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第1章 出会い
19話 魔女様からの依頼
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暗い闇の中、見失わないようにスイを抱きしめながら、更なる森林の中に足を踏み入れる。
「ガラスを語れる友達ができるなんて……!」
ここまで必死で走ってきたからか。
それともガラスに理解ある初めての友人に出会えたからか。
この鼓動は静かな森で大きく響いた。
そんな時、スイが思いがけず、俺の腕の中から飛び降りて、深くに入っていく。
スイは黒い毛並みなのだから、一度見失うと闇に溶け込んでしまい探せなくなってしまう。
慌ててその背中を追おうとした時、不思議な現象が起こる。
自然とスイが向かっている場所が分かる。
スイが駆けた肉球の跡が地面に星のように輝いていたのだ。そのおかげで暗い闇の中を彷徨うことはなかった。
この森を出る時もスイのお陰だったけれど、帰る時も道標になってくれるなんて。
あの黒猫はなにか不思議な力を持っている気がする。
「おーいスイ~?」
愛猫の名前を呼びながら、輝く軌跡を辿っていく。
しばらく歩くと導かれるようにして、工房にたどり着いていた。
森の中にポツリと建つ古民家を見て、帰ってきたことを実感して昂っていた気持ちが静かに落ち着いていく。
一日空けただけで凄く懐かしいように感じる。
工房の入口には愛猫の影にしては大きすぎる黒い何かが見える。
ゆっくり、ゆっくりとそれに近づくと、それに気付いた向こうの方から距離を詰めてきた。
「……スイ?」
形から全く違うはずなのに無意識、その名を呼ぶ声が零れてしまう。
その声に気付いてか、闇に染った人影は闇から出てその姿を俺に見せた。
「お探しの黒猫じゃなくてごめんね。
キミが探しているあの黒猫は、また気になるモノを見つけたみたいだ。アレの安全は吾輩が保証するから安心して」
夜風に靡く短い黒髪。
ガラスのように澄んだ丸い水色の瞳。
白い肌に、桃色の頬。
身体を全て隠すような闇に溶けるローブを纏った、中学生くらいの少年。
とりあえず……
「あ、あの、どちら様ですか?」
少年は纏っていたローブを揺らめかせながら、俺の目下まで距離を縮め、俺の顔を覗き込む。
「ごめんごめん、自己紹介しなきゃだよね。
吾輩は、そうだな……この世界でいえば……魔女ってやつになるね」
魔女!彼が魔女、なのか。
金髪の彼から恐ろしいことばかり言われていたから、その正体がこんなに愛らしい少年だとは信じ難い。
彼が教えてくれた魔女の特徴は、絹のような黒髪に、1枚の布を巻き付けたような見慣れない服を着た……云々って言ってたっけ?
確かにさらさら黒髪だし、全身黒ローブで怪しいけど、強力な力を持っている魔女にしては、ちょっと可愛すぎる。
金髪の彼は男の俺が魔女でも疑わなかったけれど、やっぱり魔"女"って言うくらいだ。
目の前にいる本物の魔女様はボーイッシュな女の子なのか?
「全然、普通に雄!男の子だよ~!」
俺の考えを読み取ったように木霊するほどの大きな声で宣言する。
「摂理、でね……」
「え?」
その後の彼の言葉の意味が分からず俺が聞き返すと、無理やり誤魔化して話題を変える。
「吾輩のことは、気軽に……ショウって呼んで」
「わ、分かり、ました。ショウ、さん」
「タメ口、呼び捨て、ぷりーず!」
腰に手を当てて丸っこ頬を膨らませて、更に丸くする姿を見て、思わず可愛いと思ってしまった。
彼はめちゃくちゃ強いはず魔女なのにも関わらず。
人懐っこい姿に絆された俺は、彼が魔女という恐怖心はすぐに消え、彼のお願いを了承した。
「分かった、ショウ」
「良きかな良きかな」
満足そうに胸を張って、少しつり上がった目をとろんと垂れさせて笑う。
綺麗な美男子に、可憐な美少女、次は可愛い美少年。異世界、とんでもない。
目の前の愛らしい少年に癒されていると、彼もそれに勘づいたのか、ウインクをして更に心を掴んでくる。
そして懐に潜り込んでは、キラキラとそしてうるうるとした瞳で俺の方を見上げた。
「さて、璃世。こんな夜中に申し訳ないけれど、吾輩にキミの時間をくれないか?」
「え、あ、あぁ」
よく知らない人を家に入れちゃ行けません。
