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Chapter.2 ラットヴィル編

Episode.11 ゴーレムを動かしているもの

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 この村の複雑な事情を知り、ゴーレムが存在する事の違和感も徐々に薄れていった。

「そんな事ないっ!」
ウォレスさんの話を聞いた後、一息入れていると急にコニーの怒鳴り声が聞こえてきた。

どうするか迷い、横にいた二人へ視線を向けると行ってやれと顔で訴えているのが分かった。

最初に遊びに行けと言った手前、友達と何か問題が起きたのなら俺に責任があるかもしれない。

そう感じて、俺はコニーの声がする場所へと向かった。

「どうした、何かあったか?」
向かってみるとコニーが村の男の子と取っ組み合いになり、お互い睨み合っているので急いで声をかける。

「あ、ロストさん」
コニーは俺を視界に捉えると平静さを取り戻したのか、声のトーンが小さくなった。

「父さんから聞いたんだ、村から消えた者はもう戻って来ないって!」
しかし、取っ組み合いをしていた男の子の方はまだ落ち着いていないらしく何やら叫んでいる。

どうやら、村で起きている失踪事件について話していて喧嘩になってしまった様だ。

「待て待て、お前も落ち着け」
二人に任されて来たので落ち着いて会話が出来る様にと、仲裁に入る。

「うるさいっ! 俺の母さんもコニーの父親ももう帰って来ないんだっ!」
しかし、男の子は目に涙を溜めるとそれだけを告げて走り去ってしまった。

どうやら、あの男の子も事件で母親が失踪した被害者の様だ。

「…………」
コニーは男の子に言われた事がショックだったのか、無言のまま立ち尽くしている。

「コニー、元気だせ」
俺はそんな彼女に気休めにもならない言葉を口にする。

「……ロストさんも思いますか?」

「ん?」
俺が言葉を言い終えるのを待っていたのか、コニーは此方こちらに視線を向けて尋ねてきた。

「お父さんはもう帰って来ないって」

「…………」
即答するには難しすぎる問いかけを――

「すまん、それは俺には答えられない」
しばらく考えた後、俺は彼女の問いに答えた。

「…………」
その俺の言葉をコニーはうつむき、聞いている。

「でも、それを何とかする為にルドルフさんに仕事を依頼したんだろ?」

「……はい」
コニーは俯くのを止め、俺の問いかけにちゃんと返事を返してくれた。

「なら、大丈夫だ」
俺は、そんな彼女に精一杯の笑顔で応える。

「ロストさん、ありがとうございます」
それを見たコニーも自然と笑顔になった。

俺達が二人のいる場所へ戻るとすっかり陽がかたむき、夕暮れ時となっていた。

「もう陽が沈みかけてますね、そろそろ子供達を親御さんの元へ帰さないと」

「あ、すみません、自分達のせいで長々と」

「いえいえ、もう授業は終わっていましたから気にしないでください」
そのやり取りの後、ウォレスさんは子供達に閉校の挨拶をして青空教室はお開きとなった。

俺達はその後、ウォレスさんに時間をとらせてしまったお詫びとして授業で使った道具など片付ける手伝いをした。

「ありがとうございます、おかげで早く帰れそうです」
四人で手分けして作業に取り掛かったので30分程度で片付けを終える事が出来た。

「いえ、こちらこそ色々教えて頂きありがとうございました」

「お互い様って事ね」
横の妖精が偉そうだが、ウォレスさんは終始笑顔で機嫌が良さそうだ。

「あっ、そろそろお家に帰らないとお母さんに叱られちゃいます」
コニーのその言葉により、本日は解散という流れとなった。

「本日はありがとうございました、良かったらまた教室に遊びに来てください」
解散となり、ウォレスさんが改めて別れの挨拶をしてくれる。

「はい、是非寄らせて頂きます」

「ま、気が向いたらね」
そのウォレスさんの言葉に俺達を個々でそれぞれ返答し、別れた。

「俺達も帰るか」

「そうね」「うん」
彼を見送った後、俺達もコニーの家に帰る事にした。

Episode.11 ゴーレムを動かしているもの

道中、コニーは陽気に先頭を歩いており、俺達はその後方を少し離れた場所から続く様に進む。

「そろそろダリアさんとの話も終わってるかねー?」
