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第2章 ここはシンデレラの世界らしい
33話 屋根裏部屋で一夜 (視点変更あり)
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皆、舞踏会に行ってしまって王都の街は閑散としていた。
マントを身体に巻いたエラに手を引かれて、数日前に通った道を過ぎていく。
クリスとタルタルは、全裸で言い争いをしながらも、最後はネズミの姿になって俺たちの後ろを着いてきてくれているらしい。
豪華な豪邸の裏から入り、屋根裏部屋に案内される。
その間、彼女……彼と言葉を交わすことはなかった。
互いに重ねた手から伝わる熱を、どうにかしようとするのに精一杯だったから。
熱に身を委ねてしまえば、さっきの口付けを思い出して鼓動は早くなり視界が歪む。
だから、夜風に意識を逸らして何とか心を鎮めていた。
煤けた部屋に目を移す。
蜘蛛の巣が張り巡らされ、歩けば木の呻き声が響く。
そんな空間にエラと俺の二人だけ。追ってきていたはずのネズミとは影に溶け込んでしまったのか、それとも別の住処にいるのか、その姿は見当たらない。
エラは部屋についてすぐにマントを脱いで俺に返すと、「女の子用の服しかないんだよね」と笑いながら、ボロボロの棚から古びたワンピースを取り出してそれに着替えた。
長髪でも女性用の服を着ても、しっかりとした骨格、高い背だからか、美男子にしか見えない。
そうだ。エラは男だ。さっきのキスも何かきっと必要な行為で、あくまで友達。
だから、変な動悸とか体温の上昇なくなってくれ。
悶々としている俺にエラは優しく声をかけた。
「今日は一旦ここで寝て」
「お世話になって、ごめん」
「いや……僕にとってはご褒美っていうか」
「ん?」
エラが垂れた髪を耳にかけながら何かを呟いたが、俺はその意味が分からず首を傾げる。
すると、彼はクスリと笑って俺に声をかける。
「ううん。なんでもない。とりあえず、ここに座って」
たくさんの藁を敷き詰めて、その上に古い布を被せたベッドに腰をかけ、トントンと俺を横に座るように促した。
彼が妖艶に微笑むものだから、心臓がうるさくて仕方がない。それが聞こえないように、恐る恐る彼の横に座る。
「美しいガラスの靴について夜通し語りたいところだけれど。まずはリヨに大切な話を……」
エラが真剣な眼差しを向けてきた時、何かがプツリと切れたように彼の瞼がふわりと落ちて、彼の身体が俺にもたれかかってきた。
「エラ?」
「ごめん、0時になったから魔法を使っていた反動で眠くなって。特に今日はたくさん……」
魔法の反動で眠くなるのか。
金髪の彼もよく眠っていたけれど、もしかして魔法を沢山使っていたのだろうか。
まだまだ知らないことが多すぎる。
神様だというショウも全知全能って訳ではなさそうだし、エラの話を聞いて、俺もこの世界のことを彼に聞こう。
視線を自分の胸の中に移すと、そこには寝息を立てている天使がいる。
月夜に照らされ、銀髪が輝いていて、神々しささえ感じてしまう。
彼を起こさないように、頭を優しく抱えて藁の枕に乗せようとした時。
「……どこにも、行かせない」
寝言なのか、そんな甘えた声を出した彼は俺をベッドに凄い力で引き摺り込む。
そして抱き枕のように抱き締められてしまった。
抜け出そうにもビクともしない。
顔に触れている彼の胸板は固くて暖かい。
そして、髪を掠める彼の息。
この状況に加えて、さっきのキスの感触も思い出して、俺の心臓はどうにかなりそうになる。
友達友達友達!俺と寝てんのは友達!
あるだろ。お泊まり会とかで友達と寝ることぐらい!
お泊まり会したことないけど!
エラと会うまで友達いなかったけど!
