【完結】あなたの愛を知ってしまった【R18】

凛蓮月

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14.眠れぬ夜に※

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 ルーチェとの初夜を終え、抱き締めて寝ようとしても中々寝付けない。
 眠れぬ夜は考えなくてもいい事が脳裏を過ぎっていく。
 シュトラールが今、ルーチェを抱き締めながら思うのは別れたリリィの事だった。

 シュトラールは結婚する前、リリィとは別れ話をしたつもりだった。
 いつものようにアカデミーにある王族のみが使用できる特別室でリリィを散々貪った後に衣服を整えた後告げたからリリィは戸惑うばかりだった。

「すまない、リリィ。これからはもう会わない。
 愛しているのはリリィだが、私は自分の役目を果たさなければならない」
「シュティ何言ってるの?」
「私が王太子でなければリリィとは結婚もできただろう。だが、王太子でなくなればきみは私に魅力を感じなくなるだろう?」

 溺れるような恋だった。肉欲的な愛だった。
 思いやりも何もない、己の欲求を満たす為だけのものだった。
 本気で愛していると思っていたのはただそれだけのものだった。
 国の為に実りある話をしたわけではない。
 社交場で社交を拡げたわけでもない。
 ただ快楽だけ、性欲と承認欲求が満たされた、それを愛だと勘違いしていた。

「贈ったドレスや宝石は男爵家に届ける。警備が必要なら送る」
「そんな……私はシュティの事が……」

 王太子の結婚は国を左右するものだ。
 シュトラールはそれから逃げ続け楽な方を選んでいた。
 それが二人の女性の未来を潰すものだったなど、思いもせずに。

「リリィ、誰と結婚しても私の愛はきみにある。今世では一緒になれないがきみの幸せを願っている」
「シュティ……」

 いつもなら涙ぐみ上目遣いで見上げるだけでシュトラールはリリィを抱き寄せ口付けた。慰めるように愛を囁き身体に刻んでいた。
 けれど今は見えない壁で隔てているように手を伸ばしただけでは足りないくらいの距離を置いている。

「……側室にもなれないの?」
「ルーチェとの子ができなければ三年後に迎えられる」
「じゃあ!」
「だが私は側室や愛妾を持たずにいこうと思う」

 リリィは信じられないと目を見開いた。
 ベッドの上で散々愛している、正妃にはなれなくても側室にしたいと言っていた彼の変化についていけない。

「三年なら待てるわ」
「いや、きみは可愛いし誰からでも好かれる。だから、他に見つけて幸せになってほしい」

 何を言っても躱される。気を引く為にドレスや宝石を贈られ、純潔も捧げ、散々中に精を受けてきたのに終わりは呆気なくて悔しくて。
 そこでリリィはハッとした。思わずお腹を押さえて。

「ここに……シュティの赤ちゃんがいるかもしれないのよ?」

 正妃より先に身篭っても王族の血を引いた子をみすみす殺すはずがないと思っていた。
 長い間、ずっと愛されてきたのだ。
 今までは月のものが来ていたが最後には実っているかもしれない、と希望に縋る。

「リリィには避妊薬を飲ませていた。きみは終わった後よく気絶していたから……その間に」
「う、そ……」
「魔法薬だから後遺症も無い。もしできていたらその子は殺さなくてはならなくなる」

 ヒッ、と声にならない叫びが漏れる。
 考えていたことが甘いと思い知らされる。

「私は結婚したらルーチェと向き合うと決めていた。だから側室や愛妾は持たない。後々庶子が出て来たら面倒になる」

 冷たい眼差しは今までリリィには見せたことが無かった。それは婚約者の事を思い出した時のような冷たい表情だった。

「シュティ……」
「リリィ、今からは他人だ。愛称で呼ぶ事も禁止する。夜会などで見掛けても話し掛けてはいけない」
「そんな……」

 リリィの真っ青な瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
 シュトラールの特別なのだと思っていた。
 アカデミーを卒業してもずっと一緒にいられると思っていた。
 つい先程まで互いに熱を分け合っていたのに、肌には所有印が無数に散らばっているのに納得できない。
 けれど、リリィがどれだけ泣いてもシュトラールは冷たく見ているだけ。別れが辛そうに顔を歪めているわけでもない。
 淡々と無表情で、リリィの知らないシュトラールのようで、たまらず特別室から駆け出した。


