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第1章 出会い
18話 王子様の力(side サン)後編
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とは言ったものの。
俺はルクスフィリアの中心街にある書店に足を運んでしまっていた。
王宮図書館でも良かったのだが、一国の王子がそんな本を読んでいたらきっと変な噂になるだろう。
今、姿を変えているうちに調査しておいた方がいいだろう。
決して、早く知りたいとか読みたいとか、王宮に帰るまでの時間がもったいないとか、いう思いは断じてない。
書店のカウンターで頬杖を付いていた若い女性店員に声をかける。
「……こ、恋についての書物を教えてくれないか?」
「は、はい、ただ今」
女性は目を見開き上擦った声を出す。
一瞬意識を飛ばしたように呆然とするが、気を取り戻して、カウンターの隣にある本棚からある本を取り出して手渡してきた。
「こちらが今流行りのロマンス小説です」
「助かる」
よく分からないが、店員が進めるのなら間違いは無いだろう。短く礼を言って彼女からピンク色の奇抜な表紙の本を受け取った。
そして、併設されているカフェテリアで紅茶を飲みながらそれを読むことにした。
向かう最中、すれ違いざまに様々な声が耳に入ってくる。
「とんでもない美男子があのロマンス小説を持っていたわ」
「まあ、あの?」
「いいわよねぇ、タルタロス先生の作品!」
「恋する乙女の必読書ですわ!」
「それなら彼は……恋をしているのかしら?」
「きゃあ!」
「私もあんな格好良い殿方に愛されてみたいわ」
「ねぇ!」
好き勝手に言ってくれる。
俺が恋もいうモノをしているのか、いちばん知りたいのは俺自身だというのに。
好き勝手な妄想話を背中で浴びながら、カポ地方で取れた茶葉を使った紅茶・カポ茶を片手に、頁をめくっていく。
『平民の私ですが、薬草研究に没頭していたら、貴族様に見初められて溺愛されています』
というやたら長ったらしいタイトル。
その下の煽り文句には、【恋愛の伝道師タルタロスがえがく、甘い恋の物語】
分からん。
本当になんなんだコレは。
こんなモノで俺のこの心のざわめきの訳がわかるのか?
恋が分かるのか?
半ば呆れながらページをめくる。
物語はお忍びで市場に来ていた王子・アレクサンドルと平民の薬売りの少女リリが出会うところから始まる。
ありえない話だな、王子が平民と恋仲になるなんて。
俺と彼奴なら……王子と異世界人って所だろうか。
ふふ、こっちの方がありえない組み合わせじゃないか……って俺は何を考えてるんだ!
雑念を振り払って、物語に入り直す。
『どうして私に軽々しい口を聞く?』
『だって貴方は、ぶつかってきたのに謝りもしない横暴な人ですもの!そんな人を敬いたくないわ』
俺が魔女だと決めつけて強く当たった時、彼奴もリリのような気持ちだったのだろうか。
だから、最初から俺を特別視しない、砕けた喋りだったのかもしれない。
『どうしてお前は俺を見ない』
『薬草を煎じている時の方が楽しいもの』
『クク、面白い女だ』
『お前から目が離せないんだ』
アレクサンドルは思わずリリを抱きしめる。
分かる!分かるぞアレクサンドル!
何かに真っ直ぐな姿に惹かれる想いも。
その姿を抱きしめて独り占めしたい想いも。
全く一緒だ。今、俺が抱いている気持ちと。
まるで自分の胸の内がそのまま文字になっているようで手が震えた。
この本は何故、これほどまでに俺の心を当ててくる?!
アレクサンドルが抱いていたそれらの気持ちを吐き出すと、リリが満面の笑みで答える。
『私もアレクと同じ気持ちよ』
『え』
『これはもう、この気持ちはもう大好きってことね!私は貴方に恋してるってこと!』
……恋。この気持ちが恋なのか。
『愛している。俺とずっと一緒にいてくれ』
『喜んで』
『待って、キスは初めてなの』
『はは、では優しく時間をかけて楽しもう』
頬を真っ赤に染めるリリ。
その姿が彼奴と重なった。
ウブなところもいいんだ……彼奴みたいに。
甘い幸せなページを堪能して、次のページに写った時。
『こんにちは、僕のお姫様』
『貴方は……?』
『こんな横暴な男はやめて、どうか僕の手を取って』
誰だこのいけ好かない男は。
その光景を見たアレクサンドルは激昂してソイツに剣を向ける。
『っ!おい!お前その手を離せ!殺す!リリに触れたお前を殺してやる!』
……?