子どもでも分かるそんな簡単なことなのに、俺は気付けば彼の言葉に頷いて、誘うように工房の扉を開けていた。
彼は大丈夫だ、安心出来ると、直感が言っている。
俺の返事を聞いた黒髪の少年・ショウは、屈託のない笑顔を見せると、迷うことなく扉の中に踏み込んだ。
俺のことなど構わずに、元気に工房の廊下を駆けていく。
そして、迷うことなく応接間にたどり着くと、ソファに飛び乗って、後から来た俺を手招きした。
「ほら、適当に座って~」
「工房をさも自分ん家みたいに……」
俺もショウと相対して、ソファに腰を下ろすと、彼は一息ついて口を開いた。
「突然だけど璃世、エラとは出会えたかい?」
今、初めて会ったはずのショウから、エラとの一日を尋ねられ俺は一瞬狼狽えたが、全てを見透かされているような不思議な瞳を見て、彼は強力な力を持つ魔女だということを再認識した。
「……魔女様はなんでも知ってるんだな」
「当たり前でしょ。見てたもん」
ショウは手で輪を作ると、その穴を覗き込んで俺の方を見てクシャりと笑う。
……コイツ、自分が可愛いことを自覚してる。
俺は悶絶しそうな気持ちを抑えて、冷静なトーンで彼の質問に答えた。
「エラは、超いい子で、ガラスの素材を教えてくれて、沢山のものをくれて、本当に良くしてもらったよ」
それを聞いたショウはガラス玉のような瞳を輝かせて頷いた。
「うんうん!ねぇ、そのエラについてなんだけどね」
1拍置いて。声音をワントーン上げて、ショウは告げた。
「彼女さ、シンデレラなんだよね」
「シンデレラ……へぇ、シンデレラ。……シンデレラ!?あの童話の!?」
「そうそう。あの超有名な童話のシンデレラ!
実はね、この世界はシンデレラの世界なんだよ!」
ネット小説でもゲームの中でもなく、童話の世界に転移してしまっていたとは……。
予想だにしない展開に驚きつつも、転移してからこれまでの短い時間を振り返り、状況を確認する。
……あれ、でもシンデレラの物語に『ガラスは禁忌』とか、『銀髪や黒髪が排斥されている』とか、『恐ろしい魔女』とかいう設定あったっけ?
考えれば考えるほど、溢れ出るたくさんの疑問。
しかし、俺のそんな思考を止める、ショウの芯の通った声が響いた。
「そこでなんだけど、ガラス職人の璃世に依頼があるんだ」
「依頼?」
「ガラスの靴、作ってくれないかな?」
その言葉を聞いた瞬間、それまで考えていたことが吹っ飛ぶほどの衝撃に襲われる。
俺が作りたいものを、魔女が、ショウが欲している?!
興奮を隠せない感情をなんとか理性が制止した。
魔女は強大な力を持つ。それならば、ガラスの靴を作るくらい、俺に頼る必要ないはずだ。なぜ、彼はそれを俺に頼むのだろう。
「……魔女様の力で何とかできるんじゃ?」
「吾輩も魔法で何とかしよっかな~っと思っていたんだけれど、シンデレラの物語をよ~く思い出してみて」
ショウは長いローブの袖の中から魔法の杖を取り出し、くるくると回しながら問いかけた。
「魔法は0時になったら解けるのは知ってる?」
ショウの問いに続いて、昔読んだ記憶を辿っていく。
「ああ。だから、シンデレラが急いで舞踏会から去ろうとしたから、ガラスの靴を片方落として……」
俺が物語の大筋を語ろうとした時、ショウは大きな声をあげて、バシッと俺に人差し指の先を向けた。
「そう、そこ!それが《ガラスの靴》を魔法で作ったらダメな理由だよ!魔法が解けて0時で靴が消えてしまったら、王子様がシンデレラを探せない。
そしたらシンデレラと王子様が結ばれないでしょう?」
「たし、かに」
シンデレラの物語で《ガラスの靴》だけが残った。
それは《ガラスの靴》だけが魔法で作られていなかったから。
なら、それを作るのは……ガラス職人しか出来ない。
この世界で、俺ができること、俺にしか出来ないこと。
そう考えると、心臓が熱いぐらい早く音を刻む。
「お願いだ、璃世。この世界の大事なキーアイテムを作って欲しい」
ショウから伸ばされた手。
俺はしばらくの間それを見つめていた。
ショウを目の前にすると心の内が全部読まれてる気がする。
どうせ読まれるなら、最初から言葉にした方が格好はつくだろう。
エラから貰ったブローチを眺め、握りしめながら、取り繕わずに自分の気持ちを吐き出す。
「俺の夢はずっと変わらない。父さんの作品みたいな誰かの心を揺さぶる美しいガラス細工を作ること」
「うん」