 リリィが去って扉が確実に閉まったのを確認した後、シュトラールは長く溜息を吐いた。
 クズに見せ掛けて手酷く捨てれば近付く事も無いだろうとわざとそう振る舞った。
 顔を両手で覆い前髪をぐしゃぐしゃにする。

 ルーチェが眠っている間のリリィならば将来側室になれるかも、と期待を抱いた。
 マナーや教養など申し分なく、今まで隠していたのかと驚いたものだった。
 だがルーチェが目覚めた後のリリィはそんな知識など何もなく、いつも通り高価な物をそれとなく強請り享楽に耽るリリィだった。

 するとシュトラールの中の気持ちが不思議なほどスッと冷めてしまったのだ。
 リリィが弁える女性だったなら留めておいたかもしれないがあまりの差に驚き落胆した。
 つまりその程度で冷めるような愛だったのだ。

 王族に仕えるならば常に周りの目を気にしなければならない。
 側室や愛妾が王家の評判に関わるからだ。
 シュトラールには異母兄弟もいる。いつでも挿げ替えられる。
 現時点で婚約者を蔑ろにしリリィを囲っている事は咎められはしないがいい顔もされない。
 自身でマイナススタートにしてしまったのを、今から挽回していかなければならないのだ。
 恋に溺れる時は過ぎた。
 これからは己を律していかねばならない。

 ――けれど。

 リリィがもしあの一週間のような振る舞いをしてくれたなら。
 シュトラールは未練がましく考える。

 それだけで己の愛が持続したかもしれないのに、と。
 あのときのリリィは出会った時のルーチェのように可愛らしく守ってやりたいと思っていた。
 恥じらうリリィに何度も欲求をぶつけてしまい、愛することに際限はないと苦笑さえしたのに。

(何故あんなに変わっていたのだろうか)

 いつの間にか恥じらいは無くなり、快楽を求めて好きなように動くリリィに初めて「娼婦のようだ」と引いてしまった。
 それはそれで肉欲を満たせるのだが、シュトラールはもうそれだけでは満足できなくなってしまったのだ。



 眠れぬシュトラールはまだ足りないと疼く身体を誤魔化すように、小さく上下する肩に印を刻んだ。

 身体は満たされないがリリィとは違う、心が求めるルーチェの肉体は想像より美しく、初めてで震える華奢な彼女をいつまででも暴いてしまいたかった。

 白い肌を見るだけで意思とは無関係に昂ぶってくる。
 シュトラールはそれをルーチェの足の間に挟み、未だぬかるんでいるそこでゆっくりと動かした。
 心身共に満たされるような心地良さと、してはいけないことをしている背徳感で息が荒くなる。
 挿入しないように、だが角度をつけて何度も腰を動かした。
 傘の張った部分がルーチェの甘粒を刺激して、とろりと蜜が昂ぶりを濡らす。

(ゆっくりと、ゆっくりと、だ。焦ってはいけない)

 ルーチェはよく眠っている。
 時折甘い声を含んだ吐息が漏れるとシュトラールの興奮を一層強くした。
 後ろから胸を揉み、尖りを捏ねて歯を食いしばる。

「ルーチェ……ッ」

 込み上がる射精感に抗う事なくシュトラールは勢い良く精を放った。

 額に汗が滲み息を荒げさせる。
 眠っている相手に何をしているんだ、と我に返り恥ずかしさも相まってルーチェをぎゅっと抱き締めた。
 細い身体の温かさ、ルーチェ自身の肌の匂いに初めての恋のような甘酸っぱさを感じ首筋に口付けては吸って印を付ける。
 己の独占欲の深さは自覚しているがその際限の無さに驚いた。

 と同時に裏切った事を振り返り、苦い気持ちが湧き起こる。
 だから、シュトラールは心に刻み込む。
 これからはルーチェだけを愛していく。
 全てを捧げてくれた彼女を二度と裏切らないと決意しながら、眠れぬ夜を誤魔化すように目を閉じた。
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