そう必死に言い聞かせたが……
「リヨ、おはよう」
「……おはよう、ございます」
全く寝れなかった。
この日はめちゃくちゃ寝た後だったという原因もあったかもしれないが、それはきっと極少。疲れは全て取れたわけではないし、なんせ寝ていたのは工房の床だ。
寝れるならもっと寝れる身体ではあったはずなのに。
この状況が全くそうさせてくれなかった。
……しかし、目を擦り、微睡むエラが美しすぎて、一晩寝れなかったことなんてどうでもいいくらい浄化されてしまう。
俺がベッドから起き上がろうとすると、彼の強い力がそれを阻止した。
ベッドに横たわり向かいあった状態のまま、エラは撫でるように俺の名前を呼ぶ。
「さあ、リヨ……キミに話すべきことを話すよ」
そういう行為が終わった翌朝みたいな優しい声を出して、銀髪の色気溢れる美男子がもっと顔を近づけて真実を語ろうとする。
「クリスの言った通り僕は男だ。そして、僕の本当の名前は……」
本当の名前?
何か大切なことに触れることができそうだった時、窓から赤茶色のネズミが飛び込んできて、人の形に変わった。
「エラさま!マズイ、王子が騎士団を連れて伯爵家に来た」
クリス額に大量の汗を垂らしていて、声は上擦っている。お茶目な彼がこの状況であることが、それが緊急さを示していた。
「……どういうこと?」
ベッドから起き上がり、少し不機嫌そうな声でエラは詳しい事情を聞く。
同様に窓から入ってきて人型に変身したタルタルが、詳細を話す。
「ガラスの靴を作った人間を、王子が……探してるんです。恐らく、禁忌を犯した者を罰するために」
それを聞いた瞬間、俺の身体は氷のように固まってしまった。
***
(視点変更・三人称視点)
王都ルクスフィリア・セレス伯爵邸、別邸にて。
大量の騎士団員がその豪邸をの門前に佇んでいた。
そして、その中央には王家を示す王冠の紋章が着いた馬車がとまっている。
30歳ほどの見た目の深緑の短髪を持ち、一際目立つ甲冑を着けた屈強な男が、その馬車の横に控え、出てくる御仁に向けて手を差し出す。
ゆっくりとその馬車からでてきた男は、男の手を取りその美しい金髪を靡かせながら、真っ直ぐと邸宅へと向かう。
セレス伯爵は慌てて玄関の前に立ち、彼らを出迎える。
「セレス伯爵様、唐突の訪問で申し訳ございません。
王国騎士団団長のサーブと申します。昨日の舞踏会の参加者を連れてきてください」
「か、かしこまりました」
深緑髪の男、サーブが極めて威圧的なオーラを放ちながら、丁寧に願い入れると、伯爵は慌てて息子達を呼びつける。
「伯爵家にようこそ!騎士団長様……そして、殿下!」
嫡男のドーランは、突然の出来事に少し焦りながらも奥にいた麗人に気付き、輝くような笑顔を向ける。
そして、その横にいた身綺麗にした弟も、うっとりと彼に見惚れながらも自分の気持ちを率直に告げた。
「またお逢いできるなんて!」
シアは頬を紅く染めては、黄色い瞳をチラチラと青い澄んだ瞳に向ける。
しかし、王子はそれには見向きもせず、伯爵を睨んだ。
「2人だけか?」
「はい」
伯爵は即答だった。
しかしそれを信じていないようで、王子は、天井の方を見てもう一度問いかけた。
「嘘はないな?」
「……はい」
少しの沈黙にあともう一押しだと図った王子は、伯爵に近づいて、耳元で囁いた。
「カポ領」
「はい?」
「正直に話せばカポ領をやる」
カポ領は茶の収穫で覇権を握る地域。カポ茶の需要が高いこの国で、そんな領を貰える話など、伯爵にとってとんでもない儲け話だった。
従って彼は、プライドなど吐き捨ててすぐに白状する。
「も、もう一人、年頃の女がいます」
「連れてこい」
思った通りの返答に王子はニヤリと笑い命令した。
