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第2章 ここはシンデレラの世界らしい
22話 俺が作るべきもの
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ショウは冷や汗をダラダラと垂らして、青白い顔で頭を抱えていた。
俺も思わぬ日数に驚きを隠せなかったが、人間とは不思議なもので、自分よりもショックを受けている者を見ると、途端に冷静になってしまうらしい。
「あ、えっと……俺は」
俯いている神様(仮)に、これからの指示を仰ぐため、恐る恐る声をかけると、彼はビクリと肩を跳ねさせて立ち上がった。
可愛らしい笑顔を浮かべていた表情は、今この瞬間にも崩れそうだった。
溢れ出そうな涙は何とか堪えて、言葉を紡ぐその声はしゃくり上がっていた。
「無理言って……璃世の技術を……想いや気持ちを踏みにじって……本当にごめんなさい」
深く深く頭を下げるその姿に、俺は狼狽えてしまう。
彼が下を向いた拍子に、床に一滴、二滴の雫がこぼれ落ちた。
「でも、この3日!どうか吾輩に力を貸してください!」
そんな風に言われたら、応えるしかないじゃないか。
俺は震えて小さくなっている少年に向けて手を伸ばす。そして、彼の頭を優しく撫でながら声をかけた。
「……俺も、頑張ってみるよ」
俺の言葉を聞いた様子のショウは、ふぅっと息を吐いて肩を撫で下ろした。
頭に置かれた俺の手を掴んで、頬に擦り寄せる。
気持ちが落ち着いたのか、ショウは深呼吸をすると、俺から手を離した。
「本当にありがとう。迷惑かけちゃってごめんね。
……と、とりあえず、吾輩はもう少し詳しい状況を調べてくる」
「う、うん」
ドタバタと慌てながら、ショウは杖を取り出すと、それをひと回しして星の粉を全身に纏う。
その星の光にショウが導かれて行きそうになった時、彼はふと何かを思い出したのか、杖を反対方向に回し、輝きを止めた。
「あ、一つ言い忘れてた」
「ん?」
俺が聞き返すと、ショウは水晶玉のような瞳をこちらにじっと向けた。その瞳の周りは涙のせいか、少し赤くなっている。
そして一拍あけて。
「璃世大好きっ!」
満面の笑みを浮かべて、それだけ告げると、彼は《追跡》を唱えて、光に包まれて街かどこかに情報収集に行ってしまった。
静かになった応接間に一人。
俺は彼の笑顔を思い返しながらボソリと呟いた。
「めちゃくちゃ可愛いんだけど、言ってること、実はヤバいんだよな……」
***
さて、と息をついて、俺は工房へ向かう。
0時も過ぎたというのに、瞼はまだ垂れる気配がない。
衝撃の情報の波が押し寄せてきたのだから、そりゃあ脳も覚醒するだろう。
マントを脱いで、折りたたみ椅子にかける。
エラから貰ったブローチは衿に付ける。
俺が目指すべき父さんの技術を胸に宿した。
炉に向かい、火を灯す。
エラから受け取った材料を順に入れて、灼熱の海を作り上げる。
「はぁ。でもやっぱり、3日なんて、出来るわけ……」
ダメだ。後ろ向きになったら。
俺が作らないと、ショウも、この世界も、俺自身も消えるんだから。
ガラス細工には1晩冷やす作業が必要になる。
つまり、俺に残された時間は実質2日。
とりあえず、作ってみるか。
鉄の竿を握りしめて、炉の中に突っ込んで、数回回し、赤いマグマのようなそれを絡めとる。
湾曲した美しいシルエット。
それを支える高いヒール。
飾りはなくシンプルで、ガラスの素材の良さを全面に押し出したそんな父の作品。
そんな作品を俺の手で何としても作らなければならない。
竿を炉から引いて、後ろの耐熱台にのせる。
竿を転がせながら、赤く燃えるガラスを特殊な水につけた新聞紙を使い、撫でるように形を整えていく。