「この世界に来て、やっと自由にガラス細工が出来るようになって、俺の作りたいモノを作ろうとしてきた」
「うん」
「俺が今、一番作りたいものは、俺の心を揺さぶった、父さんが作ったあの《ガラスの靴》だ」
その想いを吐露したあと、導かれた俺の結論は早かった。
「出来るかは分からない。でも、やってみたい」
俺が差し出されて手を掴んだ瞬間、目の前の少年の瞳は潤んでキラリとガラス……いや、天然の水晶のように輝いた。
ぎゅっと温かい手の温度を共有して、意志を確かめ合って数十秒、ゆっくりと手を離す。
その後、ショウは両手を上げて、足をバタバタとさせながら喜びを全身で表現した。
そんな様子を見るとこちらまで笑みがこぼれて来る。
そんなテンションで俺の隣に移動したショウは、俺の手掴むとを両手で包み込んで優しく微笑んだ。
「その言葉を待ってたよ!ありがとう、璃世。君をこの世界に連れてきて良かった」
「え?ショウが俺を?」
ショウは元気よく頷く。
そんなショウの反応とともに俺は金髪の彼との会話を思い出す。
彼は俺が転移してきたのは魔女の召還術によってかもしれないと推測していた。
そうだ、彼は魔女。彼なら召喚術も出来てしまうんだ。
「あ、璃世の考えてる事とは少し違うかも」
「え?」
「魔女といっても、所詮それは魔法が得意な人間なだけ。別世界からの人を連れてくるなんて、人間に出来ないよ」
「じゃあどうやって……」
「璃世には話さないとね。吾輩が璃世をこの世界に連れて来れたのは……」
明るい声音はどこかへ消え失せ、緊張した空気が走る。俺は唾をごくりと飲んだ。
「吾輩がこの世界の神様だから、だよ」
「……え、いや、ショウは魔女って」
「魔女はあくまで僕がこの世界に干渉するための設定ってだけ。
吾輩はね、この世界を救うために、璃世を連れてきたんだ」
「……………世界を、救う?一体、何を言ってる、んですか?」
話が飛躍しすぎていて、全く頭に入ってこない。
ガラス細工の依頼を受けたはずなのに、いつの間にそんな壮大な話になってるんだ?!
「ガラスを語れる友達ができるなんて……!」
ここまで必死で走ってきたからか。
それともガラスに理解ある初めての友人に出会えたからか。
この鼓動は静かな森で大きく響いた。
そんな時、スイが思いがけず、俺の腕の中から飛び降りて、深くに入っていく。
スイは黒い毛並みなのだから、一度見失うと闇に溶け込んでしまい探せなくなってしまう。
慌ててその背中を追おうとした時、不思議な現象が起こる。
自然とスイが向かっている場所が分かる。
スイが駆けた肉球の跡が地面に星のように輝いていたのだ。そのおかげで暗い闇の中を彷徨うことはなかった。
この森を出る時もスイのお陰だったけれど、帰る時も道標になってくれるなんて。
あの黒猫はなにか不思議な力を持っている気がする。
「おーいスイ~?」
愛猫の名前を呼びながら、輝く軌跡を辿っていく。
しばらく歩くと導かれるようにして、工房にたどり着いていた。
森の中にポツリと建つ古民家を見て、帰ってきたことを実感して昂っていた気持ちが静かに落ち着いていく。
一日空けただけで凄く懐かしいように感じる。
工房の入口には愛猫の影にしては大きすぎる黒い何かが見える。
ゆっくり、ゆっくりとそれに近づくと、それに気付いた向こうの方から距離を詰めてきた。
「……スイ?」
形から全く違うはずなのに無意識、その名を呼ぶ声が零れてしまう。
その声に気付いてか、闇に染った人影は闇から出てその姿を俺に見せた。
「お探しの黒猫じゃなくてごめんね。
キミが探しているあの黒猫は、また気になるモノを見つけたみたいだ。アレの安全は吾輩が保証するから安心して」
夜風に靡く短い黒髪。
ガラスのように澄んだ丸い水色の瞳。
白い肌に、桃色の頬。
身体を全て隠すような闇に溶けるローブを纏った、中学生くらいの少年。
とりあえず……
「あ、あの、どちら様ですか?」
少年は纏っていたローブを揺らめかせながら、俺の目下まで距離を縮め、俺の顔を覗き込む。
「ごめんごめん、自己紹介しなきゃだよね。
吾輩は、そうだな……この世界でいえば……魔女ってやつになるね」
魔女!彼が魔女、なのか。
金髪の彼から恐ろしいことばかり言われていたから、その正体がこんなに愛らしい少年だとは信じ難い。
彼が教えてくれた魔女の特徴は、絹のような黒髪に、1枚の布を巻き付けたような見慣れない服を着た……云々って言ってたっけ?
