【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月

文字の大きさ
7 / 41
本編

7.王太子成婚パレード【side リヴィ】

しおりを挟む

 いよいよ一週間後に王太子殿下の成婚の儀があるらしい。
 その日は街でパレードもあり、広くお披露目されるそう。
 王都でするなら分かるけれど、少し離れたここアミナスでパレードする理由は謎だけど。

 私はいつもと変わらない日々。
 ──一年前と違うのは、お昼どきにルドが隣にいる事。
 でも、ルドは忙しいのか最近は三日に一回くらいのペースでしか来ない。
 来ない日は待っていても来ない。
 前もって「来れない」なんて連絡も無い。

 ルドが来なかった日はなんとなく物足りないような。
 でも来てくれた日は嬉しくなるような。

「最近のリヴィは分かりやすくていいわぁ」

「リヴィ元気になって良かったわ」

 孤児の子どもたちもニコニコして見てくる。
 私は子どもたちにも心配かけていたのかな。

「ありがとう、みんな」

「リヴィ笑った!」

 女の子たちがきゃあっと歓声をあげた。
 私が笑える事がみんなも笑顔にすると分かって嬉しくなる。


「リヴィ」

「ルドさん。お久しぶりです」

「ああ……」

 久しぶりに会ったルドは何か言いたげに手を動かした。兜のせいで表情が見えないのが残念だ。

「昼食をお召し上がりになりますか?」

「……ああ」

 その声は、何故か浮かないような声。何かあったのかな。最近来れてなかったのは忙しかったからかな。

「何だか元気がありませんね」

「忙しかったからかな。あまり眠れてないんだ」

「そうですか……」

 口元だけを空けて、ルドは昼食を食べ始めた。
 再びこの何でもないような穏やかな時間が流れる。

 食べ終えたルドは、何かを言いたそうにそわそわとしていたけれど。
 やがてカチャリ、と私の方を向いた。

「リヴィ、その……」

 表情は見えないし、口元も開いたり閉じたりして何かを言いたそうにしている。
 だから私も言葉の続きを待った。

「明日、王太子殿下の、成婚のパレードがある、だろう……。その、リヴィ、は、行く、か?」

 言いにくそうに辿々しく言葉を発するルド。
 私は一瞬胸に刺すような痛みを覚えた。
 けれど、その痛みは以前のようにしつこく残らずすぐに消え去った。

「私は……皆さんがパレードを見に行くから、お留守番をしようと思っています」

 逃げるわけでは無いけれど、誰かが留守番をしないといけないのは確かで。

「ルドさんは行かれるのですか?」

 カチャリ、とプレートの音がする。

「私は……。警護があるが、……リヴィが行くなら、護衛を、と君の両親に頼まれた」

「両親が?」

 ルドはこくりと頷く。
 そうか、確かに時折両親の護衛を頼まれると言っていた。
 でも、ベハティには留守番するって言ったし、それに……。

「行っておいでよ、リヴィ」

 いつの間にか私たちの近くに来ていたベハティが、声をかけた。

「でも……」
「留守番なら私に任せて。騎士さま、リヴィの護衛、よろしくお願いします」

 有無を言わせない雰囲気で、ベハティがルドに頭を下げた。
 ここまでされたら断るなんてできない。

「ベハティ」
「リヴィ、逃げてるだけじゃ終わらないし、新しく始める事もできないよ。
 ちゃんと終わらせて来なさい」

「ベハティ……」

 ベハティは私がここに来た理由を知っている。
 だから、話し合う事も無く終わってしまった人との恋を終わらせなさい、と言う事を言っているのだ。

「ルド、さん。明日……そばに、いてくれますか?」

 正直、真正面から見れる自信は無い。
 だけど、ルドが側にいてくれるなら心強いと思ったのだ。

「──っ、勿論、側にいて良いなら側にいる」

「ではよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼む」

 そうして、私はルドと王太子殿下成婚パレードを見に行く事にした。




 沿道にはたくさんの人が詰め掛けて、王太子夫妻の訪れを今か今かと待ち侘びている。


 私とルドはあまり遠くない所から見る事にした。

 王太子殿下の姿を拝見するのは約四年ぶり。
 亡くなった人を愛する彼は、今日、別の女性と結ばれる。
 あれから四年経つのだもの。
 もしかしたら今は立ち直って妃殿下となる方を愛してらっしゃるのかもしれない。

