ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏

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第2章 ここはシンデレラの世界らしい

29話 薬の秘密と計画 (三人称視点)

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馬車に乗り込んだエラを確認して、御者席に乗っていたクリスが馬を発進させる。

揺れる車の中で、エラは小瓶に入った桃色の液体を飲む。
するとみるみるうちに、彼女の銀髪は少しだけ金に染まり、美しいプラチナブロンドへと変化した。

手ぐしで髪を通して色を確認すると、エラは目の前に腰掛けているタルタルに尋ねる。

「ちなみにこの薬の副作用は?」

「主な副作用が髪の変色なんですよ」

「なるほど」と相槌をうって、エラはタルタルの説明に耳を傾ける。

「魔法と掛け合わせて使う場合は、反動が少し増える欠点ではありますが、それよりも得られるメリットが大きいのです」

「メリット?」

エラは少し大袈裟に聞き返す。

「サン王子はプリズメル王国における最強の魔法使いシャルルに次ぐ魔法の使い手、彼を殺すにはその魔法を封じる必要があります」

「それがこの薬ってワケね」

エラが空になった小瓶を振って尋ねると、タルタルは静かに頷いた。

「効能は《口付けした相手の魔法を封じることができる》というもの。そして、口付けをすれば髪色は元に戻ります」

「しなければ?」

「一日後死にます」

「おい、それが一番のデメリットだろ。タルタル、お前、わざと僕を逃げられないようにしたね」

エラの整った額が歪み、そこから紡がれる言葉は鋭い。しかし、それに対するタルタルは至って冷静だった。

「詳細を聞く前に飲んでしまう貴方の大胆さ、嫌いじゃないですよ」

その会話を聞いていたクリスが手網を引きながら横入りする。

「タルタルは最初に聞かなかったエラさまが悪いって言いたいんですよ」

タルタルの皮肉に内包された本音をストレートに伝えたことで、馬車に相対して乗っていた2人の空気は静まり返る。

エラはそれが図星であることは分かっていたが、二人の言い様には不服な様子だった。

ムスッとしてなかなか口を聞いてくれなさそうなエラに、タルタルの方が折れてさらに補足を付け加える。

「……もし!仮にも、失敗した場合は、そこの魔力を持たないハクビシンと無理やりキスさせて解除しますから安心してください、死にはしません」

「王子とするのもハクビシンとするのも最悪すぎる。ああ、僕はリヨとしたいのに!」

タルタルの付け足しが火に油を注いだのか、エラはさらに不機嫌になるが、その頃にはタルタルは彼女の顔色など気にせずに、淡々と計画説明をすることに切り替えていた。

「ワガママはそこまでにして、計画の詳細をお伝えしますね」

彼の冷静で刺すような声音に、先程まで頬をふくらませていたエラも表情を変えて真剣な面持ちになる。

「口付けをする際は必ずパーティー会場の横の控え室まで連れ込んで、周りの人間に見つからないように上手くやってください。そこから王子をどうするかは自由です。そのガラスの靴と一緒に好きなようにどうぞ。フォローは我々がいたします」

「分かった。嫌いなガラスに踏まれて歪むアイツの顔を見るのが楽しみだよ」

一連の流れを再確認したエラは恍惚な表情を浮かべ、赤い唇をペロリと舐める。

「ルヴェール王国の象徴で王子を屈服させるのは最高の復讐と革命への契機になるでしょうが、ただ。その前の舞踏会は極力歩幅を小さくし、踊る時も靴は見えないようにしてください」

「リヨの靴を見せびらかせないのは残念だけど、それはルヴェールを取り戻してからでいいか」

エラはリヨの作ったガラスの靴にゆっくりと足を入れる。

「ピッタリだ!」

子どものように無邪気に足をばたつかせて、自分の足に嵌められたガラスの靴をうっとりした表情で見つめる。

「低めのヒールで履きなれていないエラ様でも歩きやすそうですね。ただ、左足の方は大丈夫ですか?」

タルタルの視線の先には少し腫れた左足があった。リヨと会った日、街に行った時にしたケガだ。

「……大丈夫だよ。3日も経ってるんだ、痛みはひいてるよ」

エラの言葉を外から聞いていたクリスが、彼女を茶化すような声を投げる。

「いやぁ、好きな子の興味を引くためにわざと足を捻るなんてなぁ~」
「……わざとじゃない」
「いーや、わざとだったね、アレは」

少しの沈黙を置いて否定するエラに詰め寄るように、即座に返答するクリス。そんなクリスの言葉に気圧されて、エラは恥じらいを混じえた高く震えた声で小さく呟いた。

「……うるさい。だって、変な男に取られたくなかったんだもん」

エラは白い肌に浮かぶ、真っ赤になった頬を膨らませ、瞳を潤ませる。

「エラさまが……可愛い」
「……エラ様が恋をしている」

二人の騎士はエラのそんな姿に思わず絆されてしまっていた。

しばらくして、クリスの大きな声が中まで届く。

「言ってる間に、王宮が見えてきましたよ~!」

***
豪華絢爛の王宮の舞踏会会場には、溢れんばかりの参加者が集う。
王子が階段をおりてそこに立ち入ると、割れんばかりの歓声が響いた。

「きゃあ~サン王子よ!」
「サン王子~!」
「「「私と踊ってください!」」」

「順番にな」

王子はそんな女性の高い声に、頭をクラつかせながらも、それを一切見せない完璧な笑顔で丁寧に対応する。

女性たち顔と家名を自身の頭の中で照らし合わせ、問題や後腐れがないように、踊る順番を組み立てていく。

その時、自信に満ち溢れた低い声が王子を呼んだ。

「殿下」

王子が振り返ると、茶色く短い髪を、横に流して美しく整え、胸に手を当て立礼する青年が立っていた。

「お前は確かセレス伯爵家のドーラン殿だったか?」

「はい!覚えていただいているなんて、大変光栄です!こちら弟のシアでございまして、幼い頃から殿下をお慕いしているのです」

「ご紹介に預かりましたシア・セレスにございます。殿下、次のダンス、ぜひボクと踊って頂けませんか?」

ドーランの後ろから出てきたのは兄譲りの茶髪を三つ編みで一つにまとめた、大きな瞳を持つ愛らしい青年だった。

「もちろ……」

王子がその手を取ろうとした時。会場の入口の方からどよめきが聞こえ、彼も思わずそちらの方を向く。

「だ、誰だ、あの美しい娘は!」

誰がそう言ったのかは分からないが、きっとそれはこの会場全員の総意だっただろう。

人の波の中、遠くある光。
コツ、コツ、と高い靴の音が響き、その光はゆっくりと王子に近づく。
行く手を塞いでいた人々は、彼女の神々しさを目の前に自ずと、彼に繋がる道を開けていく。

そして、伏せていた目をまっすぐ彼の方に向けた。
キラキラと靡くプラチナブロンドの髪。
夜空を映したような煌びやかなドレス。
天使を思わせる愛らしく整った額。
そして、彼女のラベンダーの瞳はこの国の太陽を捕まえた。

「シア殿。すまない、また後ほど伺う」

「え、あ……」

王子はシアにそう言い残し背を向けると、ただ一直線に青く眩しい光の元へと導かれていく。
長いジャケットの裾を棚引かせ、跪いては彼女の手の甲に口付けを落とす。

「これはこれは麗しきご令嬢。よければ、俺と一緒に踊らないか?」

「……ええ、喜んで」
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