ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏

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第3章 王子様のトラウマ

37話 待つのは極刑……それとも

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真っ暗の闇の中、どこからか響く子どもの鳴き声。

『やめて、ください……もう……』

『煩いわね!』
『口答えする力は残っているじゃないか!』

耳が痛くなるような高い声と、若い男の少し嗄れた声。

『次はその忌々しい青い瞳を刺しましょうか』
『踵を削ぐのも良さそうです』

『や、やめ……て』

誰の声?誰が泣いてるんだ?
震えた声を絞り出して縋る子どもが、やめてと訴えているのに。

大人たちは、なんて残酷なことを口にするのだろう……

しかし、その闇の声はすぐに消えてしまい、それ以上を知ることは出来なかった。 

***

「目が覚めたか」

そんな低く落ち着いた声が、俺の少し上の方から聞こえてくる。

そうだ。
俺は、ガラスが禁忌の国でガラス細工を作って、捕らえられて。
これから尋問されて……処刑……されるのだろうか。
それならきっとここは独房の中で……。

恐る恐る目を開けると眩しい光が目に差し込んできた。

どうやら俺は寝転がっているらしく、景色は横向きに広がっている。

ゆっくりと周りを見回すと、そこは大きな部屋だった。
ずらりと並んだ本棚と、大きな窓、部屋の奥には書類が山積みにされ、その横には黒くて銀の金具が付いた頑丈そうな箱が置かれた机。

俺が寝ているのは、部屋の中心にあるソファ、らしい。

目の前には大きなローテーブルがあり、そこにも、向こうの机のものとはまた別に、紺色に金の金具の付いた箱がポツンとある。その箱は、黒い箱とは正反対に、柔らかい光を受けて静かに輝いているように見えた。

向かい側にも上質そうな生地で作られた、品のある赤のソファが設置されていて、なんか、超豪邸の一室、って感じがする。

頭を天井の方に向け、やっと声の方向に目をやる。
その声の主は俺の作ったガラスの靴を両手で持ってじっと見つめていた。

目を細めて見てみたり、シャンデリアの光に照らしたり、それはもうじっくりと、向ける瞳でそれを溶かしてしまいそうなほどに。

俺の視線に気付いた燦然と輝く美の結晶は、ガラスから俺に方向を変えると、シャンデリアの明るさなど霞んでしまうほど眩しく微笑みかけてくる。

俺はその輝きに目が眩んで、さっき向いていた方とは逆の方に頭を動かす。

すると顔にナニカが触れた気がした。

それは、男に付いている大切なもので……。布越しから分かるご立派なソレに限りなく近しいナニカ。

尽かさず俺は、頭を置いている枕を触る。

枕にしては硬く、温かみがある……。

ってこれ、膝枕……されてる!?

その状況に気づいた俺はすぐに起き上がり、彼と距離をとってソファの端っこに移動する。

金髪の彼は不思議そうに首を傾げると、不満気な面持ちでジワジワと近付いてくる。

「何故離れる?」
「い、いや、何となく……」

あっという間に距離を詰められ、ソファの肘掛と王子様に挟まれる。

彼は俺の顎を掴んで、俺が目を逸らせないように追い打ちをかけてきた。

澄み切った青い瞳を見るのは、鼓動が煩いせいで出来ず、潤った唇に視線を下げる。

が、それは間違いだった。

意識を失う前のキスを思い出してしまったからだ。
あんな食われるような、掻き乱されるような感覚。
それが再び蘇ると俺の身体は沸騰したように熱くなる。

「照れているのか?」
「……な、なんであんなこと!」
「お前が洗脳術を使ったと言うから、確かめただけだ」

初対面のときも強引にしてきたくせに。
この人は、俺に魔力がないのはとっくに気付いていたはずだ。

なのに、今回もまたしやがったってことは、面白がっているか、他の目的があったか。

案の定、目の前の男は俺が思考を巡らせているのを、面白そうに眺めているから、前者の推測は当たっていそうだ。

他の目的を考えてみれば……あのキスの後、急に意識が遠くなったんだよな。
このことからも俺を捕まえる気でいたのは明確だろう。
でも何故……。

彼と会話できる最後かもしれないこの時間を、疑問を解消することに使うことに決めると、豪奢な部屋を見渡して尋ねた。

「……どういう、ことですか」
「何がだ?」
「俺は……この国で禁止されているガラスを作って加工した、罪人のはず、なのに……どうしてこんな、所に……」

震えながら彼の真意を問う。
すると彼は、美しい額の眉間に皺を寄せ、頬を膨らませては、大きく息を吐いた。

「……まず、以前のように話せ。話はそこからだ」
「え」

思ってもみなかった王子様からの命令にたじろぐが、彼は俺の同様など気にすることもなく、持ち前の威圧感を醸し出す。

「俺のことはサンと呼べ。そして、友人に話すように砕けて話せと言っている」
「い、いや、そんなこと王子、様にできるわ、け」

あの時はまさか、王子様だとは思っていなかったから好き勝手言えたわけで、生殺与奪の権利を握られている俺がそんな無礼なこと出来るわけがない。

「……」

即座に拒否した俺に向けられたのは、八の字に曲がった眉に、潤ませた青い宝石眼。

目を細めると、薄らと垂れた耳やしっぽが見える……気がする。

なんだよ、しょげた犬みたいに……!

「わ、分かったよ。さ、サン……」

渋々俺が折れると、サンは無邪気な子どものように笑うと長い足を組んだ。

「では、本題に入ろう」
「うん」

俺の作品をどう思ったのか。
何故、ガラスが禁忌なのか。
俺をここに連れてきた目的は。
俺はこれからどうなるのか。

そんな疑問がたくさん浮かび、それを投げる準備をしていた。

「リヨ」

俺の名前を噛み締めるように告げた後、片手に持っていたガラスの靴を、ソファの前のローテーブルに置かれた高そうな紺色の布が敷かれている箱の中に収める。

大切そうに蓋を閉じ、立ち上がっては、本棚の奥にある重厚な金庫のようなものに閉じ込めた。
重要証拠として保存するのだろうか?
俺を処すために必要なものとして。

そんな俺の最悪の想像を補強するようにサンが言葉を重ねる。

「お前をここに連れてきたのは他でもない」

他でもない理由なんて……やっぱり、ガラスの製造についてだよな。
処罰を言い渡されることを覚悟した俺の心臓は破裂しそうだった。

サンはゆっくりと俺の前に戻ってくると。
ソファに座る俺に向かって膝をついて。
俺の手を大きな両手で包み。
真っ直ぐに俺の瞳を捕まえて。
少し頬を赤く染めて。
大きく息を吸って。
短い言葉を紡ぐ。





「リヨ、俺と結婚しよう」





「…………………………は?」
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