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番外編〜リディア編〜
7.触れる熱
しおりを挟む王族として残る。
それはオズウェルは今まで考えた事も無い事だった。
「母上が懐妊されて後継問題はとりあえずの所は保留となった。
例えこの先俺が授かれなくても弟妹が無事生まれるなら俺は中継ぎ国王でも良いしな。
だが、ベルとの子を諦めたくない。
できれば三人、望めるならそれ以上はほしいんだ」
オズウェルは目を見開いた。
兄が貪欲に王位も子も望んでいる事を。
元よりオズウェルは王位に興味は無いが、王族のままでいる事で自分に何ができる、とごくりと喉を鳴らした。
「国王になれば閨事が減るのは必定。それは王太子として担ってきたものに加え国王の公務が入るからだ。
王妃と王太子妃も同じく。
互いに忙しく、国王王妃共にすれ違えば必然的に夫婦の時間は減る。夜はもう眠気が先に来るだろう。
そうすれば閨どころではなくなり子作りなどできなくなる」
テオドールは手を組みテーブルに肘を突き口元を隠した。
そしてオズウェルに視線を差し向けた。
「そんなものは認められない。俺は常にベルといちゃつきたいし話したい事も沢山ある。
相談したいし頼りにされたい。
だからオズウェル、お前に俺の公務を手伝って貰いたい」
真剣に聞いていたオズウェルだが、兄の欲望を垣間見て眉根を下げた。
「結局義姉上といちゃつきたいだけですか」
「そうだ。本来ならば仕事など放り出してベルと二人きりで過ごしたいんだ。
だがそれはベルが許さない。責務を放り出す男をベルは愛さないだろう。だから仕事はする。
そこでだ。オズウェルが俺の公務を手伝ってくれるなら必然的にベルとの時間が取れる」
王太子として責任感があり隙なく生きているように見えて、実はただ妻の為に頑張る男にオズウェルは拍子抜けしてしまった。
けれど、そんな兄がオズウェルは好きだった。
「分かりました。手伝うのはやぶさかではありません。議会が承認すれば僕に公務を割り振って下さい」
「承認させるさ。理不尽な法案は変えていく。
俺たちだってプライベートな時間はほしいからな」
オズウェルは今まで自分の存在意義を感じていなかった。
王太子のスペアとして生まれ、父親である国王の彼への接し方も生まれを思うからかどこかぎこちないものだった。
愛し合う王妃との息子であるテオドールには優しい眼差しを向けるがオズウェルにはどう接すれば良いのか分からないというふうに固くなるのだ。
とはいえ父親として最低限の声掛けはあったし、時折庭を散歩するくらいの接触もあったから捻くれる事は無かった。
王妃もセレニアへの感情は抜きにしてオズウェルを気にかけ、同母の弟妹がいないからとテオドールとオズウェルは兄弟のように接してきた。
テオドールは何の健康の問題も無く勉学に励み、政略目的の婚約をし、その相手と相思相愛になり、互いに支え合う夫婦となり子を授からない以外は将来理想の治世を敷けると思わせる程の王太子。
だから、自分は本当に必要な子だったのか。
普段離宮で一人で過ごす母を見て。
三人でいる事が自然な王太子たちを見て。
異分子だと感じる事があったから早々から臣籍降下を願い出ていたのだ。
けれど、兄から王族として必要とされ、オズウェルは初めて自分の存在意義を見出した。
「兄上には敵わないや」
「なんだ?最初からそんなんじゃ張り合いが無い。
負けるつもりは無いが俺の代わりができるくらいにはなってもらうからな。よろしく頼むぞ」
「~~~~っ、分かりました。がんばります!」
その後議会で王族の負担軽減の為の話し合いで、オズウェルの待遇改善が決定した。
元々仮初の継承権しか無かったものが、明確化されたのだ。
優先順位は王太子、王太子の子、王太子の弟妹、そして側妃の子と低いが、王家の系図に記載され縁者として扱われる為、万が一王太子の子孫が途絶えた場合などはこちらに移る可能性もあると認められたのだ。
オズウェルが国政に関与すると決定した為、側妃派貴族も納得した。
正妃派は王太子の側妃が取れない事、王妃の懐妊を期に鳴りを潜め、思ったよりもスムーズに決着した。
一部納得がいかない者もいたが。