確かにさらさら黒髪だし、全身黒ローブで怪しいけど、強力な力を持っている魔女にしては、ちょっと可愛すぎる。
金髪の彼は男の俺が魔女でも疑わなかったけれど、やっぱり魔"女"って言うくらいだ。
目の前にいる本物の魔女様はボーイッシュな女の子なのか?
「全然、普通に雄!男の子だよ~!」
俺の考えを読み取ったように木霊するほどの大きな声で宣言する。
「摂理、でね……」
「え?」
その後の彼の言葉の意味が分からず俺が聞き返すと、無理やり誤魔化して話題を変える。
「吾輩のことは、気軽に……ショウって呼んで」
「わ、分かり、ました。ショウ、さん」
「タメ口、呼び捨て、ぷりーず!」
腰に手を当てて丸っこ頬を膨らませて、更に丸くする姿を見て、思わず可愛いと思ってしまった。
彼はめちゃくちゃ強いはず魔女なのにも関わらず。
人懐っこい姿に絆された俺は、彼が魔女という恐怖心はすぐに消え、彼のお願いを了承した。
「分かった、ショウ」
「良きかな良きかな」
満足そうに胸を張って、少しつり上がった目をとろんと垂れさせて笑う。
綺麗な美男子に、可憐な美少女、次は可愛い美少年。異世界、とんでもない。
目の前の愛らしい少年に癒されていると、彼もそれに勘づいたのか、ウインクをして更に心を掴んでくる。
そして懐に潜り込んでは、キラキラとそしてうるうるとした瞳で俺の方を見上げた。
「さて、璃世。こんな夜中に申し訳ないけれど、吾輩にキミの時間をくれないか?」
「え、あ、あぁ」
よく知らない人を家に入れちゃ行けません。
子どもでも分かるそんな簡単なことなのに、俺は気付けば彼の言葉に頷いて、誘うように工房の扉を開けていた。
彼は大丈夫だ、安心出来ると、直感が言っている。
俺の返事を聞いた黒髪の少年・ショウは、屈託のない笑顔を見せると、迷うことなく扉の中に踏み込んだ。
俺のことなど構わずに、元気に工房の廊下を駆けていく。
そして、迷うことなく応接間にたどり着くと、ソファに飛び乗って、後から来た俺を手招きした。
「ほら、適当に座って~」
「工房をさも自分ん家みたいに……」
俺もショウと相対して、ソファに腰を下ろすと、彼は一息ついて口を開いた。
「突然だけど璃世、エラとは出会えたかい?」
今、初めて会ったはずのショウから、エラとの一日を尋ねられ俺は一瞬狼狽えたが、全てを見透かされているような不思議な瞳を見て、彼は強力な力を持つ魔女だということを再認識した。
「……魔女様はなんでも知ってるんだな」
「当たり前でしょ。見てたもん」
ショウは手で輪を作ると、その穴を覗き込んで俺の方を見てクシャりと笑う。
……コイツ、自分が可愛いことを自覚してる。
俺は悶絶しそうな気持ちを抑えて、冷静なトーンで彼の質問に答えた。
「エラは、超いい子で、ガラスの素材を教えてくれて、沢山のものをくれて、本当に良くしてもらったよ」
それを聞いたショウはガラス玉のような瞳を輝かせて頷いた。
「うんうん!ねぇ、そのエラについてなんだけどね」
1拍置いて。声音をワントーン上げて、ショウは告げた。
「彼女さ、シンデレラなんだよね」
「シンデレラ……へぇ、シンデレラ。……シンデレラ!?あの童話の!?」
「そうそう。あの超有名な童話のシンデレラ!
実はね、この世界はシンデレラの世界なんだよ!」
ネット小説でもゲームの中でもなく、童話の世界に転移してしまっていたとは……。
予想だにしない展開に驚きつつも、転移してからこれまでの短い時間を振り返り、状況を確認する。
……あれ、でもシンデレラの物語に『ガラスは禁忌』とか、『銀髪や黒髪が排斥されている』とか、『恐ろしい魔女』とかいう設定あったっけ?
