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いい夫婦の日【全3話】
オウタイーシの初閨事情
しおりを挟むその日、オウタイーシ、こと俺オスカーは、考えていた。
「殿下、どうされましたか?サボりですか?」
「いや、サボれば仕事が増えるだろう。嫌味なくらい仕事を持って来る側近がいるしな」
「そう思うなら手を動かして下さい」
「ああ……」
結婚を間近に控えた頃、俺は大変に悩んでいた。
ヴァレリアと、ち、チューする仲になったのは良いが勿論その先には進んでいない。
その先は結婚してから、なのは彼女の純潔と名誉を守る為。
悶々としながらも彼女を傷付けたくない俺は必死に紳士ぶっていた。
子孫を残す義務がある王族貴族男子は、結婚して初夜をつつがなく終えられるように、年頃を迎えると閨教育が行われる。
勿論俺も受けた。座学だけ。
実戦する奴もいる。慣れていた方が女性をリードする上で良いからだ。
だが、俺の愚息は閨係の前でショボくれたまま、うんともすんとも言わなかった。
閨係の蠱惑的な身体にも、肉感にも、全く反応しなかった為実戦は行えていない。
何度か試みたが最終的にはちょっと触れられただけで虫が這っているような嫌悪感を覚え、閨教育は強制的に終わらせた。
俺はヒロイン気質なのだろうか。
それでも閨係のプライドにかけて、女性のイイトコロだけ教えてもらった。座学で。
ちなみに弟はエンジョイハッスルしたらしい。
知るか。
俺はいつの間にか賢者になってしまったのか、と思ったけれど、ヴァレリアだけには反応するのだ。
閨教本の見本ような、ヴァレリアとのアハンウフンな夢を見た翌朝は悲惨だった。
だが判別機能が備わった俺の愚息、優秀だ。
俺は愚息を褒め称えた。
そんな訳で、結婚する前段階で俺もヴァレリアも清らかな身。
初夜はどうしたら良いのかと悩んでいるのである。
スマートにリードして、夜明けの果実水を嗜みたい。
『フッ、身体はどうだ。無理をさせたかな』
『いえ……素敵な夜でした』
なんて、腕枕しながら言いたいし言われたい。
そんでまたムフフにイチャイチャするのだ。
だが肝心のスマートにリードし、めくるめく一夜にするやり方が分からない。
閨教育は終了したからあとは各自自主学習になるのだが。
かと言って娼館とか却下だし、誰かに見せてもらうか?
いや無理だ。
何が楽しくて他人のを見なきゃいけないんだ。
そもそもヴァレリア以外のを見るとか裏切りじゃないか。
非承認だ。却下だ。
そんな訳で悶々と悩み。
とうとう初夜を迎えてしまったのだった。
つやつやの夜着に身を包んだヴァレリアが、夫婦の寝室のベッドにちょこんと座っている。
窓から月の光が入り込み、ヴァレリアの髪を照らす。その様はまるで月から遣わした女神のような、妖精のような、幻想的で俺の心臓はドギュンドギュン鳴っていた。
このままだと口から心臓が飛び出しそうだから必死に飲み込んだ。
明日もし俺が召されたら死因は「口から心臓が飛び出死」だろうな。
「オ、オスカー様……、きょ、今日はっ、お疲れ様でございました」
「あ、ああ、うむ。ヴァレリアも、大儀である」
大儀であるってなんだよ!最近読んだ書物の東国の殿様かよ!
自身に突っ込みながら、ギコギコとヴァレリアに近付き、ガコガコとその隣に腰を下ろした。
ヴァレリアの肩が跳ねる。
少し震えているのか、緊張が伝わって益々心臓飛び出死が近付いている気がする。
このあとどうするんだっけ。
えっ、とまずは……
そう、そうだ、チューするんだ。
ぐるりとヴァレリアに向き直り、目をギンギンにギラつかせた俺は噛み付くように口付けをしようとして失敗した。
ガチン!
急に迫ってしまった為、互いの歯と歯がぶつかった。
思わず身体を離し、口元を押さえる。
互いに顔はナッツカラー(真紅)である。
だ、だめだ、無理だ。スマートにアハン、夜明けのウフンなんて到底できない。
だがしないといけない。
それは大きなプレッシャーとなり、俺を苛んだ。
その為か先程まで臨戦態勢バッチコイオリャーだった愚息も白旗を挙げている。
かっこ悪い。情けない。
「ヴァレリア、ごめん」
「オスカー様?」
「正直に言う。俺、閨教育は座学しかできてないんだ」
ヴァレリアは目を見開いた。
「本当はちゃんとリードしないといけないんだけど、緊張しすぎて手は震えるし、ごめん。
めちゃくちゃかっこ悪いと思う」
あまりにいたたまれなくて、俺は俯き膝の上で拳を握り締めた。相変わらず小刻みに震えてしまう。
「けど、頑張る、頑ばるます。だから、その……
もし嫌だとか、痛い、とか思ったら、遠慮なく言ってほしい」
ヴァレリアは固まっていたが、やがて小さく頷き、俺の手を握ってきた。
「私も……頑張ります。オスカー様も、その…、して欲しい事があれば、仰って下さい。
は、はしたないかもしれませんが、私も、……その、頑張りますので…」
顔を真っ赤にして、最後の方は尻すぼみになってしまったけれど、そんなヴァレリアを愛おしく感じて俺は再び準備万端になった。
「焦らず、ゆっくりしよう。これからずっと一緒にいるのだから」
「そ、そうですね。……焦らず、いきましょう」
今度はそっと、触れるように口付けた。
今はただ、触れ合いたかった。
口付けも、柔らかな身体に触れる事も、ヴァレリアから触れられる事も、肌を合わせる事も。
愛おしい人をこの腕の中に閉じ込める事がこんなにも幸せになれるなんて知らなかったから。
ただ触れ合って抱き締めるだけで、満たされていく。
守りたい、この女性を。
そう思う気持ちと、支配したい、という気持ちが入り乱れて大変ではあるのだが。
その後、四苦八苦はあれど、めくるめく夜……にはならなかったが、白い結婚は赤い血痕となった。
そして新婚休暇は、ヴァレリアの身体を労りながら、ムフフな毎日となり、そのうちめくるめく夜になっていったのである。
夜明けの果実水も堪能した。美味かった。
「王太子殿下、急ぎの決裁がありまして」
「オウタイーシ君は今は不在でーす」
「王太子妃殿下がお気に召しそうな物をお持ちしたのですが……」
「用件をこれに」
新婚休暇中だというのに、王宮内にいるからアイザックに捕まり書類仕事をさせられている。
見つからないようにかくれんぼしながらだが、『王太子妃殿下が』と言われたら出て行かざるをえない。
アイザックから聞いたのか、他の者たちも『王太子妃殿下に』と貢物を持って来ては仕事をさせるので、実質俺はチョロタイーシになってしまっている。
だが。
「あ、オスカー様、これ美味しいですよ。
はい、あ、アーン」
そう言って照れながら俺の口元に貢物のお菓子を運ぶヴァレリアの姿が見れるので、甘んじてチョロタイーシになっているだけなのだ。
「ああ、美味しいな。……ヴァレリアには負けるけどな」
「まぁ……。オスカー様ったら」
そうして新婚の甘々な日々はこれからも続くのであった。
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