間もなく王太子妃懐妊の知らせを聞き口を噤む事になったのだ。
「王太子妃殿下が御懐妊?本当に?」
「ええ。ようやく授かったようです。兄上がもう気を抜くとすぐに泣いて『良かった、嬉しい、ベル愛してる』って壊れてしまうくらい喜んでますよ」
「まあ」
オズウェルとリディアには少しずつ公務が回ってくるようになり、互いに補佐し合いながらこなしていた。
休憩時間にはこうしてお茶を飲みながら語らう様になっていた。
「……僕、一つだけ失敗したな、って思う事がありまして」
オズウェルが真面目な顔をして、リディアに向き直る。
あまりにも真剣な表情だから、リディアの鼓動が嫌な音を立てた。
「失敗、とは……?」
震えそうになる声を必死に抑え、リディアは問うた。
するとオズウェルは眉根を下げ、肩を竦めた。
「婚約期間が一年間は長過ぎたなぁ、と思ったんです。
とはいえ、早めて準備がなおざりになるのも本意ではありませんけどね。
でも、一年後は王妃殿下も義姉上も出産からあまり経たないから結婚式への参列は難しいでしょうし。
もしかしたら延びてしまうかもしれません」
確かに臨月間近から産後にかけては特に気を配らなければならない時期だが、オズウェルは王族としての結婚式となる為、王妃王太子妃は国内外の招待客をもてなさなければならない。
その負担を考えると、約一年後は出産直後になる為、すこし延期せざるをえないだろう。
「もっと早くに求婚していれば……」
口を尖らせて拗ねたようになるオズウェルに、リディアは愛しさがこみあげてきた。
悪い方の失敗ではなく、良い意味での事で安堵した。
「オズウェル様」
リディアは彼の隣に座り直した。
「もし、私たちが早くに結婚できていれば、国の法案を変えようという意識は生まれなかったかもしれません」
側妃を迎えなくて良いように過去の法案が出来た経緯を探る為に図書室で王家の歴史を洗っていたのだ。
どのような経緯で生まれ、可決され、残されたのか。
それは今でも通用するのか、解釈を変えるべきなのか。
様々に調べられ、発見できた事が多々あった一年間は、有意義だったと彼女は思っている。
「候補が私でなければ、あの側妃教育としての一年間は得られなかったと自負しています。
国にとって、必要な時間だったのです」
結果論と言われればそれまでだが、実際に上手く歯車が噛み合い、良い方向へ流れている事を感じていた。
だがオズウェルは納得いかない顔をしている。
「僕は早く結婚したいです。これでも貴女に触れたくてたまらないのを我慢しているんですよ」
じっと見つめる瞳は熱を孕みリディアの頬を赤らめた。
「わ、私も……。……触れてほしいと思っています……」
目を伏せがちに視線をそらし、だが反応が気になってちらりと見てみると、オズウェルはリディアの頬に手を添え、唇を近付けた。
「そんな事言われたら、我慢できなくなります」
「んっ……」
それは拙く、唇の押し付け合いのようだったが、やがて要領を得たのかオズウェルは角度を変えながら責め立てた。
「ふっ、ぁ……」
時折漏れる吐息が熱い。
互いの鼓動は聞こえてしまうのではないかと言うほどに高鳴り、頬も熱くなる。
啄むような音が室内に響く。
やがてもっと、と相手を求め、オズウェルは舌で割り入れ深い口付けを求めた。
「ぁ……」
舌を絡めとられ、吸われ、全て混ぜ合わせるような口付けに息もできない。
苦しくて、けれど頭の中がじんと痺れ、このまま意識を失ってしまいそうにくらくらし、閉じた瞳が潤んでくる。
「リディア、鼻で息するんだよ」
熱く囁かれ、もう一度絡めとられた。
言われた通りにすると余裕がでて、リディアも拙く舌を動かすと、二人の音だけが辺りに響いた。
やがて再びふれるような口付けを何度もし、名残惜しく離れてしまうとリディアは潤んだ瞳でオズウェルを見つめた。
オズウェルはきつく目を瞑り、リディアを抱き寄せる。
「~~~~早く結婚したい……」
耳元で絞り出すように言われ、リディアは嬉しくなった。
それから二人はオズウェルの侍従であるグラントが来るまで、心置きなく寄り添っていたのだった。
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