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Chapter.4 力の覚醒編

Episode.26 一つ屋根の下

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 「と、とんでもねぇ化け物だな」
俺が三人に森の中で現れた黒騎士の話をすると、トールが身震いしながらそう呟いた。

「二人はここに来る時、大丈夫だったのかい?」
トールが怯えている横で話を聞いていたエリックが、俺達を心配する様に尋ねてくる。

「ああ、何時現れるかヒヤヒヤしたけどな」
二人の前で格好つけても仕方ないので素直にびびっていた事を伝えた。

「ははは、そんな化け物なら仕方ないさ」
エリックも前回の盗賊団退治で俺という人間を理解してくれているので笑って励ましてくれる。

「それでさ、ロストにはこの町で生活してもらおうと思って連れてきたんだ」
俺の話が一段落つき、ロナが次の話として今後の俺の身の振り方について話してくれた。

「ここで生活か、俺は良いと思うぜ」

「自分もトールの意見に賛成だな、町の人も悪い人間でなければ反対はしないはずだ」
二人はロナのその意見に賛成してくれ、反対されるかもとわずかに抱いていた不安が解消される。

「でも、問題は住む場所だよなー? 俺のとことエリックのとこは空き部屋なんかないし」
トールは真剣に俺の新しい住処すみかについて考えてくれているらしく、頭を抱えて悩んでくれている。

「なら、クリフさんに頼むのはどうだろう? 前回も泊まらせてもらっていたし」
一緒に悩んでいたエリックがそう提案し、俺達の反応を伺っている。

「二人とも何言ってるの?」
そんな二人の意見を覆す様にロナがとんでもない発言をする。

「ロストは私の家に住むんだよ?」

「「は?」」
一瞬、時が止まった気がした。

「待て待て、ロナは何を言ってるんだ?」

「そ、そうだぞ、いい歳した男女が一つ屋根の下なんて……」
二人はしばらく固まっていたが、発言が発言だったので大慌てで彼女の説得を試みる。

「じゃあ、クリフさんに頼むの? 多分、了承してくれるけどロストが気まずいでしょ?」

「そ、それはそうだが……」
ロナのその返答にトールはたじたじになり、目を泳がせて言いよどむ。

「私の家は亡くなったお父さんの部屋が空いてるから、すぐにロストも暮らせる様になるしね」

「た、確かに部屋の都合はつくが……」
エリックもロナに何も言えず、困った様な表情を浮かべている。

「ロストも私の家で問題ないでしょ?」
歯切れの悪い二人に業を煮やしたロナは、今度は俺に同意を求めてきた。

「いや、大ありだよ、普通に考えてまずい」

「まずい? 何が?」
やだ、この子、本気で言っている。

「家族でもない大人の男女が一つ屋根の下で生活すると、あんな事やこんな事が起きるだろ?」

「あんな事やこんな事って?」
……先生、この子、性に関する知識がなさすぎます。

「エロい事になるって言ってんだよ!」

「……エロい事? あはは、大丈夫だって私の事を女扱いする人なんていないから」
え? 俺は手を握られた時、ドキドキしたんですが?

「とにかく、ロストは私の家に住む事に決定」
その後、三人でいくら説得してもロナは折れず、町に誘ったのは私だからと半ば押し切られる形で決められてしまった。

少し住んだら他の住処を探そう、そう考えて住処が見つかるまでは平常心を保とうと心に誓うのだった。

Episode.26 一つ屋根の下

「さ、入って入って」
エリック達と別れ、俺はロナの家へと案内される。

ロナの家は木製のログハウスの様な造りをしていた。

二人に別れ際、住処探しは俺達でやるからお前はとにかく間違いを起こすなと念を押された。

俺もこれからウィンミルトンで暮らす以上、問題は起こしたくないので二人との約束は守るつもりだ。

「お、お邪魔します」
生まれてこの方女性の家にお邪魔するという経験がなかったと思うので、免疫めんえきのない童貞思考の俺は緊張してしまう。

「自分の家だと思って、遠慮なく過ごしてね?」
ロナさん、それは無理です。

「部屋はあそこ、お父さんの所を使っていいから」

「あ、ああ、ありがとう」
一応、ロナの部屋とは離れているので安心した。

「よし、夕ご飯まだだから作ってくるね」
ロナはそう言うと台所へ向かい、てきぱきと無駄のない動きで料理を始めた。

「屋敷の時も思ったけど、ロナって家事全般得意なんだな」

「うん、お父さんと二人での生活が長かったからね? 自然と上達したんだ」
料理をするロナの後ろ姿を眺め、邪魔にならない様に気をつけながら会話をする。

「お待たせ」
ロナはあっという間に調理を終え、持ってきたのは以前ご馳走ちそうになったシチューだった。

「おぉ、美味しそう」
俺は運ばれてきた温かいシチューの香りに感動する。

「ちなみに肉は?」

「前と同じ兎だよ? というか、ロストって肉になんかトラウマでもあるの?」
俺はどんな肉でも食べれる様になろうと思ってはいるものの、未だに何の肉か聞く癖は直らない。

「実は……」
この家で住む以上、ラットヴィルでのトラウマを話しておこうとロナに話して聞かせた。

……
…………
………………
……………………

「あっはっはっは、鼠は確かに苦手な人はいるかもねー」
俺の悲惨すぎる事情を聞き、ロナは腹を抱えて笑っている。

「かもねーって、ロナは平気なのか?」

「私は猟師の娘だからね、大抵の動物は食べれるよ」
そういえば、そうだった。

「大丈夫、ここで生活してればどんな肉でも食べれる様になるから」
ロナは笑顔でそう言い、俺の背中をパンパン叩いた。

「そうだな、頑張って克服するわ」
肉に対する苦手意識を克服しようと思っていたし、そういう意味ではロナの家は好都合かもしれない。

「その意気その意気」
何せロナは猟を生業としている、馴染みのない動物の肉を食べる機会は多いだろう。

結果的にだが、ロナの家で生活する理由が一つ出来てしまった。

「さ、今日は歩き続けて疲れたでしょ? もう寝よう」
そのロナの提案で俺達は寝る事になり、それぞれの部屋の前へとやって来る。

「おやすみ、ロスト」

「お、おやすみ、ロナ」
そして、就寝前の挨拶を済ませて俺は用意された部屋へと入った。

入ってみると部屋はちゃんと整理されており、ベッドも少しほこり臭いが寝れない事はなさそうだ。

「よっと」
歩き疲れていたので眠れるかと思い、そのままベッドに潜り込んだ。

「だ、駄目だ、びっくりするくらい目が冴える」
しかし、近くで同い歳くらいの女性が眠ってると思うと緊張して全く眠れなかった。

「……こ、これは地獄だ」
今日は一睡も出来ないかもしれない、そんな絶望を抱えたまま夜は更けていった。
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