怒るのは分かるが、剣を向けるまでのことか?
そんな疑問が残る中、その答えを求めようとページをめくると、終わってしまった。
「おい。ここで終わるのか、作者・タルタロス……!」
おい、この続きはどうなるんだ!
アレクサンドルとリリは幸せを掴めるのか?!
***
とても面白かった。
結局シリーズ全てを購入し、全て読んでしまった。
続きが気になりすぎる。
アレクサンドルの気持ちに共感してしまった。
今の俺のこの胸の痛みと完全に一致している。
あの本が伝えることが正しいなら、俺はやはり、彼奴に……こ、恋をしている、らしい。
いざ、そう考えると全身が沸騰したように熱くなる。
恋。
恋というのはその相手のことを、抱きしめたいとか、口付けをしたいとか、そういう気持ちを抱くことで。
俺は彼奴と……
そういうことを、したい。
とてもしたい。
もう一度、彼奴と会って、襲いかかる危険から護るためではなく、真っ直ぐな瞳を俺だけのものにするために抱きしめたい。
魔力探知ではない口付けをしたい。
そう思った瞬間、なんだこの動悸は!
ああ、アレクサンドルとリリのように、ごった返す夜市でばったりぶつかって出会えればいいのに。
そんなことを思いながら、賑わう屋台の間を歩いていた時。
「痛っ」
何かとぶつかり、俺は声の方を見ようとした。
ぶつかったことよりも、その声音の方に意識を奪われる。
この声は!?もしかして、彼奴か?
しかし、その声の方向には誰もいない。
彼のことを思い出すことが常になって、ついに幻聴が聞こえ始めたかと思った。
いや違う。
確かにそこに誰かはいる。
「……お前……」
そこにいるはずなのに、ぶつかったはずなのに、その姿が靄にかかっているように目視することが出来ない。
やたはと気になる朧気な存在に何とか触れようと、腰を曲げて靄に手を伸ばす。
その中で何かを掴んだような感触がした。
さらさらとした肌、角張った骨、その輪郭の手触りから推測するに、俺が触れているのは人の顎だろうか。
認識阻害系の魔法がかけられているのか?
魔法に強い俺でも破れない認識阻害。きっと、これをかけた術者は俺と同等の魔力量を持つ者だろう。
しかし、この手探り状況でも、何とか魔力探知をして、魔法の詳細を炙り出すことが出来れば、今触れている温かい人間の姿を見れるかもしれない。
この靄の中にいる、俺の心をざわつかせる存在にもっと触れたい、見たい、話したい、名を聞きたい。
俺は触れていた顎の感触を頼りに唇を探して親指で撫でる。
そして、そこに向けて魔力探知をしようと近づいた。
その時、銀髪の女の手がそれを阻んだ。
「見つけた」
女はそう言って俺に鋭い瞳を向けてくる。普通の人間なら一発で倒れてしまいそうなほどの圧を放って、靄に包まれた者をとんでもない速さで連れていく。
「おい待て!」
俺は何とかそれを引き止めようと、彼が身につけている布に手が触れた。
その瞬間、俺は確信した。
あのマントは……!
王族しか手に入れられない極上の白絹の手触り。
その裾の端は、少し茶色く汚れている。
俺が彼奴の工房に置いてきたものだ!
それを被っているということは……
彼奴だ。彼なんだ!
それに気付いた瞬間、俺はその後ろ姿を追おうとする。
しかし、時は既に遅かった。
厄介な女に捕らわれていた。
悔しくて、もどかしくて仕方がない。
もっと早く確信できていれば。
彼奴、銀髪のあの女とはどういう関係なんだ。
も、もしかして彼奴とあの女はアレクサンドルとリリのような恋人同士なのでは?