右手に持っていた新聞紙を置いて、少し太めの鉄棒に持ち替える。
竿を転がす左手はそのままに、燃える大玉にそれを刺して窪みを作る。履き口を作るためだ。
かろうじて履けるくらいに空洞が作られたが、無理やり穴を開けたことで、全体の形はだいぶ歪んでしまっているから、さらに整えていく必要がある。
父の作品に近付けるにはここからが本番だ。
まずは湾曲したシルエット。
つま先の丸み、土踏まずまでも意識した細かな輪郭線を意識して形を変えていく。
右手の道具をまた持ち替えて、今度は大きなトングを使い微調整をする。
が。
違う。こうじゃない。
熱がなくなってきて、硬くなり透明になったそれは、直線的で角ついている。滑らかとは程遠い。
落胆している場合じゃない。何とかして作らないといけないんだ。
溢れ出る不安を振り払って、また新しく竿を握り、マグマのようなガラスを掬い取る。
流れは同じ。
新聞紙で撫でて整え、穴を開け、さらに微調整をする。
先程よりはマシな形だ。
透明になった靴に新たな溶けたガラスを垂らして、ヒールを作る。高く、この線を強調するように。
しかし、出来上がったのはヒールと本底の高さが合わない。グラグラと揺れて、こんなの履けるものじゃない。これも、違う。
次。
曲線の美しさが示されるつま先部分の反りがない。
これも違う!
何個も何個も作っていくが、全く思う通りにいかない。
朝日に照らされて俺はやっと時間の経過を悟った。
いつもなら温かく希望の象徴であったようなそれが、俺を急かす絶望のように感じる。
「マズイ。ヤバい。全然できない」
竿を机に置いて、俺はそのままその場にへたりこんだ。
「父さん、アンタはどうやってあんな凄いもの作ったんだよ。何を思ったら、作れるんだよ……」
衿に付いたブローチを眺めて、俺はひとりで呟いた。
その答えは返ってこない。
静かに、ガラスが熱に溶ける音だけが工房に響く。
残された時間は少ないのに。
子守唄のようなその温かい音に俺の瞼は落ちてしまった。
俺も思わぬ日数に驚きを隠せなかったが、人間とは不思議なもので、自分よりもショックを受けている者を見ると、途端に冷静になってしまうらしい。
「あ、えっと……俺は」
俯いている神様(仮)に、これからの指示を仰ぐため、恐る恐る声をかけると、彼はビクリと肩を跳ねさせて立ち上がった。
可愛らしい笑顔を浮かべていた表情は、今この瞬間にも崩れそうだった。
溢れ出そうな涙は何とか堪えて、言葉を紡ぐその声はしゃくり上がっていた。
「無理言って……璃世の技術を……想いや気持ちを踏みにじって……本当にごめんなさい」
深く深く頭を下げるその姿に、俺は狼狽えてしまう。
彼が下を向いた拍子に、床に一滴、二滴の雫がこぼれ落ちた。
「でも、この3日!どうか吾輩に力を貸してください!」
そんな風に言われたら、応えるしかないじゃないか。
俺は震えて小さくなっている少年に向けて手を伸ばす。そして、彼の頭を優しく撫でながら声をかけた。
「……俺も、頑張ってみるよ」
俺の言葉を聞いた様子のショウは、ふぅっと息を吐いて肩を撫で下ろした。
頭に置かれた俺の手を掴んで、頬に擦り寄せる。
気持ちが落ち着いたのか、ショウは深呼吸をすると、俺から手を離した。
「本当にありがとう。迷惑かけちゃってごめんね。
……と、とりあえず、吾輩はもう少し詳しい状況を調べてくる」
「う、うん」
ドタバタと慌てながら、ショウは杖を取り出すと、それをひと回しして星の粉を全身に纏う。
その星の光にショウが導かれて行きそうになった時、彼はふと何かを思い出したのか、杖を反対方向に回し、輝きを止めた。
「あ、一つ言い忘れてた」
「ん?」
俺が聞き返すと、ショウは水晶玉のような瞳をこちらにじっと向けた。その瞳の周りは涙のせいか、少し赤くなっている。
