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番外編〜リディア編〜
8.最悪な再会
しおりを挟む王太子妃が懐妊した為、悪阻の期間中はリディアが孤児院へ慰問に行く事になった。
今回は初めてという事でオズウェルも一緒に付いていく。
「ちょっとしたお忍びデートみたいですね」
馬車の中では指を絡めて手を繋ぎ、事あるごとにその手や指に口付けてくるオズウェルに、リディアは鼓動が早まるばかり。
口付けしあって以来オズウェルは積極的にリディアに触れるようになり、翻弄されるばかりだった。
肩に頭をもたれさせ、甘えるような仕草の彼に愛しさがこみ上げるリディアは、オズウェルの長い髪を梳いたりさらりと流したりするのが好きだった。
胸の辺りまで延びた髪はいつもリボンで一つにまとめている。
今度彼に似合うリボンを贈ろうとリディアは思った。
孤児院に到着すると子どもたちは一斉に横に並び挨拶をした。
「リディア様、ようこそいらっしゃいました」
「お会いできて嬉しいです」
年長の子たちの挨拶に思わず笑みがこぼれ、リディアも丁寧に挨拶をした。
「今日はアリアベル様に代わりやってきました。
よろしくお願いしますね」
ふわりと笑えば緊張していた子どもたちもつられて笑顔になった。
男の子たちももじもじとし、互いに突き合っている。
それを見たオズウェルは口を尖らせ、リディアの腰に手を当てた。
「リディア、中に入りましょう。さあ行きましょう」
子ども相手に大人げなく嫉妬し、つい牽制してしまったオズウェルは、リディアをやや強引に押しながら中へとエスコートした。
子どもたちは呆気にとられて、男の子も互いに肩を叩き合っている。
リディアは強引なオズウェルに戸惑いながら、後程子どもたちと触れ合おうと思い「また後でね」と声をかけた。
孤児院内を見て回り、不都合は無いかと院長に尋ねながら慰問した。
途中小さな子にまとわりつかれたり、手を繋ぎながら歩いたりしているとオズウェルがその度に子どもたちを妨害した。
その為休憩時間になってから、孤児院の庭にオズウェルを呼びリディアはきっと睨み付けた。
「オズウェル様、邪魔しに来たのならお帰りください」
リディアの鋭い視線にオズウェルはたじろいだ。
彼とて子ども相手に大人げないと思いはしたもの、リディアを独占したい気持ちが先に出てしまう。
「すみません……。貴女を独り占めしたいばかりに……」
しゅん、となるオズウェルに、リディアは溜息を吐いた。
心無しか頭に垂れた耳が見える気がして怒るに怒れない。
普段は頼もしくキリッとした彼はリディアが絡むと甘えたになる。
それが愛しさに繋がるのだが限度がある。
「子どもたちの前ではしっかりして下さい。
遊びに来たのではないのですから」
「……すみません……」
あまりにもしょんぼりと俯いた彼に毒気を抜かれ、リディアはもう一度溜息を吐いた。
「心配しなくても、私は貴方しか見ていません」
ぽつりと呟くと、オズウェルはハッとして頭を上げた。
視線を俯け、所在なさげに指先をもじもじさせているリディアの耳が赤いのを見て、オズウェルはたまらない気持ちになった。
「すみません。僕が狭量過ぎました。ちゃんと子どもたちと接します」
「お願いしますね。王太子妃殿下の代わりに来ているのですから」
オズウェルは真剣な表情で頷いた。
その後は有言実行、オズウェルは子どもたちと打ち解け、特に男の子たちとは孤児院庭を駆け回り、髪を引っ張られながらもはしゃぎ倒していた。
それを苦笑しながら、リディアは女の子たちと絵本を読んだりおままごとをしたり。
時折魔法で幻影の小鳥を出したりして遊んだ。
お勉強の時間は数字や文字を教えたりして孤児院の慰問は終了した。
このまま帰城しても良かったが、今度は二人きりでいたかったオズウェルは少し王都の街並みを散策する事を提案した。
「お忍びデートしてみたいんです」
上目遣いに見られればリディアも否とは言えず、この後予定も入れていなかったので視察がてら行く事にした。
孤児院への慰問という事で、服装はシンプルなワンピースだったのでちょうど良いと思った。
街中は賑やかで人通りも多い。
オズウェルは通行人から守るようにリディアにぴったりと寄り添いエスコートした。
後ろから護衛も付いてきているし、通りすがりに見られる事にリディアは恥ずかしくて顔が熱い。
オズウェルはその愛情を隠す事なくリディアにぶつけてくる。
それが嬉しくて恥ずかしくて、リディアは翻弄されてしまうのだ。
「わ、私ちょっとあちらを見て来ます」
「あっ……」
火照った頬を冷まそうとするりと離れ、少し離れた屋台に来て注目していると、不意に腕をがっちりと掴まれた。
オズウェルにしては乱暴だと思いながら見てみると、見知らぬ男だという事にリディアは目を見開いた。
――いや、面差しは随分変わってしまったがリディアはこの男に見覚えがあった。
「リディア、久しぶりだな」
「ヒュー……バート……様?」
髪はざんばらでヒゲが生え、目は落ち窪み頬は痩けている。服はボロボロ、靴の爪先はソールが剥がれてしまっていた。かつて美男子と言われ令嬢からの秋波を浴びていた彼の様相はまるで変わってしまっていた。
婚約破棄後廃嫡、貴族籍から抜かれアイシャと共に放逐された彼がここにいる事に驚いた。
「こんな格好って事はお前も市井に下ったのか?
ならちょうどいい。俺が貰ってやるよ」
相変わらず訳が分からない事を呟く彼に、リディアは鳥肌が立った。
身勝手で自分の世界が正しいと常に人を振り回し、リディアの意思を無視してきた男に今更貰われたいと思うはずが無いのだが。
「手をお離し下さい。私は市井に下っておりません」
「強がるなよリディア。何なら俺がお前の所に婿に行ってもいいぞ」
「貴方などいりません。手を離して下さい」
ぐいぐいと引っ張られるリディアを見て、護衛が近寄りヒューバートを拘束した。
ようやく離れられたリディアの腕は赤くなりじんじんと痛む。
「お前は!俺を愛していたのだろう!?ならば俺に尽くすのが当然だろうが!!」
「愛してなどいないと何度言えば分かるのですか?
貴方に話しても通じませんのでもうこれ以上言う事はありません」
それでもヒューバートは食い下がり、リディアに近付こうとした。
暴れて護衛の足を踏み、スネを蹴る。
醜い様を見てられないとリディアは顔を背けた。
そこへそっと、目元を大きな手のひらに覆われる。
それが誰のものなのか、リディアは分かって思わず目頭が熱くなった。
「……すみません、少し頭を冷やそうと貴女を追い掛けずに離れた僕が愚かでした」
その声の持ち主は自身の護衛に命じてヒューバートを拘束した。
自分はリディアを後ろから抱き締めたまま。
彼女の震える手を握り締めていた。
ヒューバートは護衛たちによって捕縛され、街の警備隊に引き渡された。
オズウェルは二度とこのような事が無いように影に命じ見張りを強化するよう申し付けた。
「帰りましょう。腕が赤くなっています」
その表情は後悔が滲み、リディアも申し訳無い気持ちになった。
帰りの馬車の中は無言だった。
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