19 / 41
本編
19.願い【side リヴィ】
しおりを挟む『今日は王城主催の夜会なんだ。仲良いところを見せなければならない。だから……』
『はい、殿下。ありがとうございます』
『……はぐれるといけないから腕に捕まってろ』
冷たい言葉に、微かな優しさが見え隠れして、そんな所に惹かれた。
歩幅が大きくて付いて行くのに必死だったけれど、転びかけてからはゆっくり歩いていた。
『……言わなきゃ分からないだろう』
『申し訳ございません』
『お前も自己主張くらいしろ。アンジェリカは言っていたぞ』
最後には必ず愛しい女性の名前を出され、嬉しい気持ちに陰が差していた。
最近の彼はその名前を口にする事は無い。
いつでも私を気遣ってくれて、優しくしてくれる。
今も会話は無いけれど、歩調はゆっくりとして並んで歩いている。
しっかりと手を握ってくれて、人混みに押されないように守ってくれている。
あの頃としたら随分変わった。
私に謝罪して、向き合ってくれるルドを、もう憎めなくなっている。
変わりたくない。今のままが良い。
そう、思うけれど、このままルドの気持ちを無視していいのかな?って。
ルドは何も求めない。
それをいい事に居心地の良さに甘えている。
ずっと自問自答している。
だけど。
繋いだ手を離したくない。
そばにいたい。
その為には今のままではいられない。
だから。
自分の弱さに決着を付けたい。
祭壇に行く前に、屋台で花を買う。
「アンジェリカ様はどんなお花が好きだったんですか?」
「そうだな……。オレンジ色の花を好んでいたな。薔薇よりも野の花が好きだった」
「ではこのお花にしましょう」
おじさんに言って花を受け取り、代金を払う。
「鮮やかなオレンジ色だな。何ていう花だ?」
「マリーゴールドです」
ルドはオレンジ色を、私は黄色を選んだ。
祭壇には既に沢山の色とりどりの花が捧げられていた。
みな思い思いに祈りを込めて花を置く。
私とルドも、そっと花を置き手を合わせて祈った。
(アンジェリカ様……。申し訳ございません。
また、好きになってもいいですか……?)
彼女が亡くならなければきっと話す事も無かった。
私も誰かと結婚し、二人が統治する国を支えていっただろう。
けれど、アンジェリカ様は亡くなってしまった。
婚約者として出逢った彼を支えたいと願っていた。
けれど。
亡くなったアンジェリカ様を愛する殿下を、愛し続ける事はできなかった。
愛されたいと願ってしまったから。
ずっと、解放してあげてほしいと思っていた。
いつまでも過去に囚われた彼自身を。
そして、囚われたのをアンジェリカ様のせいにした。
そんな事を考える自分が嫌いになった。
だから修道院に逃げたのだ。
──二度と逢わないと思っていたのに。
謝罪する為にそばにいて、自分を殺してまで私に償う彼に、また惹かれてしまった。
愛し続ける事はできなかった。
でも。
もう一度、好きになってもいいですか?
ちらりと隣のルドを見る。
じっとマリーゴールドの花を見ている。
私の視線に気付いたのか、ルドは目線を上げた。
「行こうか」
再び手を繋いで歩き出す。
振り向くと、オレンジ色と黄色のマリーゴールドが陽の光に照らされてキラキラ輝いて見えた。
「リヴィ、その、ありがとう」
「いえ」
「……ここに来て、アンジェリカの事は思い出になっていたけど、改めて区切りが付けられた気がする」
ルドは目を細め、笑みを浮かべた。
「彼女には感謝している。だが、……もう、俺は……」
そして、私を見る。
視線が交差して、心臓が跳ねた。
「リヴィ、俺は、貴女が好きだ。
今は貴女だけを想っている。だが、貴女からの愛を望める資格が無い事も分かってる。
返さなくていい。愛さなくていい。だが。
これからもそばで、見守る権利がほしい」
真っ直ぐな言葉が私の胸に突き刺さる。
もう、有耶無耶にしてはいけない。
曖昧にしてはいけない。
「私は、醜い人間です。私を傷付けた殿下も、貴方の心に残る女性の事も好きになれません。苦しくて、自分が嫌いになるから。
きっと、これからも沢山嫌な事を言ってしまう。もう笑顔で見過ごす事はできません。
こんな私で、いいですか……?」
ルドが言葉を失い目を見開く。
「それでも、いい。貴女は、貴女の気持ちに正直でいいと以前も言った。
私は全てを分かち合いたい。
嬉しいも、悲しいも、苦しいも、楽しいも。
貴女と一緒に感じたい。
貴女の苦しみを受け止めるのは私でありたい」
その眼差しは強く、私を貫いた。
もう逃げない。
様々な感情を全て曝け出した時、残ったものはただ、貴方が好きだという事だけだった。
私は思わずルドの背中に腕を回す。
「り、リヴィ……」
「嫌いになりたかった。でも、それ以上に貴方が好き」
力無く下がったままのルドの腕が、ゆっくりと私の背中に回る。
その温かい感触が、心を満たしていく。
「リヴィ、好きだ。愛している。
ありがとう、リヴィ、……ごめん、ありがとう……」
ルドの声がかすれていく。
それを聞いて、私の瞳が潤んでいく。
しばらく抱き合った後、ルドは名残惜しそうに離れた。
「リヴィ、その……これ」
躊躇いがちにルドが差し出したのは、小さな石が付いたネックレスだった。
黄色と紫の飾り石が付いたそれは、おそらく露店で売っていたもの。
「本当は、大きな宝石が付いた物を特注できたら良かったんだけど、……ごめん。
今の俺じゃ、買えなくて」
「私にくれるの?」
「うん。二つ並んだ石が、リヴィと俺の瞳の色で、何か嬉しくて買ってしまった。
リヴィが嫌なら」
「嬉しい。着けてくれますか?」
ルドが買ってくれた物を、嫌がる理由なんて無い。
辿々しくチェーンを外し、私の首に飾ってくれた。
小さな二つの石が仲良さげに並んでいて、何だか温かくなった。
「ありがとう、ルド」
「ああ、……よく、似合ってる。と言うか、……嬉しくて、顔が緩む」
顔を引き締めようとして結局緩み、片手で口元を押さえるルドは、必死に照れ隠しをしていた。
そんな姿に思わず笑ってしまった。
婚約していた時、何も貰わなかったわけではない。
高くて素敵な宝石を頂いた事もある。
けれど、そのどれよりも、このネックレスが嬉しかった。
きらきら光る、寄り添う二つの石が、私たちみたいで、幸せな気持ちになれた。
それは、どんな物よりも価値があるように思えたのだ。
「ありがとう、ルド。嬉しい。……ありがとう」
もう一度お礼を言うと、ルドは優しく笑った。
──二人の未来を願っていた。
397
あなたにおすすめの小説
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。
第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。
その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。
ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。
私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。
幼馴染に夢中の夫を捨てた貴婦人は、王太子に熱愛される
Narian
恋愛
アイリスの夫ロイは、新婚の頃から金髪の愛らしい幼馴染・フローラに夢中で、妻には見向きもしなかった。
夫からは蔑ろにされ、夫の両親からは罵られ、フローラからは見下される日々。そしてアイリスは、ついに決意する。
「それほど幼馴染が大切なら、どうぞご自由に。私は出て行って差し上げます」
これは、虐げられた主人公が、過去を断ち切り幸せを掴む物語。
※19話完結。
毎日夜9時ごろに投稿予定です。朝に投稿することも。お気に入り登録していただけたら嬉しいです♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる