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Chapter.4 力の覚醒編

Short Episode.03 二人の距離

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 ソムニア歴1000年 再生の月(冬)

オデットさんがウィンミルトンに来てから数日経ったある日の出来事――

エリックとトールの二人に呼び出された俺は、アデラさんの経営する酒場へとやって来ていた。

中へ入ると早朝の営業時間外だからか客はおらず、端の席に座っている二人を発見して歩み寄る。

「おはよう、ロスト」

「おはよう、エリック」
先にエリックと挨拶を交わし……

「おはよう、ちゃんとロナにはバレずに来たか?」
トールへと続いた。

事前に説明しておくと、今回のこの集いはロナには内緒である。

何故なら、二人から三人だけで話がしたいと言われたからだ。

集合時間をロナですら起きない早朝にしたのも、そんな事情があったからだったりする。

「おはよう、ロナが寝ているのは確認したから大丈夫だ」
その代償だいしょうとして、俺はとてつもなく眠い。

「確認した? まさかお前達一緒に寝てるのか!?」

「アホか、部屋の前で寝息を聞いただけだ」
馬鹿な想像をふくらませるトールをそう言って黙らせる。

「それで何を話したいんだ?」

「決まっている、お前とロナについてだ」
トールのその返答に二人が何を聞きたいのか、おおよそ理解した。

「ロナと暮らしてしばらく経つけど、何か間違いがあったりしないか?」
間違い、所謂いわゆるムフフな展開というやつだ。

「安心しろ、そういう事はない」
最初の頃は緊張して眠れない日々が続いたが、今じゃ慣れて問題なく生活できている。

「とは言っても家族でもない若い男女が、一緒の家に住むというのは色々大変のはずだ」
横で話を聞いていたエリックも会話に参加する。

「それはそうだが……」
正直、今の調子だと間違えが起こる可能性は低いんじゃないかと思っている。

そりゃ最初は俺も警戒してロナとの接し方を変えてみたりとか色々していた。

しかし、一緒に過ごしている内に彼女が俺を異性として見ていないと気付いたのだ。

彼女は俺を仲間、一人の友人として見ている。

それが分かってしまったので二人が想像している事態にはならない、というのが俺の考えなのである。

「今、クリフさんに頼んで空き家の手配をしてもらっているんだ」
家の事はいつかはお願いしようと思っていたが、二人が先に動いてくれていた様だ。

「で、それが見つかるまでは俺達がこうしてお前に問題ないか尋ねる時間を作った、という訳だ」

「なるほど」
二人からしたら、ロナはとても大切な妹の様な存在なのだろう。

そんな妹の所にどこの馬の骨とも知れない男がやって来た、心配するなって方が無理な話だ。

その後、暫く二人からの尋問は続いた。

……
…………
………………
……………………

二人と別れ、ロナの家に帰るまでの道中――

「やばいやばい、早く帰らないとロナが起きてしまう」
思ったより話が長くなってしまい、駆け足で家へと帰る。

「しかし、新しい家かー」
帰っている最中、二人が探してくれているという家について考えを巡らせる。

「まだ暫くかかるって言っていたし、それまでは気をつけないとな」
とはいえ、さっきも説明した様にロナとはそういう関係ではないので問題ないと言えば問題ない。

「ただいまー」
家に着いた俺は、ロナを起こさない様に静かな声で囁きながら扉を開ける。

「……え?」
扉を開けると既にロナは起きていた。

しかし、そこまでは普通なのだが問題は彼女の格好だ。

「あれ、ロスト?」
どうやらロナは濡れタオルで体をいていたらしく、上着を脱いで素肌すはださらしている。

つまり、●っぱいとかおっ●いとかおっぱ●とかが丸見えなのだ。

「す、すまんっ!」
あまりの衝撃に暫く固まっていたが、我に返った俺は謝罪して大急ぎで扉を閉める。

慌てて外に出た俺は冷静になろうと天をあおいだ。

クリフさん、俺には新しい家が今すぐ必要です。

Short Episode.03 二人の距離

「いやー、てっきり暫く帰って来ないかと……」

「何かすまん」
むしろ、こういうハプニングが今までなかったのが奇跡きせきだったりするのかもしれない。

「まぁ私の裸なんか見ても興奮しないでしょ?」
いえ、しました。

「ごめんね、さっさと忘れてね」
先生、しました。

その後、ロナと話し合って家や互いの部屋に入る時は声がけをするというルールが新たに作られた。

こんな事が毎回起きたら、二人に殺されかねないからである。

それから俺はロナに内緒で二人と一緒に家探しを始めた。

クリフさんの話によると住めそうな空き家が一つあるのだが、そこは長らく住民が不在で空き家のままにするぐらいならと物置として使われていたそうだ。

なので、住むなら中にあるものを移動させないといけない。

代わりの置き場所は、新たに新設した倉庫に運べば問題ないと言っていたので心配はなさそうだ。

ただ物を移動させるにも人手がいるので住める様になるには暫く時間がかかってしまうという訳である。

「よし、持ったか? 運ぶぞ」

「おう、任せとけ」
事情をクリフさんから聞いた後、俺はエリック達と空き家にある物を運び出す作業を手伝う事にした。

勿論、オデットさんの訓練やロナの手伝いを優先した上での話だ。

最近は家を留守にする機会も増え、ロナから何をしているのか聞かれてはぐらかすのに苦労している。

ロナにも転居てんきょが決まったら話そう、そう心に決めて俺は物を運び出す作業を再開させた。
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みんなの感想(1件)

太も歩けば右から落ちる(仮)
ネタバレ含む
異世界転生夢見るおじさん
2022.09.18 異世界転生夢見るおじさん

感想ありがとうございます。
凄く嬉しい事を言って頂き、感動したと同時に作品を執筆する大きなモチベーションとなりました。今後も読んでくれる読者の皆さんが楽しんで頂ける様な作品を作っていきたいです。改めて、本当にありがとうございました。

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