考えれば考えるほど、溢れ出るたくさんの疑問。
しかし、俺のそんな思考を止める、ショウの芯の通った声が響いた。
「そこでなんだけど、ガラス職人の璃世に依頼があるんだ」
「依頼?」
「ガラスの靴、作ってくれないかな?」
その言葉を聞いた瞬間、それまで考えていたことが吹っ飛ぶほどの衝撃に襲われる。
俺が作りたいものを、魔女が、ショウが欲している?!
興奮を隠せない感情をなんとか理性が制止した。
魔女は強大な力を持つ。それならば、ガラスの靴を作るくらい、俺に頼る必要ないはずだ。なぜ、彼はそれを俺に頼むのだろう。
「……魔女様の力で何とかできるんじゃ?」
「吾輩も魔法で何とかしよっかな~っと思っていたんだけれど、シンデレラの物語をよ~く思い出してみて」
ショウは長いローブの袖の中から魔法の杖を取り出し、くるくると回しながら問いかけた。
「魔法は0時になったら解けるのは知ってる?」
ショウの問いに続いて、昔読んだ記憶を辿っていく。
「ああ。だから、シンデレラが急いで舞踏会から去ろうとしたから、ガラスの靴を片方落として……」
俺が物語の大筋を語ろうとした時、ショウは大きな声をあげて、バシッと俺に人差し指の先を向けた。
「そう、そこ!それが《ガラスの靴》を魔法で作ったらダメな理由だよ!魔法が解けて0時で靴が消えてしまったら、王子様がシンデレラを探せない。
そしたらシンデレラと王子様が結ばれないでしょう?」
「たし、かに」
シンデレラの物語で《ガラスの靴》だけが残った。
それは《ガラスの靴》だけが魔法で作られていなかったから。
なら、それを作るのは……ガラス職人しか出来ない。
この世界で、俺ができること、俺にしか出来ないこと。
そう考えると、心臓が熱いぐらい早く音を刻む。
「お願いだ、璃世。この世界の大事なキーアイテムを作って欲しい」
ショウから伸ばされた手。
俺はしばらくの間それを見つめていた。
ショウを目の前にすると心の内が全部読まれてる気がする。
どうせ読まれるなら、最初から言葉にした方が格好はつくだろう。
エラから貰ったブローチを眺め、握りしめながら、取り繕わずに自分の気持ちを吐き出す。
「俺の夢はずっと変わらない。父さんの作品みたいな誰かの心を揺さぶる美しいガラス細工を作ること」
「うん」
「この世界に来て、やっと自由にガラス細工が出来るようになって、俺の作りたいモノを作ろうとしてきた」
「うん」
「俺が今、一番作りたいものは、俺の心を揺さぶった、父さんが作ったあの《ガラスの靴》だ」
その想いを吐露したあと、導かれた俺の結論は早かった。
「出来るかは分からない。でも、やってみたい」
俺が差し出されて手を掴んだ瞬間、目の前の少年の瞳は潤んでキラリとガラス……いや、天然の水晶のように輝いた。
ぎゅっと温かい手の温度を共有して、意志を確かめ合って数十秒、ゆっくりと手を離す。
その後、ショウは両手を上げて、足をバタバタとさせながら喜びを全身で表現した。
そんな様子を見るとこちらまで笑みがこぼれて来る。
そんなテンションで俺の隣に移動したショウは、俺の手掴むとを両手で包み込んで優しく微笑んだ。
「その言葉を待ってたよ!ありがとう、璃世。君をこの世界に連れてきて良かった」
「え?ショウが俺を?」
ショウは元気よく頷く。
そんなショウの反応とともに俺は金髪の彼との会話を思い出す。
彼は俺が転移してきたのは魔女の召還術によってかもしれないと推測していた。
そうだ、彼は魔女。彼なら召喚術も出来てしまうんだ。
「あ、璃世の考えてる事とは少し違うかも」
「え?」
「魔女といっても、所詮それは魔法が得意な人間なだけ。別世界からの人を連れてくるなんて、人間に出来ないよ」
「じゃあどうやって……」
「璃世には話さないとね。吾輩が璃世をこの世界に連れて来れたのは……」
明るい声音はどこかへ消え失せ、緊張した空気が走る。俺は唾をごくりと飲んだ。
「吾輩がこの世界の神様だから、だよ」
「……え、いや、ショウは魔女って」
「魔女はあくまで僕がこの世界に干渉するための設定ってだけ。
吾輩はね、この世界を救うために、璃世を連れてきたんだ」
「……………世界を、救う?一体、何を言ってる、んですか?」
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