13 / 43
13.伝わらない愛を伝える行為※
『愛している』
その言葉を聞いただけで心臓が凍っていく。
慈しむように優しく触れるシュトラールの手付きはリリィで体感したものとは全く違うものだった。
リリィの時はお互い慣れているように服を脱がせ合い口付けあいながら児戯のように触れ合っていく。
互いの手を肌に滑らせ官能を高め合いひたすら快楽を貪っていた。
何度も体位を変えては言葉で攻め、シーツを乱しぐちゃぐちゃに溶け合う。
一つに交わり二人の間に隔てるものをなくすように求め合う。
互いがいれば他は何もいらない。
ただひたすら喰らい尽くす獣のように飽きずに交わっていたことを知っている。
(こんな優しい手付きじゃなかった)
ただ唇で触れ、辿々しくゆっくりとした手付きに愕然とし、ルーチェは行為を虚しく感じていた。
「ルーチェ、力を抜いて」
「あ……すみません」
ぼんやりとして集中していなかったルーチェはシュトラールの声に我にかえる。
「初めてだから緊張しているんだよね。大丈夫だから」
ちゅ、ちゅ、と身体中に口付けていくシュトラールだが、唇にだけは何故か口付けない。
せめてそれだけは愛しのリリィのものだと言われているようで、ルーチェの心臓は再び凍り付いた。
「ここ、触れるよ」
足の間にある茂みに指で触れ、ゆっくりと下に降りていく。硬く閉じられた蕾を割り開くように這わせ、小さな粒に触れるとルーチェの身体がピクンと反応した。
「ルーチェ、私に掴まっていいから」
「は……ぃ……」
ちゅ……くちゅ、と音がして、ルーチェの耳を犯すと羞恥で顔が熱くなりシュトラールの胸に顔を埋めるようにしがみついた。
力の入らない手は少し震えている。
それが愛おしくて、手に口付け、更に気持ちよくしたいと指を動かした。
「んんぅっぁあっ」
「ルーチェ、我慢しないで力抜いて。感じるままに声出して」
はくはくと息を吸うこともままならず、ただ与えられる熱に酔わされる。押したり潰したり捏ねたりして粒を弄び解していく。
ぴりぴりと足の爪先が痺れるような感覚がじわじわ全身に拡がって、とろとろ溢れてきた液がシュトラールの指を濡らした。
「ルーチェ、濡れてる」
『濡れてる』
「ルーチェ、手を回して」
『リリィ、手をついて』
頭の中にあの時の言葉がリフレインし、チカチカと明滅する。
「ルーチェ、可愛い……」
『リリィは可愛いな』
「あ……あ……」
思い出したくもない記憶が蘇る。
身を持って体感した事を今度はルーチェの身体にされている。
胸の奥を鷲掴みされたように苦しくて、切り刻まれたように痛い。
「ルーチェ、愛しているよ」
『リリィ、リリィ、愛している』
それなのに、身体は熱を持ち下腹部が煮え滾るように熱い。
奥に溜まったものを発散させたくて、もっと奥に触れて欲しくて腰が揺れるのに――心だけは冷えきって。
「は……ぁあっんぅ……うぅ……」
「大丈夫だからね。そのまま気持ちいい事だけ感じて」
知らずに涙が溢れてくる。
肌が粟立ち視界が定まらなくなっていく。
「シュ……でん……も、ほしい……」
「まだだめだよ。ルーチェは初めてだからちゃんと解さないと」
リリィの時は、リリィが「して」と言えば欲望のままに貫いていた。
めちゃくちゃに好き勝手に動いて、頭空っぽになるくらい激しく奥を突いて何度も絶頂させられて。
初めてじゃないから。
何度もして、慣れていたから。
ルーチェは初めてだから。
冷静なシュトラールの息はいつもと変わらない。
(義務だから……)
――虚しい。
「ルーチェ……?」
愛されていない行為の虚しさがルーチェを覆う。
シュトラールがルーチェの事で理性を失くすことも夢中になる事も無いだろう。
彼が溺愛するのはリリィ。
リリィの可愛らしさ、大胆さだけが熱を帯びさせる。
気持ちのベクトルを入れ替えてもらいシュトラールへの恋心は無い筈なのに苦しくてルーチェは涙が止まらなかった。
「ルーチェ、私はもうこれ以上そなたを傷付けたくないんだ。身体も心も夫婦となったからには寄り添いたい。愛しているんだ。自分が今までやってきたことを後悔している」
指の腹で涙を拭いながらシュトラールは訴えるように目尻に口付けた。
「初めてはよく解さないと痛みが増すから今は気持ちいいことだけ覚えてほしい」
リリィの初めてもシュトラールなのだろうか。
傷付かないように、今のルーチェにするように優しく丁寧に解して愛を囁いたのだろうか。
ルーチェが王太子妃となるべく教えを乞うているときに、二人はこうしてベッドで絡み合い睦んでいたのだろうか。
ドロドロとした思考がルーチェを苛み、叫び出してしまいたかった。
(シアン……助けて、息ができない……)
嗚咽の止まらないルーチェを宥めるように一度身体を起こし、シュトラールは背中を優しく叩いて抱き締めた。
涙に濡れた瞳がいない人を求めて彷徨う。
シュトラールはこんな事態は初めてで、けれど不思議と面倒だとは思わなかった。
リリィの時は何もかもが楽だった。
今のルーチェは自分が蔑ろにしてきた結果だと、改めて突き付けられて後悔だけが重くのしかかる。
暫くそうして抱き合っていると、ルーチェの嗚咽が止まった。
「すみません。お見苦しいところを見せてしまいました」
「構わないよ。嫌なことは言ってほしい。夫婦となったのだから」
「きちんと、お役目は果たします」
ルーチェが何かを決意したような、それでいて悲痛な笑みを浮かべたことが胸に引っかかる。