そして一拍あけて。
「璃世大好きっ!」
満面の笑みを浮かべて、それだけ告げると、彼は《追跡》を唱えて、光に包まれて街かどこかに情報収集に行ってしまった。
静かになった応接間に一人。
俺は彼の笑顔を思い返しながらボソリと呟いた。
「めちゃくちゃ可愛いんだけど、言ってること、実はヤバいんだよな……」
***
さて、と息をついて、俺は工房へ向かう。
0時も過ぎたというのに、瞼はまだ垂れる気配がない。
衝撃の情報の波が押し寄せてきたのだから、そりゃあ脳も覚醒するだろう。
マントを脱いで、折りたたみ椅子にかける。
エラから貰ったブローチは衿に付ける。
俺が目指すべき父さんの技術を胸に宿した。
炉に向かい、火を灯す。
エラから受け取った材料を順に入れて、灼熱の海を作り上げる。
「はぁ。でもやっぱり、3日なんて、出来るわけ……」
ダメだ。後ろ向きになったら。
俺が作らないと、ショウも、この世界も、俺自身も消えるんだから。
ガラス細工には1晩冷やす作業が必要になる。
つまり、俺に残された時間は実質2日。
とりあえず、作ってみるか。
鉄の竿を握りしめて、炉の中に突っ込んで、数回回し、赤いマグマのようなそれを絡めとる。
湾曲した美しいシルエット。
それを支える高いヒール。
飾りはなくシンプルで、ガラスの素材の良さを全面に押し出したそんな父の作品。
そんな作品を俺の手で何としても作らなければならない。
竿を炉から引いて、後ろの耐熱台にのせる。
竿を転がせながら、赤く燃えるガラスを特殊な水につけた新聞紙を使い、撫でるように形を整えていく。
右手に持っていた新聞紙を置いて、少し太めの鉄棒に持ち替える。
竿を転がす左手はそのままに、燃える大玉にそれを刺して窪みを作る。履き口を作るためだ。
かろうじて履けるくらいに空洞が作られたが、無理やり穴を開けたことで、全体の形はだいぶ歪んでしまっているから、さらに整えていく必要がある。
父の作品に近付けるにはここからが本番だ。
まずは湾曲したシルエット。
つま先の丸み、土踏まずまでも意識した細かな輪郭線を意識して形を変えていく。
右手の道具をまた持ち替えて、今度は大きなトングを使い微調整をする。
が。
違う。こうじゃない。
熱がなくなってきて、硬くなり透明になったそれは、直線的で角ついている。滑らかとは程遠い。
落胆している場合じゃない。何とかして作らないといけないんだ。
溢れ出る不安を振り払って、また新しく竿を握り、マグマのようなガラスを掬い取る。
流れは同じ。
新聞紙で撫でて整え、穴を開け、さらに微調整をする。
先程よりはマシな形だ。
透明になった靴に新たな溶けたガラスを垂らして、ヒールを作る。高く、この線を強調するように。
しかし、出来上がったのはヒールと本底の高さが合わない。グラグラと揺れて、こんなの履けるものじゃない。これも、違う。
次。
曲線の美しさが示されるつま先部分の反りがない。
これも違う!
何個も何個も作っていくが、全く思う通りにいかない。
朝日に照らされて俺はやっと時間の経過を悟った。
いつもなら温かく希望の象徴であったようなそれが、俺を急かす絶望のように感じる。
「マズイ。ヤバい。全然できない」
竿を机に置いて、俺はそのままその場にへたりこんだ。
「父さん、アンタはどうやってあんな凄いもの作ったんだよ。何を思ったら、作れるんだよ……」
衿に付いたブローチを眺めて、俺はひとりで呟いた。
その答えは返ってこない。
静かに、ガラスが熱に溶ける音だけが工房に響く。
残された時間は少ないのに。
子守唄のようなその温かい音に俺の瞼は落ちてしまった。
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