……は?ありえない。ありえないだろ。
何故かそんなことを考えると腹が立ってくる。腸が煮えくり返りそうな程に。
ああ、これが、いけ好かない男がリリを口説いていた時にアレクサンドルが激昂した時の、気持ちか。確かに、強く握った拳には殺意と似たようなものが込められているような気がする。
ここにきても、痛いくらいに分かってしまうな。
***
「お帰りなさいませ、殿……下」
王宮に帰ってきた俺を迎えるレイモンドは深々と頭を下げる。体制を戻した彼は、俺の表情に驚いたのか声を震わせながら言葉を詰まらせていた。
初めての感情に振り回されて、俺が今どんな顔をしているのか、全く予想できない。
でも、彼を見るに相当酷い顔なのだろう。
王子としての威厳を保つためにも、この気持ちを何とかしないとな。
「レイモンド」
「はい」
「舞踏会はいつだ?」
「1ヶ月後です。
昨日、王国会議が終わりましたので、ご令嬢方も王都の別邸にて諸侯の方々と合流し始め、準備をされているところかと」
1ヶ月。そんな悠長な時間待てるわけが無い。
待っていたら俺がどうにかなってしまう。
あの女の手の中にいるかもしれない彼奴が、どんな扱いをされているのか。
そんなことを考えるだけで焦燥感が身体の中を暴れ回る。
「舞踏会、明日するぞ」
「………………はい?」
レイモンドの顔がピタッと固まった。
自分でも少しやりすぎだとは思うが、俺の焦燥が言うことを聞いてくれない。
「明日だ」
「むむむむむむ無茶です!」
レイモンドの絶叫が王宮に響き渡るが、俺の思考は彼奴とあの女のことで頭がいっぱいだった。
あの女の魔法を暴き、彼奴を探し出す。
そのためにはこの舞台がちょうどいい。
ちょうど貴族たちも王都に集まっていることだし、体のいい理由になるだろう。
ふと意識を目の前に移してみると、レイモンドが腰を抜かして涙目で縋るように俺を見つめている。
……国民全体に周知させるためには、明日の開催はさすがに難しいか。
出来るだけ早く、現実的な日数は……。
「譲歩して3日だ。国中の若い人間を集めろ」
「……か、かしこまりました若い未婚の女性を……」
確かにこの舞踏会は俺の婚約者を探す場として用意されているものだ。
でも、俺の目的は違う。
「全員と言ったろ?」
魔女の森にいるはずの彼奴が王都にいた。
だから、しっかり用意しないとな、ここに来る権利を、義務を、命令を。
「男もだ」
「……はい?!」
王宮には更に大きなレイモンドの声が轟いた。
俺はルクスフィリアの中心街にある書店に足を運んでしまっていた。
王宮図書館でも良かったのだが、一国の王子がそんな本を読んでいたらきっと変な噂になるだろう。
今、姿を変えているうちに調査しておいた方がいいだろう。
決して、早く知りたいとか読みたいとか、王宮に帰るまでの時間がもったいないとか、いう思いは断じてない。
書店のカウンターで頬杖を付いていた若い女性店員に声をかける。
「……こ、恋についての書物を教えてくれないか?」
「は、はい、ただ今」
女性は目を見開き上擦った声を出す。
一瞬意識を飛ばしたように呆然とするが、気を取り戻して、カウンターの隣にある本棚からある本を取り出して手渡してきた。
「こちらが今流行りのロマンス小説です」
「助かる」
よく分からないが、店員が進めるのなら間違いは無いだろう。短く礼を言って彼女からピンク色の奇抜な表紙の本を受け取った。
そして、併設されているカフェテリアで紅茶を飲みながらそれを読むことにした。
向かう最中、すれ違いざまに様々な声が耳に入ってくる。
「とんでもない美男子があのロマンス小説を持っていたわ」
「まあ、あの?」
「いいわよねぇ、タルタロス先生の作品!」
「恋する乙女の必読書ですわ!」
「それなら彼は……恋をしているのかしら?」
「きゃあ!」
「私もあんな格好良い殿方に愛されてみたいわ」
「ねぇ!」
好き勝手に言ってくれる。
俺が恋もいうモノをしているのか、いちばん知りたいのは俺自身だというのに。
好き勝手な妄想話を背中で浴びながら、カポ地方で取れた茶葉を使った紅茶・カポ茶を片手に、頁をめくっていく。
『平民の私ですが、薬草研究に没頭していたら、貴族様に見初められて溺愛されています』
というやたら長ったらしいタイトル。
その下の煽り文句には、【恋愛の伝道師タルタロスがえがく、甘い恋の物語】
分からん。
本当になんなんだコレは。
こんなモノで俺のこの心のざわめきの訳がわかるのか?
恋が分かるのか?