「しかし、アレは舞踏会なんぞに行っては……」
「俺はこの国の若者全てに招待状を送ったんだが?」
「は、はい」
王子が鋭い視線で伯爵を刺すと、彼は肩を跳ねさせ、急いで階段に向かう。
「エラ!すぐにこちらへ来い!」
伯爵は大きな声で屋根裏にいるエラを呼んだ。
マントを身体に巻いたエラに手を引かれて、数日前に通った道を過ぎていく。
クリスとタルタルは、全裸で言い争いをしながらも、最後はネズミの姿になって俺たちの後ろを着いてきてくれているらしい。
豪華な豪邸の裏から入り、屋根裏部屋に案内される。
その間、彼女……彼と言葉を交わすことはなかった。
互いに重ねた手から伝わる熱を、どうにかしようとするのに精一杯だったから。
熱に身を委ねてしまえば、さっきの口付けを思い出して鼓動は早くなり視界が歪む。
だから、夜風に意識を逸らして何とか心を鎮めていた。
煤けた部屋に目を移す。
蜘蛛の巣が張り巡らされ、歩けば木の呻き声が響く。
そんな空間にエラと俺の二人だけ。追ってきていたはずのネズミとは影に溶け込んでしまったのか、それとも別の住処にいるのか、その姿は見当たらない。
エラは部屋についてすぐにマントを脱いで俺に返すと、「女の子用の服しかないんだよね」と笑いながら、ボロボロの棚から古びたワンピースを取り出してそれに着替えた。
長髪でも女性用の服を着ても、しっかりとした骨格、高い背だからか、美男子にしか見えない。
そうだ。エラは男だ。さっきのキスも何かきっと必要な行為で、あくまで友達。
だから、変な動悸とか体温の上昇なくなってくれ。
悶々としている俺にエラは優しく声をかけた。
「今日は一旦ここで寝て」
「お世話になって、ごめん」
「いや……僕にとってはご褒美っていうか」
「ん?」
エラが垂れた髪を耳にかけながら何かを呟いたが、俺はその意味が分からず首を傾げる。
すると、彼はクスリと笑って俺に声をかける。
「ううん。なんでもない。とりあえず、ここに座って」
たくさんの藁を敷き詰めて、その上に古い布を被せたベッドに腰をかけ、トントンと俺を横に座るように促した。
彼が妖艶に微笑むものだから、心臓がうるさくて仕方がない。それが聞こえないように、恐る恐る彼の横に座る。
「美しいガラスの靴について夜通し語りたいところだけれど。まずはリヨに大切な話を……」
エラが真剣な眼差しを向けてきた時、何かがプツリと切れたように彼の瞼がふわりと落ちて、彼の身体が俺にもたれかかってきた。
「エラ?」
「ごめん、0時になったから魔法を使っていた反動で眠くなって。特に今日はたくさん……」
魔法の反動で眠くなるのか。
金髪の彼もよく眠っていたけれど、もしかして魔法を沢山使っていたのだろうか。
まだまだ知らないことが多すぎる。
神様だというショウも全知全能って訳ではなさそうだし、エラの話を聞いて、俺もこの世界のことを彼に聞こう。
視線を自分の胸の中に移すと、そこには寝息を立てている天使がいる。
月夜に照らされ、銀髪が輝いていて、神々しささえ感じてしまう。
彼を起こさないように、頭を優しく抱えて藁の枕に乗せようとした時。
「……どこにも、行かせない」
寝言なのか、そんな甘えた声を出した彼は俺をベッドに凄い力で引き摺り込む。
そして抱き枕のように抱き締められてしまった。
抜け出そうにもビクともしない。
顔に触れている彼の胸板は固くて暖かい。
そして、髪を掠める彼の息。
この状況に加えて、さっきのキスの感触も思い出して、俺の心臓はどうにかなりそうになる。
友達友達友達!俺と寝てんのは友達!
あるだろ。お泊まり会とかで友達と寝ることぐらい!
お泊まり会したことないけど!
エラと会うまで友達いなかったけど!