「ルーチェ」
「王太子妃になるのですから、甘えは捨てます」
違う、と言いたくて、だが喉から声は出なかった。
王太子妃ではなく自分の妻になったのだ。
役職ではなくシュトラールの愛する妻に、と。
まるで愛の言葉が届いていないような錯覚に、シュトラールは漠然とした不安を感じた。
「……ルーチェ、私はそなたと信頼を築き愛し合う関係になりたいと思っている。
今までの事はすまなかった。誤解して傷付けてきた。許せとは言わない。これから償っていくから」
「ええ、分かっております。謝罪など必要ないのですよ。貴方は王太子殿下なのですから」
真意の掴めない笑顔に焦りが生まれる。
だが美しくて儚くて酩酊するような表情に魅了され、シュトラールは顔を近付け口付けた。
驚いて声を上げようとすると舌が割り入れられ口内を蹂躙する。
再び押し倒され、蜜壺に指を入れられ、粒を攻められ。
深い口付けを受けながらルーチェはくぐもった喘ぎ声を上げた。
高まるのに合わせて背中がしなり身体全体が跳ねようとするのをシュトラールの体重で押さえ付けられている。
「んんっ、んぅっんっんんー! んぅーっ!」
ビクビクと足の爪先から電流が掛け巡るように跳ね上がる。
「ルーチェ……」
唇を離され涙目になりながらシュトラールを見ると瞳は獣のような熱を帯び息を荒げていた。
ゾクリと肌が粟立つ。
リリィのときのような獲物を狙う瞳にルーチェの身体は蜜を増した。
「痛いかもしれない。けど止めてあげられない」
ごめんね、と小さく呟くと昂ぶりに手を添えルーチェのそこに押し当てた。
「ひっ……あ……ぅぁ……」
「ルーチェ、息を吐いて」
ゆっくりと狭い道を拓いていくように侵入させ己の存在を主張していく。
ルーチェの笑顔も、涙も、全て支配したい。
作り物の笑顔ではなく心から笑ってほしい。
リリィとは違う。今思えばリリィは肉欲だけだった。求めればすぐに身体を差し出してくるから応えただけだった。
ルーチェは違う。面倒も迷惑もルーチェにならかけられたい。
泣いていたら慰めて、苦しみを分かち合える仲になりたい。
結婚したらずっと一緒にいるのだから。
シュトラールは自分に言い訳をしながら不安をかき消すようにルーチェの中に己を刻み込む。
「全部入った。痛いよね。ごめんね」
「いえ……、大丈夫です」
涙を浮かべながら健気に耐えるルーチェに、意識せずとも膨れてしまいルーチェは違和感からか顔を歪めた。
「すまない、馴染むまでは、と思ったが動くよ」
「はい……」
ゆっくりと腰を動かし拓いていく。純潔のルーチェの狭さにすぐに陥落しそうになるがなんとか耐えながら。
何も考えず快楽だけを求められたら楽だろう。
だがルーチェの負担を考えるとそれはできない。
今はルーチェに己を刻み付けることだけに集中した。
夫婦の寝室に響く音。
痛みに耐える呻きはやがて甘さを含んだ声に変わる。
「……っ、ルーチェ、そろそろ……限界だ……」
「はぁっあんっ……でん……か……」
「シュトラールと、呼んでくれ……っ」
それでも熱に浮かされない。
ルーチェの心は冷えたまま。
(シュティと呼べとは……言わないのね……)
「ルーチェ……ルーチェ……っ」
シュトラールはルーチェの奥で弾けさせる。
根付くといいと思いながら何度も。
そうすれば自分とルーチェの間に強固な絆が生まれるだろうから、と。
互いに息を荒げながら、シュトラールはまだ硬いままの昂ぶりを引き抜いた。
こぷ……と漏れ出た白濁と、シーツに染まった真紅が情欲を煽っていく。
だがルーチェは初めてだった。負担をかけまいと理性を引き戻す。
「もう、よろしいのですか……?」
「ああ。ルーチェは初めてだったからね。中が傷付いているから無理はしない方がいい」
これから先何度だってできる。今は身体を労りたい。
じっくり慣らして快楽を得てから朝まで抱き潰してもいい。
伺うようなルーチェに口付けを送り、用意されていた布を濡らしてルーチェの身体を拭いていく。
「殿下、そのような……」
「ルーチェは寝ていて。私がしたいからするんだ」
狼狽えるルーチェにまだ足りないと欲をぶつけるのは簡単だ。
だがそんな強姦まがいのことはできない。
彼女は大切に守りたい。そんな思いがシュトラールを支配していた。
ルーチェはされるがままになり、夜着を着せられると横抱きにされてソファへ連れて行かれた。
ベルを鳴らすと待機していたメイドたちが入室しシーツを交換していく。
終わった後は再び横抱きのままベッドに連れて行かれ、口付けられながら抱き締められた。
「ルーチェ、愛している。これからはルーチェだけが私の妻だ」
それは待ち望んでいた言葉。
何も知らなければ喜んで受け入れられただろう。
だがルーチェは知ってしまった。
シュトラールは王太子だ。
王太子は好きなだけ側室や愛妾を迎えることができる。
今はそう言っていてもいずれ飽きて迎えるだろう。
リリィという前例があるからだ。
もう、何も知らなかった頃には戻れない。
シュトラールの愛が他へ向かい、どのように愛するかも知っているから。
何も応えることができずルーチェはそのまま目を閉じた。
眠ってしまったルーチェの瞼にそっと口付けを落とし、シュトラールもルーチェを抱き締めて目を閉じた。
あなたにおすすめの小説
貴方でなくても良いのです。
豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。