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第二部〜オールディス公爵家〜
【閑話】マリアンヌが繋いだ縁
しおりを挟むこれは、後に大切な縁となる出会いのお話。
身体の弱いマリアンヌは、割と気が強かった。
蝶よ花よと大事にされたが、「何もしなくていい」というのは本人にとってあまり好ましくなかったのだ。
時折体調の良い時を見計らい、短時間ではあるが親と共にお茶会などに出席していた。
そんな彼女はベッドから抜け出せるのが嬉しくてたまらず、ついはしゃぎがちになり翌日から再びベッドの住人となるのだ。
そんな彼女が幼い頃に出逢った事のある少年がアドルフだった。
カエルを見せると飛び上がらんばかりの勢いで驚いた彼を面白いと思った。
だがこのお茶会を最後にマリアンヌは中々出掛ける事も難しくなってしまった。
医者も手を尽くしてはいるが、こればかりは一進一退であった。
自分の身体が弱いのが恨めしい、悔しい、負けたくない。
そうしてマリアンヌは大変、割と勝ち気な性格になったのだ。
それは大きくなり体力もついてきてあまり倒れなくなってからも変わらず。
フローラを待つ間に一人の令嬢が三人の令嬢に囲まれているのを見て、つい身を乗り出していたのだった。
「爵位の高いご令嬢が、爵位の低いご令嬢を寄って集って虐めるなんて、はしたないと思わなくて?」
「低位貴族のくせに高位貴族の方を騙し討ちのように婚約する方がはしたないのではなくて?」
震える令嬢を嘲るように見やるのは真ん中にいる金髪碧眼の令嬢。その令嬢に追随するように取り巻きが同意の言葉を発している。
マリアンヌは震える令嬢の手をそっと握り、複数令嬢をぎっと睨んだ。
「婚約は両家の合意のもと結ばれるものだわ。それに、例えこの方と婚約者の方が婚約解消しても、貴女達を選ぶとは思えませんわ」
真っ直ぐ相手を見る、空色の瞳。
その瞳に射抜かれたご令嬢たちは、ぐっ、と後退った。
「な、生意気ですわ!分からないようならば、分からせて差し上げます!」
顔を真っ赤にした金髪令嬢が右手を振りかぶった。
マリアンヌは咄嗟の事で身体が反応しない。
だが。
「何をしている」
聞いた事の無い、低い声。
マリアンヌが握っている手がぴくりと反応した。
「リーベルト……侯爵子息様……」
みるみる顔色を悪くするご令嬢たち。
やって来たのは、囲まれていたご令嬢の婚約者の男だった。
ゆっくり近付いてきた彼は、俯き震える自身の婚約者の頬に手を添えた。
「大丈夫か?フィーネ」
「あ……すみません……」
「今までもこんな事があったのか……?」
「はい……あ、いえ、その……」
慌てて否定するも、婚約者の男はフィーネを撫でていた手を止めた。
それから振り返り、まだその場に縫い付けられたように立ち竦む三人を温度の無い顔で睨んでいた。
「何か勘違いしているようだが、この婚約は侯爵家から打診したものだ。『畏れ多い』と丁重に何度か辞退されたが、諦めずに口説いてようやく頷いて貰えたんだ。それを壊すような真似をするならば容赦はしない。
今後一切フィーネに関わるな」
ビクッと身体を跳ねさせた令嬢たちは、震える足を引き摺りその場から立ち去った。
「あなた」
マリアンヌはようやく震えの止まった令嬢を振り返った。
「あなた、震えてないで堂々とした方がいいわ。
この方を好きではないの?他の女性に取られてもいいの?」
「す、好きです!取られるなんて嫌です!」
「ならば、背筋を伸ばして。今日は婚約者の方が助けに来られたけど、いつもそうとは限らないわ。
それに将来は侯爵夫人になるのでしょう?
ならば度胸を身に着けなさい」
マリアンヌは微笑んだ。
自身は将来、貴族夫人になる事は叶わないかもしれない。
だから見ず知らずの令嬢ではあるが、その夢を何だか託したくなったのだ。
「あ、ありがとう、ございます……。わた、私、がんばります」
「……ええ、頑張ってね」
くるりと踵を返す。そのままさっそうと立ち去ろうとしたのだ。
だが、くいっと制服の裾を引っ張られた。
「す、すみません、あの、お友だちに……、あっ、名前を……」
おどおどして尋ねる様はまるで小動物のようで。
マリアンヌは何だか庇護欲をそそられた。
「マリアンヌよ。マリアンヌ・ソレール」
にこりと笑めば、令嬢はひゅっと息を飲んだ。
「すみません!私、高位貴族の方に失礼をっ」
「気にしないわ。あなたの名前は?」
「フ……フィーネと申します。フィーネ・クルーガー。子爵家です……」
「ではお友だちになりましょう。私の事はマリアンヌでいいわ」
「マ、マリアンヌ様!わ、私もフィーネ、とお呼び下さい」
「フィーネ。これからよろしくね」
「は、はいっ!よろしくお願いします!」
そうしてフィーネとマリアンヌの友情は始まったのである。
これは大切な縁のお話。
なぜなら、フィーネ・クルーガー子爵令嬢の実家は化粧品を取り扱う商会を経営している。
「マダムリグレット」と言えば王都では知らぬ者はいないだろう。
侯爵家へと嫁いだ彼女は、マダムリグレットの商品を社交界で宣伝する役を担う事になるのだ。
旧知の仲であるマリアンヌがお得意様になり、愛用していたものは、そのままカトリーナに受け継がれた。
頻繁にマダムリグレットを訪れ、そこで働くフィーネの甥の妻とカトリーナも友情を築き、マダムリグレットの宣伝をランゲ夫妻が担う事になったのである。
マリアンヌの繋いだ縁が、未来へ希望をもたらす結果となった事は言うまでもない。
ちなみに余談だが、マリアンヌの孫にあたるジークハルトがフィーネの甥の娘と婚約する事になるのだが。
それはまた別の機会に語る事にする。
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