そう必死に言い聞かせたが……
「リヨ、おはよう」
「……おはよう、ございます」
全く寝れなかった。
この日はめちゃくちゃ寝た後だったという原因もあったかもしれないが、それはきっと極少。疲れは全て取れたわけではないし、なんせ寝ていたのは工房の床だ。
寝れるならもっと寝れる身体ではあったはずなのに。
この状況が全くそうさせてくれなかった。
……しかし、目を擦り、微睡むエラが美しすぎて、一晩寝れなかったことなんてどうでもいいくらい浄化されてしまう。
俺がベッドから起き上がろうとすると、彼の強い力がそれを阻止した。
ベッドに横たわり向かいあった状態のまま、エラは撫でるように俺の名前を呼ぶ。
「さあ、リヨ……キミに話すべきことを話すよ」
そういう行為が終わった翌朝みたいな優しい声を出して、銀髪の色気溢れる美男子がもっと顔を近づけて真実を語ろうとする。
「クリスの言った通り僕は男だ。そして、僕の本当の名前は……」
本当の名前?
何か大切なことに触れることができそうだった時、窓から赤茶色のネズミが飛び込んできて、人の形に変わった。
「エラさま!マズイ、王子が騎士団を連れて伯爵家に来た」
クリス額に大量の汗を垂らしていて、声は上擦っている。お茶目な彼がこの状況であることが、それが緊急さを示していた。
「……どういうこと?」
ベッドから起き上がり、少し不機嫌そうな声でエラは詳しい事情を聞く。
同様に窓から入ってきて人型に変身したタルタルが、詳細を話す。
「ガラスの靴を作った人間を、王子が……探してるんです。恐らく、禁忌を犯した者を罰するために」
それを聞いた瞬間、俺の身体は氷のように固まってしまった。
***
(視点変更・三人称視点)
王都ルクスフィリア・セレス伯爵邸、別邸にて。
大量の騎士団員がその豪邸をの門前に佇んでいた。
そして、その中央には王家を示す王冠の紋章が着いた馬車がとまっている。
30歳ほどの見た目の深緑の短髪を持ち、一際目立つ甲冑を着けた屈強な男が、その馬車の横に控え、出てくる御仁に向けて手を差し出す。
ゆっくりとその馬車からでてきた男は、男の手を取りその美しい金髪を靡かせながら、真っ直ぐと邸宅へと向かう。
セレス伯爵は慌てて玄関の前に立ち、彼らを出迎える。
「セレス伯爵様、唐突の訪問で申し訳ございません。
王国騎士団団長のサーブと申します。昨日の舞踏会の参加者を連れてきてください」
「か、かしこまりました」
深緑髪の男、サーブが極めて威圧的なオーラを放ちながら、丁寧に願い入れると、伯爵は慌てて息子達を呼びつける。
「伯爵家にようこそ!騎士団長様……そして、殿下!」
嫡男のドーランは、突然の出来事に少し焦りながらも奥にいた麗人に気付き、輝くような笑顔を向ける。
そして、その横にいた身綺麗にした弟も、うっとりと彼に見惚れながらも自分の気持ちを率直に告げた。
「またお逢いできるなんて!」
シアは頬を紅く染めては、黄色い瞳をチラチラと青い澄んだ瞳に向ける。
しかし、王子はそれには見向きもせず、伯爵を睨んだ。
「2人だけか?」
「はい」
伯爵は即答だった。
しかしそれを信じていないようで、王子は、天井の方を見てもう一度問いかけた。
「嘘はないな?」
「……はい」
少しの沈黙にあともう一押しだと図った王子は、伯爵に近づいて、耳元で囁いた。
「カポ領」
「はい?」
「正直に話せばカポ領をやる」
カポ領は茶の収穫で覇権を握る地域。カポ茶の需要が高いこの国で、そんな領を貰える話など、伯爵にとってとんでもない儲け話だった。
従って彼は、プライドなど吐き捨ててすぐに白状する。
「も、もう一人、年頃の女がいます」
「連れてこい」
思った通りの返答に王子はニヤリと笑い命令した。
「しかし、アレは舞踏会なんぞに行っては……」
「俺はこの国の若者全てに招待状を送ったんだが?」
「は、はい」
王子が鋭い視線で伯爵を刺すと、彼は肩を跳ねさせ、急いで階段に向かう。
「エラ!すぐにこちらへ来い!」
伯爵は大きな声で屋根裏にいるエラを呼んだ。
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