 きっと、傷付いた彼を献身的に支えて下さる方だろう。
 貴族ではない私にできる事は少ないけれど、これからは一国民として国を支えようと決意を新たにする。

「緊張してるか?」

「……いえ、高揚しています」

「そうか」

「元々殿下の臣下として国を支えようと思っていた頃を思い出しました」

 私が殿下を初めて見た、あの日の事。
 アンジェリカ様と手を取り合い未来の展望を語っていたであろう二人。
 愛し合う二人は互いに寄り添い、仲睦まじい様子だった。
 だから私はそんなお二人を支えたいと思ったのだ。

 アンジェリカ様がお亡くなりになり、私が婚約者となってからは殿下を支えたいと願っていた。

 けれど──

 側にいる事はおろか、名前を呼ぶ栄誉さえ頂けなかった。
 それはアンジェリカ様だけに許された特権で、私には与えられなかった。

 それでも良いと思っていた。
 いつかは、きっと。

 そんな日は来なかった。

「リヴィ、……すまない、私は……」

 小さくルドが何かを呟くけれど、兜の下の声は沿道の歓声にかき消された。

 遠くから王太子殿下夫妻を乗せた馬車が近付いてくる。
 彼は私に気付くかしら。
 いいえ、気付かない。あの時に比べたら容姿もみすぼらしいものに変わってしまった。
 でも、もし気付いたら?
 無視する?それとも見ないふりをする?
 動揺するかしら。それを妃殿下がお諌めして……。

 妃殿下は名前をお呼びできるのかしら。
 どうして私は選ばれなかったのかしら。


 どうして、貴方の隣に座るのが私では無いのかしら──。

 二人を乗せた馬車が段々近付いてくる。
 鼓動が高鳴る。
 胸が痛くなる。

 まだ、忘れられていなかった。
 私はあんな酷い言葉を浴びせてきた殿下の事を過去とは思えない。

 貴方の隣にいるのが私では無い事が苦しい。
 私は苦しいままなのに、貴方は笑えているのかと思うと悲しい。

 二人の姿がぼやけてくる。
 冷たいものが頬を伝う。

 私がもう少し強ければ何かが変わったのかしら。
 私がもう少し耐えていたら、貴方と今日を迎えたのは私だったかしら。

 ぐちゃぐちゃな気持ちがぐるぐる身体を掛け巡る。

「リヴィ!」

 足が震えて立っていられない。私はルドに支えられていた。

 けれど。

『逃げてるだけじゃ終わらないし、新しく始める事もできないよ。
 ちゃんと終わらせて来なさい』

 ベハティの言葉を思い出す。
 そうだ。終わらせなければ。

「ルド、お願い、手を握っていて……」

 すがるようにルドに願い出る。
 歓声で消えそうな声は、ルドに届いたようで躊躇いがちに握ってくれた。

 馬車が近付くにつれて私はもう届く事が無い想いを断ち切ろうと涙を拭い馬車を見据えた。

 幸せそうに笑う二人は沿道の人々に手を振って応えている。
 妃殿下は──アンジェリカ様の妹だわ。
 似た方をお選びになられたのね。

 そして王太子殿下……。


「──え……」


 思わず私はルドの手を握る手に力を込めた。
 ルドは握り返してくる。

 どうして?
 私は混乱した。
 何かの間違い?
 どうして?

 王太子殿下の姿を見て、私は酷く動揺してしまった。


「貴方は──誰……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

私を見ないあなたに大嫌いを告げるまで

木蓮
恋愛
ミリアベルの婚約者カシアスは初恋の令嬢を想い続けている。 彼女を愛しながらも自分も言うことを聞く都合の良い相手として扱うカシアスに心折れたミリアベルは自分を見ない彼に別れを告げた。 「今さらあなたが私をどう思っているかなんて知りたくもない」 婚約者を信じられなかった令嬢と大切な人を失ってやっと現実が見えた令息のお話。

処理中です...