴女を支える男として、お側において頂けないでしょうか」
テレーゼは息を止めた。
愛を乞われたのは初めてだったのだ。
辺境騎士たちは辺境伯の目があるからテレーゼに手を出す輩はいなかった。
緊張で震える手を握り、目を瞬かせる。
高鳴る胸に震える唇。
テレーゼは己を叱咤して、オスヴァルトに取られてない方の手を、そっと重ねた。
「それは、騎士として、でしょうか……?」
声は震え、掠れてしまう。
だが、縋るように絞り出す。
それでは嫌だ。
騎士として、では嫌だと、願いながら。
「いいえ、騎士としてではありません。
一人の男として、貴女の愛を乞いたいのです。
……兄上が危機のとき、貴女がと思うと嫌でたまりませんでした。誰にも渡したくないと思いました。
どうか、私の想いを受け止めて頂けないでしょうか」
オスヴァルトの真剣な眼差しが、テレーゼを射抜く。
テレーゼの瞳から、雫がこぼれた。
「私も……あなたがお義姉様を抱き締めた時、嫌だと思いました。私だけに、して欲しいと、願ってしまいました。
私で良ければ、貴方と共に歩ませて下さい」
テレーゼの言葉に、オスヴァルトの目は見開いた。
そして、光に照らされた彼女は、彼の瞳に眩しく映る。
オスヴァルトは思わず立ち上がり、抱き締めた。
「俺が抱き締めたいのは貴女だけです。
あの時は、安堵からしてしまいましたが、義姉に対しては兄上の妻という認識以上のものはありません」
「あ、はい、あの、オスヴァルト様……」
「好きです。愛しています。出逢って間もないですが、貴女が愛しい。
辺境伯に許しを請います。身分が足りないなら頑張って出世します。だから………
その………
結婚、してください……」
「けっ………」
「結婚だとおおおおおおおおおおおお!!!??」
辺りに木霊する野太い声。
反射的に我に返り、抱き締めを解くオスヴァルトとテレーゼ。
「…………!!!!」
気付いた時には既に遅く。
ワナワナと震える辺境伯。
ぽかんと見ている騎士たち。
ディートリヒをばんばん叩きながら興奮気味に見ているカトリーナ。
それを窘めるエリン。
ジークハルトだけはガンバレと口を動かしていた。
公衆の面前で、公開告白からプロポーズまでした事、された事に二人の顔は瞬時に真っ赤になり。
その夜、辺境伯邸では帰還と婚約の宴が開かれた……らしい。
それから、オスヴァルトは宴の準備ができるまで辺境伯からこんこんと説教され、テレーゼが産まれてから現在に至るまでどのように可愛かったかを切々と訴えられた。
二人が結婚するとなれば、嫡男でありルトガーが亡くなった今、テレーゼが跡継ぎとなる為オスヴァルトが辺境伯家に婿入りという形になる。
結婚すれば、辺境伯の語りを毎日聞かされそうだと思うと憂鬱だが、テレーゼと共にあれると思えばこれもいずれ慣れねばならないと早々に悟りを開いた。
辺境伯から逃れたオスヴァルトは、バルコニーに避難していた。
そこには、涼風に当たりに来ていたテレーゼがいた。
「大変な目に遭いました」
「父がすみません……」
「いえ、テレーゼ様を育てた方なので、徐々に慣れていけたらと思います」
「ありがとう……ございます」
夕暮れ時の爽やかな風が、二人を撫でる。
「テレーゼ様」
「……はい」
「結婚して下さい」
唐突な言葉に、テレーゼは思わず咽てしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「げほっ、え、ええ、大丈夫…です」
まさか言われると思っていなかった。
だが、そう言えば先程は辺境伯に遮られ返事をしていなかったと思い出す。
「……私で、よろしいのですか?」
「貴女がいいのです。誰でもない、貴女を……
テレーゼ様が欲しいのです」
真っ直ぐに見てくる彼に惹かれたのはいつからだろう。
分からないけれど、始まりはそんなものかもしれない。
「私で良ければ、喜んで。
ふつつかものですが、よろしくお願い致します」
テレーゼは笑顔で返した。
「ありがとうございます。……幸せにします」
オスヴァルトも、笑顔で応える。
二人は見つめ合い、ゆっくりと近付く。
そして、夕日に照らされた二人の影が重なった。
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