半ば呆れながらページをめくる。
物語はお忍びで市場に来ていた王子・アレクサンドルと平民の薬売りの少女リリが出会うところから始まる。
ありえない話だな、王子が平民と恋仲になるなんて。
俺と彼奴なら……王子と異世界人って所だろうか。
ふふ、こっちの方がありえない組み合わせじゃないか……って俺は何を考えてるんだ!
雑念を振り払って、物語に入り直す。
『どうして私に軽々しい口を聞く?』
『だって貴方は、ぶつかってきたのに謝りもしない横暴な人ですもの!そんな人を敬いたくないわ』
俺が魔女だと決めつけて強く当たった時、彼奴もリリのような気持ちだったのだろうか。
だから、最初から俺を特別視しない、砕けた喋りだったのかもしれない。
『どうしてお前は俺を見ない』
『薬草を煎じている時の方が楽しいもの』
『クク、面白い女だ』
『お前から目が離せないんだ』
アレクサンドルは思わずリリを抱きしめる。
分かる!分かるぞアレクサンドル!
何かに真っ直ぐな姿に惹かれる想いも。
その姿を抱きしめて独り占めしたい想いも。
全く一緒だ。今、俺が抱いている気持ちと。
まるで自分の胸の内がそのまま文字になっているようで手が震えた。
この本は何故、これほどまでに俺の心を当ててくる?!
アレクサンドルが抱いていたそれらの気持ちを吐き出すと、リリが満面の笑みで答える。
『私もアレクと同じ気持ちよ』
『え』
『これはもう、この気持ちはもう大好きってことね!私は貴方に恋してるってこと!』
……恋。この気持ちが恋なのか。
『愛している。俺とずっと一緒にいてくれ』
『喜んで』
『待って、キスは初めてなの』
『はは、では優しく時間をかけて楽しもう』
頬を真っ赤に染めるリリ。
その姿が彼奴と重なった。
ウブなところもいいんだ……彼奴みたいに。
甘い幸せなページを堪能して、次のページに写った時。
『こんにちは、僕のお姫様』
『貴方は……?』
『こんな横暴な男はやめて、どうか僕の手を取って』
誰だこのいけ好かない男は。
その光景を見たアレクサンドルは激昂してソイツに剣を向ける。
『っ!おい!お前その手を離せ!殺す!リリに触れたお前を殺してやる!』
……?
怒るのは分かるが、剣を向けるまでのことか?
そんな疑問が残る中、その答えを求めようとページをめくると、終わってしまった。
「おい。ここで終わるのか、作者・タルタロス……!」
おい、この続きはどうなるんだ!
アレクサンドルとリリは幸せを掴めるのか?!
***
とても面白かった。
結局シリーズ全てを購入し、全て読んでしまった。
続きが気になりすぎる。
アレクサンドルの気持ちに共感してしまった。
今の俺のこの胸の痛みと完全に一致している。
あの本が伝えることが正しいなら、俺はやはり、彼奴に……こ、恋をしている、らしい。
いざ、そう考えると全身が沸騰したように熱くなる。
恋。
恋というのはその相手のことを、抱きしめたいとか、口付けをしたいとか、そういう気持ちを抱くことで。
俺は彼奴と……
そういうことを、したい。
とてもしたい。
もう一度、彼奴と会って、襲いかかる危険から護るためではなく、真っ直ぐな瞳を俺だけのものにするために抱きしめたい。
魔力探知ではない口付けをしたい。
そう思った瞬間、なんだこの動悸は!
ああ、アレクサンドルとリリのように、ごった返す夜市でばったりぶつかって出会えればいいのに。
そんなことを思いながら、賑わう屋台の間を歩いていた時。
「痛っ」
何かとぶつかり、俺は声の方を見ようとした。
ぶつかったことよりも、その声音の方に意識を奪われる。
この声は!?もしかして、彼奴か?
しかし、その声の方向には誰もいない。
彼のことを思い出すことが常になって、ついに幻聴が聞こえ始めたかと思った。
いや違う。
確かにそこに誰かはいる。
「……お前……」
そこにいるはずなのに、ぶつかったはずなのに、その姿が靄にかかっているように目視することが出来ない。
やたはと気になる朧気な存在に何とか触れようと、腰を曲げて靄に手を伸ばす。
その中で何かを掴んだような感触がした。
さらさらとした肌、角張った骨、その輪郭の手触りから推測するに、俺が触れているのは人の顎だろうか。
認識阻害系の魔法がかけられているのか?