俺は何となく一緒に横を歩く、厳密には飛んでいるフィオに話しかける。

「……やっぱり、変よね」
しかし、そんなフィオは考え事をしているらしく俺の問いかけが耳に入っていない様だ。

「おい、フィオどうした?」

「ん、あぁ、少し考え事をしてて」
再度声をかけるとフィオはようやく反応し、俺の問いかけに返事をする。

「考え事?」

「えぇ、あんた魔力って分かる?」
聞き慣れない言葉に俺は困惑した表情を浮かべる。

「その顔だと知らなそうね」

「すまん」
三ヶ月近く生活してこの世界に慣れてきたものの、知識に関してはその辺の子供よりうといので時々こうして悲しくなる。

「魔力というのは、この世界で生きる上でとても大切なものなの」
そんな無知な俺に分かりやすく教える為、フィオは説明を始めた。

魔力、それはこの世界に生きる全ての生命が有している生命力と呼ばれるエネルギーを変換する事で生み出されるものらしい。

生命力とは文字通り生きる為に必要なエネルギーであり、これを多く消費すると最悪の場合死ぬ事もあるそうだ。

要は生命力を沢山消費すると寿命がちぢむ、よって死に至るという仕組みだ。

で、肝心の魔力だがそんな大事な生命力を消費変換して得る必要はあるのかというと答えはYesである。

何故なら、魔力は瘴魔しょうまと戦う上で必要な魔法や戦技と言われる魔法を使わない戦士達が使う技術に必要だからだ。

なので、この世界で戦うという事は即ち常に自分の命を危険にさらすという事なのである。

但し、消費した生命力はちゃんとした休息を取る事で少しずつだが回復する事が出来る様だ。

「これが魔力の説明、分かった?」

「な、何となく」
一頻ひとしきりフィオに説明されたが、俺に縁のない力なのでいまいち理解するのが難しい。

ま、この世界で生きていく内に少しずつ理解出来る様になるだろう。

「で、その魔力がどうしたんだ?」

「あんた、ゴーレムが何で動いているか分かる?」
質問に質問で返され戸惑う俺だったが、村へ来る前のフィオの言葉を思い出したので答える。

「確か、魔力……だったよな?」
そう答えている最中、さっきの説明と照らし合わせみると危険な代物である事が理解出来た。

「そう、そして、あの巨体のゴーレムを動かすには膨大な魔力が必要なのよ」
そのフィオの言葉に俺は内心戦慄せんりつしていた。

膨大ぼうだいな魔力が必要という事は多くの生命力が必要、それを理解してしまったからだ。

「で、でも、生命力は休息をとる事で回復するんだろ? なら、村の全員で……」

「それで動かせるのは精々子供サイズのゴーレムでしょうね」
なら、どうやって……そう聞く事を俺はしなかった。

いや、聞けなかったのが正しい、隠された真実を知る事が恐かったからだ。

「二人とも、何を話してるんですか? 早くお家に帰りましょう」
俺は無意識のうちに足を止め、考え込んでしまっていた事に声をかけてきたコニーを見て気が付いた。

「今回の件、あんたは関わらない方が良いわ」

「いや、そういう訳にも……」
俺はコニーにあんな事を言った手前、関わらないという選択を選び辛く困ってしまった。

しかし、フィオは言いたい事を言い終えるとコニーへ追い付く様に移動し、彼女と一緒にどんどん進んで行ってしまう。

俺はそんな二人の後を慌てて追いかけ、さっきまでの話に結論を出すのを保留する事にした。

「おかえり」「おかえりなさい」
コニーの家へと帰宅するとルドルフさんとダリアさんが優しく出迎えてくれた。

「お母さん、お腹すいたー」

「はいはい、今用意しますよ」
その会話の後、二人は仲良く台所へと消える。

「ロスト、少し良いか?」
二人が台所へ行っている間、ルドルフさんは見計らったかの様に俺へ話しかけてきた。

「何ですか?」

「ここではまずい、外で話すとしよう」
ルドルフさんのその提案に俺は頷き、彼に続く様に外へ出る。

途中、フィオと視線が合うとコニーの事は任しておきなさい、とその表情から読み取れた。

多分、フィオはルドルフさんがこれから話す内容を察しているのだろう。

そして、俺もフィオ程じゃないがルドルフさんが何を話すのか予想は出来ていた。

外に出て、ルドルフさんが開口一番に言った言葉は――

「明日、この村を去る」
予想はしていたが、聞きたくない言葉だった。
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