上 下
25 / 37
Chapter.3 ウィンミルトン編

Episode.23 不安と自信

しおりを挟む
 目覚めると町長さんの家のベッドで横たわっていた。

「あ、目覚めた?」
声のする方へ視線を向けるとロナが椅子に座り、此方こちらを見つめている。

「あ、ああ」
昨日の一件があるので俺はロナを直視する事が出来ず、視線をそらして曖昧な返事を返す。

「あの後、私達を襲った奴は捕らえて作物を保管する保管庫に閉じ込めたから安心して」
ロナは俺が今知りたいと思っている情報を気を利かせて教えてくれる。

何でも捕らえた盗賊団の連中は後日、王都に連行するそうだ。

「……ああ」
だが、そんな彼女に俺は気のない返事しか返す事が出来ない。

「そうそう、作戦が成功したお祝いにアデラさんがまたご馳走ちそうを作ってくれるって言ってたよ」

「……うん」
あの時、俺はロナを見捨てようとした……その事実があるからである。

「あとエリックとトールが――」

「……俺のこと、恨んでないのか?」
明るく話を続ける彼女に俺は耐えられず、自分から昨日のことについて話を振った。

「え、恨む?」
そんな俺の問いにロナは不思議そうな表情を浮かべる。

「昨日、あの男と戦った時に俺はお前を見捨てた」

「……それは」
俺は彼女に罵られる覚悟で話を続ける。

「自分が殺されると思い、戦うのを放棄ほうきしたんだ」

「…………」
話を続ける俺にロナは何も言わず、ただ黙って話を聞いている。

「だから、お前が俺を恨むのは当然なんだ」
全てを語り終え、俺はロナの次の言葉を待った。

「……恨んでなんかいないよ」

「え?」
その言葉は俺が想像していたものとは違っていた。

「だって、ロストはその後にちゃんと助けようとしてくれたでしょ?」

「それは、そうだが……」
でも、それは結果的にそうなっただけで見捨てようとした事実は変わらないはずだ。

「そもそもロストは弱いんだから怖くなるのは当然だよ」
なのに、ロナは変わらず笑顔で俺に接してくれる。

「それでも最後は私の為に戦ってくれた、そんな人を恨む訳ないでしょ?」

「……そうか、ありがとう」
彼女の変わらない笑顔を目にし、俺は救われた気がした。

Episode.23 不安と自信

調子を取り戻した俺は、ロナと一緒に皆が待つ広間へと向かった。

広間に入ると皆が俺を心配してくれ、同時に盗賊団退治の功績を讃えてくれた。

尤も、俺は時間稼ぎをしただけで盗賊を倒したのはフィオな訳だが……

その後、盗賊団退治の成功を祝って酒場で食べて飲んでの大宴会が昼夜を問わず行われた。

出されたご馳走はとても美味しく感じられ、微力ながら人助けをした喜びを噛みしめる。

そんな楽しい時間は瞬く間に過ぎ、次の日を迎えた。

「何時まで寝てるのよ、起きなさい」
酒場の席でそのまま眠りこけていた所、フィオに叩き起こされる。

「んあ、おはよう」

「ほら、盗賊団の事は片付いたんだから別れの挨拶を済ませて屋敷に帰るわよ?」
フィオが言っている通り、事件は解決したのでこの町にいる理由はもうない。

町の人と親しくなったので別れは惜しいが、帰らなければルドルフさんが心配するはずだ。

「そうだな」
俺はフィオの言葉に頷き、彼女に続く様に席を立つ。

そのままフィオと一緒に外へ出てみると予想外の人物が立っていた。

「手紙を読んで急いで来てみたが、これは驚いたのう」
目の前にいたのは嬉しそうに笑うルドルフさんだった。

「ルドルフさん、来てくれたんですね」

「ああ、じゃがわしは必要なかったみたいじゃな」
俺とフィオはルドルフさんに駆け寄り、この町での出来事を簡単に説明する。

「そうか、お主達の活躍で盗賊団を捕らえたか」

「いや、俺はほとんど役に立ちませんでしたよ」
活躍を褒めてくれるルドルフさんの言葉を俺は素直に受け止める事が出来ない。

「そんな事はない、お主の考えた作戦が町を救ったんじゃ、もっと自信を持て」
そんな俺をルドルフさんは更に褒めてくれ、その言葉を聞いて自分の中で少しだけ自信がついた気がした。

「……はい」
ラットヴィルの時は自分の無力さを呪い、トラウマになったが今回の盗賊団との戦いでそれが少しだけ克服出来た気がする。

その後、予定通り町を去る事になって町の皆と別れの挨拶を交わした。

「ロストくん、フィオさん、今回は町を救ってくれてありがとう」
クリフさんが町を代表し、改めて俺達に感謝の言葉を口にする。

「いえ、何とかなって本当に良かったです」

「ま、当然ね」
俺達はそれぞれ好きに返答し、クリフさんの言葉に応えた。

「ロストくん、今度は仕事ではなく遊びに来てくれ」

「そうだぜ、折角仲良くなったんだしな」
エリックやトールも別れを惜しみ、それぞれと再会の約束をする。

最後にロナと挨拶を済ませようと近付くと……

「ロスト、これあげる」
彼女が何かを俺に手渡してきた。

「ん、首飾り?」

「そう、再生の力をつかさどる大精霊の加護があるお守りだよ」
ロナに手渡された首飾りは、先端に青い石が装飾されたシンプルなものだった。

「私のお古だから加護の力も弱いけど、ないよりはマシだからさ」

「俺がもらってもいいのか?」
何か特別な力が宿ったものなら、俺なんかが受け取っていいものか迷ってしまう。

「いいよ、ロストは危なっかしいから大精霊の加護でもないと心配だしね」

「ありがとう」
ロナのその言葉に俺は礼を言い、首飾りを受け取った。

「先端にある石、加護の力が弱まってるから新しいのが見つかったら屋敷に届けるね」

「分かった」
俺達は町を去るが、ロナとは近々もう一度会う事になりそうだ。

「色々あったけど、また遊びに来てね? ロスト達なら何時でも大歓迎だからさ」

「ああ」
ロナと互いに握手を交わし、また遊びに来る事を約束して手を振るロナ達に見送られながら俺達は町を後にした。
しおりを挟む

処理中です...