魔法に強い俺でも破れない認識阻害。きっと、これをかけた術者は俺と同等の魔力量を持つ者だろう。
しかし、この手探り状況でも、何とか魔力探知をして、魔法の詳細を炙り出すことが出来れば、今触れている温かい人間の姿を見れるかもしれない。
この靄の中にいる、俺の心をざわつかせる存在にもっと触れたい、見たい、話したい、名を聞きたい。
俺は触れていた顎の感触を頼りに唇を探して親指で撫でる。
そして、そこに向けて魔力探知をしようと近づいた。
その時、銀髪の女の手がそれを阻んだ。
「見つけた」
女はそう言って俺に鋭い瞳を向けてくる。普通の人間なら一発で倒れてしまいそうなほどの圧を放って、靄に包まれた者をとんでもない速さで連れていく。
「おい待て!」
俺は何とかそれを引き止めようと、彼が身につけている布に手が触れた。
その瞬間、俺は確信した。
あのマントは……!
王族しか手に入れられない極上の白絹の手触り。
その裾の端は、少し茶色く汚れている。
俺が彼奴の工房に置いてきたものだ!
それを被っているということは……
彼奴だ。彼なんだ!
それに気付いた瞬間、俺はその後ろ姿を追おうとする。
しかし、時は既に遅かった。
厄介な女に捕らわれていた。
悔しくて、もどかしくて仕方がない。
もっと早く確信できていれば。
彼奴、銀髪のあの女とはどういう関係なんだ。
も、もしかして彼奴とあの女はアレクサンドルとリリのような恋人同士なのでは?
……は?ありえない。ありえないだろ。
何故かそんなことを考えると腹が立ってくる。腸が煮えくり返りそうな程に。
ああ、これが、いけ好かない男がリリを口説いていた時にアレクサンドルが激昂した時の、気持ちか。確かに、強く握った拳には殺意と似たようなものが込められているような気がする。
ここにきても、痛いくらいに分かってしまうな。
***
「お帰りなさいませ、殿……下」
王宮に帰ってきた俺を迎えるレイモンドは深々と頭を下げる。体制を戻した彼は、俺の表情に驚いたのか声を震わせながら言葉を詰まらせていた。
初めての感情に振り回されて、俺が今どんな顔をしているのか、全く予想できない。
でも、彼を見るに相当酷い顔なのだろう。
王子としての威厳を保つためにも、この気持ちを何とかしないとな。
「レイモンド」
「はい」
「舞踏会はいつだ?」
「1ヶ月後です。
昨日、王国会議が終わりましたので、ご令嬢方も王都の別邸にて諸侯の方々と合流し始め、準備をされているところかと」
1ヶ月。そんな悠長な時間待てるわけが無い。
待っていたら俺がどうにかなってしまう。
あの女の手の中にいるかもしれない彼奴が、どんな扱いをされているのか。
そんなことを考えるだけで焦燥感が身体の中を暴れ回る。
「舞踏会、明日するぞ」
「………………はい?」
レイモンドの顔がピタッと固まった。
自分でも少しやりすぎだとは思うが、俺の焦燥が言うことを聞いてくれない。
「明日だ」
「むむむむむむ無茶です!」
レイモンドの絶叫が王宮に響き渡るが、俺の思考は彼奴とあの女のことで頭がいっぱいだった。
あの女の魔法を暴き、彼奴を探し出す。
そのためにはこの舞台がちょうどいい。
ちょうど貴族たちも王都に集まっていることだし、体のいい理由になるだろう。
ふと意識を目の前に移してみると、レイモンドが腰を抜かして涙目で縋るように俺を見つめている。
……国民全体に周知させるためには、明日の開催はさすがに難しいか。
出来るだけ早く、現実的な日数は……。
「譲歩して3日だ。国中の若い人間を集めろ」
「……か、かしこまりました若い未婚の女性を……」
確かにこの舞踏会は俺の婚約者を探す場として用意されているものだ。
でも、俺の目的は違う。
「全員と言ったろ?」
魔女の森にいるはずの彼奴が王都にいた。
だから、しっかり用意しないとな、ここに来る権利を、義務を、命令を。
「男もだ」
「……はい?!」
王宮には更に大きなレイモンドの声が轟いた。
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